メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆
視界から集められた情報を判断する際、脳は優れた能力を駆使して効率的に処理に当たっています。とはいえ、その工程が複雑化すればするほど、脳は処理に時間がかかるようになったり、間違いを起こすようになったりします。今回は、一見簡単なようで、実は脳を迷わせるやっかいな問題です。
推論の能力と左右の識別能力で図形の違和感に気づくかどうかに挑戦
早速ですが、今回の問題です。「皆さん、手を挙げてください」とお願いしたら、上のイラストのようになりました。このイラストに描かれた人物の中で、1人だけ挙げ方が違う人がいます。皆さんは誰だか分かりますか。
ここから皆さんが解答に行きつくために必要なのは、主に二つの能力です。一つは論理的に考える推論の能力、もう一つは回転によってだまされないための左右の識別能力です。推論の能力とは、今回の課題では問題のとらえ方を思考する能力のことです。注目してほしいのは、問題の中でも「挙げ方が違う」という部分です。
ひと口に「挙げ方が違う」といっても、いくつものとらえ方が考えられますね。例えば、指の形、持っている物、挙げるひじの角度などと考える人がいるかもしれません。さて、イラストに描かれた人物を見てみましょう。
今回の絵では、合計14人の人物が描かれています。皆さんは7人の人物がそれぞれ2回ずつ描かれていることに気づかれたでしょうか。同じイラストばかりであれば、問題文にある「1人だけ」に該当しません。
ここまで考えた人は「挙げた手の左右が違うのでは?」と気づいたのではないでしょうか。もしかしたら、最初から手の左右と考えた人がいるかもしれません。とはいえ、パッと見にはすべての人物が右手を挙げているように見えると思います。
ここで必要なのが二つ目の能力である、左右の識別能力です。何回かこの連載でご紹介しているメンタルローテーション(心理的回転)の図形が皆さんの思考を妨害しています。「同じ図形を少しずつ回していくと、回転角度が大きくなるにつれて元の図と同じかどうかの判断がつきにくくなる」という現象です。つまり、45度より90度、180度と回されたほうが図形を認識することが難しくなります。
今回、メンタルローテーションを意識して最上部の左側に右手で指揮棒を振っている燕尾服の男性のイラストを描きました。実は、180度回った右下の燕尾服の男性は、〝左手〟で指揮棒を振っています。
今回の問題では、推論と左右の識別能力のほか、図形把握能力や注意力も不可欠です。簡単すぎると思った方もいらっしゃれば、説明されてもふに落ちないと感じた方もおられるでしょう。ある意味、感想が大きく分かれる問題かもしれません。