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原因不明といわれつづけた激痛の原因が判明!あなたの痛みが線維筋痛症かどうか分かる[線維筋痛症スクリーニング質問票]

線維筋痛症

日本橋リウマチ・ペインクリニック院長/東京医科大学八王子医療センター兼任教授 岡 寛

線維筋痛症の推定患者数は約200万人と8000人規模の高精度疫学調査で判明

[おか・ひろし]——1986年、聖マリアンナ医科大学卒業。東京大学医学部物療内科、医学博士。カリフォルニア大学サンディエゴ校リウマチ科フェロー、聖マリアンナ医科大学難病治療研究センター准教授、同副センター長、東京医科大学八王子医療センターリウマチ性疾患治療センター教授を経て、2022年から現職。線維筋痛症研究班班長、日本線維筋痛症学会幹事兼代表事務局、日本線維筋痛症学会会長などを歴任。Best Doctors in Japan(2012-2013・2020-2021)を2回受賞。

皆さんやその周辺に、何ヵ月も「首が痛い」「肩が痛い」「腰が痛い」と悩んでいる人はいませんか? 痛みの程度が最大の状態を10、痛みがまったくない状態を0と数値化した時に、5以上の痛みが3ヵ月以上続いている場合を慢性疼痛(まんせいとうつう)(しょう)といいます。線維筋痛症(せんいきんつうしょう)は、この慢性疼痛が全身に拡大した疾患です。

私は長年、慢性疼痛症や線維筋痛症の研究・治療に携わり、今年で37年がたちました。線維筋痛症研究班の班員・班長や日本線維筋痛症学会会長といった重職を歴任し、現在は日本有数の線維筋痛症の治療が受けられる日本橋(にほんばし)リウマチ・ペインクリニックの院長として、慢性疼痛症や線維筋痛症の患者さんの診療にあたっています。

線維筋痛症は、原因が分からず発症し、根本的な治療も確立していない深刻な難病という印象をお持ちの人が多いと思います。しかし、医学は日進月歩で進んでいます。線維筋痛症の発症原因も少しずつ解明されてきているのです。

早速ですが、下の「線維筋痛症スクリーニング質問票」でご自身の過去3ヵ月間を振り返り、当てはまる答えをチェックしてみてください。あなた自身はもちろん、多くの医療機関で検査を受けても痛みの原因が分からず、関節リウマチと疑われた経験のある人が周りにいる場合は、その方にも質問票を見せてチェックしてもらうことをおすすめします。

なぜなら、線維筋痛症と正しい診断を受けて適切な治療を受けている患者さんは、推定患者数の1%にも満たないからです。線維筋痛症の推定患者数は、約200万人といわれています。この推定患者数は、私が線維筋痛症研究班の班員として研究に携わった時、実際に行った調査から導き出しています。

疫学(えきがく)調査は、8000人の住民票から無作為に人を抽出し、3ヵ月以上の痛みがあり、精神科の治療歴がない患者さんが線維筋痛症の診断基準を満たすかどうかという方法で行いました。

該当する患者さんには私を含む専門医のいる病院や診療所まで足を運んでいただき、図の診断基準である圧痛点を実際に押して診断しました。その結果をPopulation Based Study(標本調査)という方法で調べると、線維筋痛症の患者さんは人口の1.66%にあたることが判明したのです。日本の人口(約1億2000万人)に換算すると、約200万人の患者さんがいると分かりました。

標本調査は、ある集団の中から一部の調査対象を選び出し、その情報をもとに元の集団全体の状態を推計する調査法です。調査の対象とされている「元の集団全体」のことを「母集団」と呼びます。標本調査の目的は、標本を用いて母集団の状況をできるだけ正確に復元推計することです。

慢性疼痛から始まる痛みは慢性広範囲疼痛へと進み、最終地点が線維筋痛症と分類

線維筋痛症の前段階として、慢性広範囲疼痛という病態があります。慢性広範囲疼痛は、図の診断基準で圧痛点の数が5ヵ所以上・11ヵ所未満の場合をいいます。該当者数は多く、線維筋痛症の約4倍と考えています。痛みの流れを整理すると、慢性疼痛に始まった痛みは慢性広範囲疼痛になり、進行した最終地点が線維筋痛症です。線維筋痛症は慢性疼痛のスペクトラム(連続体)であるため、原因不明で悩んでいる患者さんは想像以上に多い現実があります。

