徳島赤十字病院麻酔科医師 郷 正憲
麻酔科で行われる神経ブロックは痛みの伝達を遮断する効果的な鎮痛療法
人は誰しも「痛み」を避けたいものです。痛みがあると、単に「痛い!」という不快な感覚を覚えるだけでなく、体に大きなストレスがかかります。その結果、交感神経の活性化やストレスホルモンの分泌などによって体内の環境が悪化して、持病の悪化や心筋梗塞や脳梗塞といった重篤な病気を引き起こすこともあるのです。
つまり、痛みは決して我慢するものではなく、適切な治療によって和らげなければなりません。私たち麻酔科医や整形外科医のもとで行われる「神経ブロック」は、さまざまな原因によって起こる痛みの治療法の中でも特に直接的に痛みを抑える技術です。
そもそも、痛みはどのようにして感じるのでしょうか。痛みは大きく分けて三種類あります。それぞれの痛みは感知や伝わり方が異なり、痛みの感じ方にも特徴があります。
● 体性痛
一般的に、皮膚や筋肉、骨などが感じる痛みです。これらの場所には痛みを検知するセンサーがあり、痛みを検知すると、その情報が神経を通して脊髄や脳へと伝わって痛みを感じます。
● 内臓痛
内臓に感じる痛みを内臓痛といいます。正常に内臓が機能しなくなった時などに痛みを感じるようになります。腸が張ったり、血流が悪くなったりすると異常を伝えるために神経が痛みとして情報を伝達します。
● 神経障害性疼痛
神経障害性疼痛とは、その名のとおり神経が障害されることによって起こる痛みです。神経障害性疼痛はビリビリ・ジンジンとした痛みが特徴で、大きく二種類に分けられます。一つ目は神経自体が刺激を受けて起こる痛みで、もう一つは神経が修復される時の痛みです。私たちの神経は損傷を受けると修復が行われますが、その際にも痛みを感じてしまいます。しかも、神経の修復には非常に長い期間がかかるため、痛みも長く続いてしまうのです。
このように、痛みというのはすべて神経によって伝わります。神経ブロックは、痛みを伝達する神経自体に局所麻酔をして一時的に痛みを緩和したり、場合によっては神経自体を破壊したりすることで痛みを感じさせなくする治療です。内服や点滴の薬では痛みを完全に止めることはなかなかできませんが、痛みが伝わらないようにする神経ブロックによって痛みの伝達をしっかりとブロックできれば、ほとんど痛みを感じない状態にもできるのです。
神経ブロックは非常に多くの種類があり、神経の数だけ存在するといっても過言ではありません。ここでは、痛みごとに神経ブロックの種類を紹介します。
● 体性痛に対する神経ブロック
腰痛や肩こりに対して使用されます。痛みがある患部に注射をするトリガーポイントブロックと呼ばれる神経ブロックや、痛みを伝える神経を特定して神経に麻酔をする神経ブロックなどが代表的です。
● 内臓痛に対する神経ブロック
一般的にはあまり行われませんが、末期の膵臓がんなど、鎮痛薬でコントロールできない痛みに対する神経ブロックです。
● 神経障害性疼痛に対する神経ブロック
神経が修復される過程で痛みを感じていると判断した場合に行います。特に多いのが、腰部脊柱管狭窄症や、帯状疱疹の後遺症として痛みが残る帯状疱疹後神経痛に対する神経ブロックです。
● その他の神経ブロック
手掌多汗症など、自律神経の異常によって起こった症状に、神経ブロックで改善を目指すことがあります。
神経ブロックは出血や感染症のおそれがある糖尿病の患者さんは要注意
基本的に、神経ブロックは高齢者を含むほとんどの方に行うことができます。ただし、神経ブロックの合併症として挙げられる出血や感染症を起こしやすい人には神経ブロックを行いにくくなります。特に、穿刺部の感染が懸念される血糖値のコントロール不十分な糖尿病の患者さんには神経ブロックを避けることが多くなります。また、末期の糖尿病性神経障害など、神経が高度に障害を受けている場合も神経ブロックは受けられません。
ブロック注射は局所麻酔によって行われ、痛みの遮断効果が切れると痛みがぶり返すことも多く見られます。局所麻酔薬の効果が切れるまでには個人差があるため、神経ブロックの効果には個人差が出てしまいます。
また、神経ブロックの効果は、もともとの痛みの原因や状態にも左右されます。特に神経の修復が関わる痛みは頑固です。ただし、神経ブロックの効果がすぐ切れてしまう人でも、神経ブロックを繰り返して受けることでだんだんと痛みが改善していく場合もあります。一度の神経ブロックで効果を判断せずに、医師と相談しながら根気強く治療することをおすすめします。