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植えつけられた先入観がじゃまをする「字と図」の顔

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

人間の脳は思ったよりあてにならないものです。以前取り上げた「図と地」では、一度何かを認識すると、ほかの形としてはとらえにくくなるという脳のしくみをご紹介しました。今回はそれを応用した問題です。みずからの先入観に打ち勝つことはできるでしょうか。

文章や常識という先入観を利用して難解になった「字と図」の顔の問題に挑戦

「字と図」の顔問題に挑戦!

まずは、上の問題を解いてみましょう。じっくり時間をかけてしまうと、難易度が上がってしまうかもしれません。

「ルビンの壺」の一例

さて、何度かこの連載でご紹介している「図と地」の考え方を、皆さんはすでに理解しているでしょうか。「図と地」の考え方を利用したイラストで代表的なものが、『ルビンの(つぼ)』です。ルビンの壺は、「壺」にも「向き合った二人の横顔」にも見えるという特徴があります。視野に二つの領域が存在するとき、背景から分離して認識される部分を「図」といい、背景となるものを「地」といいます。

人間の脳は思っているほど性能がいいものではなく、一度図としてものを認識してしまうと、地の部分は視界に入っても認識できなくなってしまいます。つまり、先入観を持ってしまうと、別の視点を持つのはなかなか困難だといえるのです。

今回の問題のテーマは「字と図」です。より詳しく説明するなら「文字と先入観を使った問題」です。皆さんは、先入観に脳を支配されることなく、問題を解くことができたでしょうか。

今回の問題には二段構えの仕掛けがあります。一つ目の仕掛けは「怒った顔」という記述です。怒った顔といわれると、確かに怒った顔に見えるから不思議なものです。

とはいえ、これだけで「顔にしか見えない」という思考にはならないと思います。ですが、今回はそれで十分。いちばん重要なのは問題文の後半にある「ほかの二とおり」という部分で思考に歯止めをかけることです。

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

「図と地」において、〝図〟と〝地〟の両方を同時に認識できないのが普通の脳です。今回は文章の中で「図と地」の考え方を応用しました。「怒った顔」という言葉のせいで、「二とおり」についても〝表情が二とおりある〟という先入観が植えつけられなかったでしょうか。

二つ目について解説する前に、先に正解をお伝えしましょう。正解は平仮名の「おもて」と「うら」です。いわれてみると、なるほどとすぐに納得できると思います。

二つ目の仕掛けは文字の読み方です。顔だといわれても、このイラストが文字で構成されていることには、すぐにお気づきでしょう。最初に目に付く文字は、おそらく「おもて」だと思います。目の部分を構成している「お」、鼻の部分を構成している「も」、口の部分を構成している「て」、これらは比較的簡単に認識できるのではないでしょうか。

問題なのは「うら」のほうです。もしかしたら、答えを告げられてもまだどこにその言葉があるか見つけられていない人がいるかもしれません。この「うら」に気づくには発想の転換が必要なのです。

さて、まずは「うら」という言葉がどこにあるかをお伝えしましょう。実は、「うら」という言葉は鏡像(鏡に映った姿のように左右反転している形)になっています。「お」の一部が「う」に、「も」と「て」のそれぞれの一部が「ら」になっていることが分かるでしょうか。

「うら」を鏡像で示したのは仕掛けであり、しゃれでもあります。「おもて」という言葉から「うら」という単語を思い浮かべた人は、早めに答えにたどりついたかもしれません。逆に、文字の形が先入観で固まってしまい、鏡像になっているという発想にたどりつかなかった場合は、難易度が高くなると思います。

今回は「字と図」という問題で〝表情が二とおりあるのではないか〟と誘導したり、「うら」という文字を鏡像にしたりして先入観に挑んでもらいました。先入観にとらわれずにものを見るというのは、やはり難しいといえるでしょう。

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