久我山整形外科ペインクリニック院長 佐々木 政幸
ふだんの生活動作によって筋肉が傷つき骨格がゆがんで痛み・しびれ・凝りを招く
ふだんの生活動作がどれだけ体に負担がかかっているかを意識している方は少ないのではないでしょうか。腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)は加齢によって起こる場合が多いものの、ふだんの生活動作による負担が積み重なって起こっている場合も少なくありません。
中腰になって重い荷物を持ち上げたり、座ったときに足を組んだりするなどの無意識な動作は、体の一部分に過度の負担をかけています。体に負担がかかる動作が日常的に続くと、筋肉は疲労して傷つき、体を支えている骨格もずれてゆがんでしまいます。その結果、体の不調を知らせるサインとして、痛みやしびれ、凝りなどの症状が起こるようになります。
体が痛くて動くのもおっくうになる生活が続くと筋力が低下して血流が悪くなるため、疲労物質や老廃物が体内にたまります。すると、少し動いただけでも敏感に痛みを感じるようになって「痛いから動きたくない」「動かないから余計に痛みが悪化する」という悪循環に陥ってしまうのです。負の連鎖を断ち切るためには、痛みのもととなる日常生活での間違った動作を正すことが先決といえます。
間違った動作の原因は体のゆがみであり、背骨や骨盤などの骨の位置や筋肉のバランスがくずれていることといい換えられます。頭部と背骨、背骨と骨盤、骨盤から足の骨へと体はすべてつながっているため、どこか一部分に強い負荷がかかると全体のバランスがくずれ、体の節々が連動してゆがみが生じるようになるのです。
体のゆがみを正すポイントには次の3つが挙げられます。
● 骨で支える
背すじが曲がって背骨で体が支えられていない状態では、不必要な筋肉が酷使されてしまいます。その結果、筋肉が疲労・損傷を起こして痛みを招きます。理想的なのは背すじがまっすぐ伸びた状態で、背骨が柱のように体を支えることで筋肉に対する負荷が軽減されます。
● 骨盤の位置を正す
体がゆがみやすい場所の1つに骨盤があります。骨盤はお尻や腰回りを支える骨格のことで、仙骨や左右の寛骨、尾骨からできています。
骨盤がゆがむと、つながっている背骨のバランスがくずれてしまいます。すると、背骨のバランスを正そうとして周辺の筋肉が収縮して補おうとするため、過剰に負荷がかかってしまうのです。その結果、脊柱管狭窄症が悪化して下肢の痛み・しびれを引き起こすようになります。
● 体幹を鍛える
体幹は頭や両腕、両足を除く胴体部分の骨格や筋肉のことです。体幹の深層部には「インナーマッスル」と呼ばれる筋肉(横隔膜、多裂筋、腹横筋、骨盤底筋群)があり、体を支える役割を担っています。しかし、インナーマッスルの筋力が低下すると、体のバランスがくずれて骨格がゆがんでしまうため、脊柱管狭窄症が増悪することが少なくありません。
どんなに脊柱管狭窄症の治療を行っても、ふだんの生活動作が悪ければ、改善は一時的ですぐに悪化してしまいます。痛みやしびれ、凝りという〝枝葉〟の改善だけでなく、間違った生活動作という〝幹〟を正しくすることで治療の効果も向上します。
そこでおすすめなのが、私が考案した「らくらく動作」です。らくらく動作を実践・習慣化することで体の負担が軽くなり、脊柱管狭窄症が改善するようになります。
今回ご紹介するらくらく動作は「洗顔」「調理」をする際に役立つものです。どちらも毎日行う動作のため、間違った動作をしていると体のゆがみを招いてしまいます。らくらく動作によって体の負担が軽減される結果、脊柱管狭窄症の痛み・しびれは快方に向かいます。
脊柱管狭窄症は前かがみになるとらくになるが、続けていると硬直して痛みが増悪
脊柱管狭窄症で悩んでいる患者さんの場合、前かがみの姿勢になると症状がらくになります。しかし、普段から前かがみの状態で多くの時間を過ごすと筋肉が硬直して血流が悪化してしまい、正しい姿勢に戻すことが困難になります。脊柱管狭窄症を悪化させないためには、30分おきに無理のない範囲で上体を後ろに反らせて筋肉を硬直させないようにしましょう。
らくらく動作以外には、1日3回ほどゆっくりとラジオ体操をするのも有効です。幼少期に行ったラジオ体操は体が慣れ親しんだ動きなので自然と動く方が多く、継続しやすいのが特徴です。ラジオ体操をゆっくり行うのは、急な筋肉の収縮を起こすことなく全身を動かすためです。高齢者の場合、速い動きは筋肉を肉離れのように傷つけてしまうおそれがあるため、深呼吸しながら行うと血流がよくなって効果を高めます。