専門的な話になりますが、痛みには主に三つの原因があると考えられ、線維筋痛症は痛覚変調性疼痛に該当します。痛覚変調性疼痛とは、痛みの発生に関わる脳の神経回路(ネットワーク)の変化で起き、体の組織や神経、神経回路に損傷がなく起こる痛みを指します。

線維筋痛症の発症理由は、現在も解明されていません。しかしながら、線維筋痛症の痛みは、痛みのある部位に原因があるのではなく、痛みを痛みとして感じる脳のネットワーク(回路)が過敏になって起こることが分かっています。脳に刻み込まれた痛みの記憶が再現されやすくなっている状態を中枢感作(ちゅうすうかんさ)といい、なんらかの刺激によって体の節々が「痛い」と感じてしまうのです。また、「風に当たる」「手がそっと触れる」といった通常では痛みを感じない刺激でも、激しい痛みが起こる状態(アロディニア)になっている場合が少なくありません。

また、近年の研究によって線維筋痛症の慢性疼痛は、脳内の細胞が炎症を起こすことによって起こることも分かってきました。最新の画像技術であるfMRI(磁気共鳴機能画像法)という機能的に中枢神経を刺激して調べる方法と、PET(ポジトロン放出断層撮影装置)という特別なリガンド(ある物質に特異的に結合する物質)を使用して脳内のミクログリアという細胞のどこが活性化しているかを調べた報告があります。その結果、慢性疼痛や線維筋痛症の患者さんは大脳辺縁系(だいのうへんえんけい)後帯状回(こうたいじょうかい)という部分がいちばん反応していることが分かったのです。

大脳辺縁系は、不安や恐怖など情動的な痛みの情報をつかさどる機能があります。また、後帯状回は、海馬(かいば)や海馬周辺皮質と相互に情報のやり取りをして学習や記憶になんらかの役割を果たしています。さらに、感覚皮質や運動皮質とのやり取りを通して、空間認知や空間行動に関連した機能の役割があるといわれています。

慢性疼痛や線維筋痛症の患者さんに大脳辺縁系の後帯状回に炎症が起こっていると分かったことは、医学界にとっての〝パラダイムシフト〟といっても過言ではありません。パラダイムシフトとは、当然と考えられていた物の見方や考え方が劇的に変化することをいいます。

線維筋痛症は原因不明ではなく「器質的疾患」と判明し検査で分かる環境が整いつつある

今までの医学において慢性疼痛症と線維筋痛症は、臓器になにも異常が見られないのに自覚症状だけがある「機能的疾患」と考えられてきました。しかし、最新の技術によって慢性疼痛や線維筋痛症は、脳そのものに炎症があり、その結果としてさまざまな症状が出現する「器質的疾患」と考えられるようになったのです。

医師から「病名が分からない」「痛みは勘違いではないか」といわれ、数え切れないほどの病医院や診療科をたらい回しにされた経験を持つ患者さんは多いと思います。しかし、これからは検査によって脳の炎症が確認されれば、「線維筋痛症」と診断される環境が整いつつあるのです。

現在、線維筋痛症の治療は薬物療法が一般的ですが、私のクリニックでは薬を用いる「鎮静(ちんせい)」と人間が本来持つ生命力である「自然治癒力(しぜんちゆりょく)」の二軸で治療を行っています。鎮静には、リリカやサインバルタ、トラムセットなどの治療薬を用います。自然治癒力には、疼痛治療剤であるノイロトロピンや漢方薬、運動療法、温熱療法、治療機器を用います。薬の服用量を減らしながら自然治癒力を高めることで、慢性疼痛や線維筋痛症は改善します。

上の線維筋痛症スクリーニング質問票で「線維筋痛症の疑いがある」と分かった場合は、私のクリニックや日本線維筋痛症・慢性痛学会診療ネットワークに所属する医療機関に相談しましょう。慢性疼痛や線維筋痛症は、最適な治療を受けることで改善が見られ、生きる希望を取り戻したり社会復帰できたりする時代になったといえます。痛みで動くことすらつらいと思いますが、一度、専門医のもとで診察を受けることをおすすめします。

岡寛先生が診療されている日本橋リウマチ・ペインクリニックの連絡先は、
〒103-0027 東京都中央区日本橋3-8-13 華蓮日本橋ビル3F ☎03-6262-3015です。