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イグ・ノーベル賞を受賞した医師が緊急提言!コロナ禍以降、ヘルペス患者急増の理由とは?

皮膚科

木俣肇クリニック 木俣 肇

新型コロナウイルスでヘルペスウイルスが再活性化し帯状疱疹や単純ヘルペスが増加

[きまた・はじめ]——1977年、京都大学医学部卒業。米国カリフォルニア州立大学ロサンゼルス校に留学し、アレルギーの研究に従事。ステロイドホルモンを使わない治療を行い、多くのアトピー性皮膚炎患者を完治に導いている。日本アレルギー学会(評議員)、日本小児アレルギー学会、日本ラテックスアレルギー研究会、日本笑い学会に所属。2015年9月にイグ・ノーベル賞医学賞を受賞。

2023年5月、新型コロナウイルス感染症は感染症法上の位置づけが「2類相当(結核、SARSなど)」から「5類(季節性インフルエンザなど)」となりました。それに呼応するかのように海外からも多くの観光客が日本を訪れ、以前のような活気を取り戻しつつあります。

しかし、新型コロナウイルス感染症が収束したわけではありません。現在、新型コロナウイルス感染症が再び拡大しており、感染力が強いとされる新たな変異株(KP.3)が流行を広げているといわれているのです。

近年の研究で、新型コロナウイルス感染症に罹患りかんすることや新型コロナワクチンを接種することで、ヘルペスウイルスが再活性化することが報告されています。ウイルスの再活性化の背景には、体が本来持っている異物から体を守る免疫力の低下があります。免疫力の低下に伴って、帯状疱疹たいじょうほうしんや単純ヘルペスを引き起こす患者さんは少なくありません。

帯状疱疹と単純ヘルペスはどちらも水疱すいほう(水ぶくれ)を形成するため、違いがよく理解できずにいる方は多いのではないでしょうか。ひと口に「ヘルペス」といっても、帯状疱疹と単純ヘルペスでは、それぞれ症状や原因となるウイルス、感染経路、経過などが大きく異なります。

帯状疱疹は、主に体の片側に赤い発疹ほっしんが帯状に広がり、強い痛みが起こるウイルス性の疾患です。帯状疱疹の原因は、子どもの頃に感染した水ぼうそうウイルス(水痘すいとう・帯状疱疹ウイルス)です。水ぼうそうが治った後もウイルスは体内の神経節(神経の中継所)に潜伏しており、加齢や過労、過剰なストレス、病中病後などで免疫力が低下すると、ウイルスが再活性化して帯状疱疹を引き起こします。

悪化すると「服が触れるだけでも痛みが起こる」といわれる帯状疱疹ですが、通常は発症から3週間~1ヵ月程度で皮膚症状が治まります。帯状疱疹のやっかいな点は、後遺症の神経痛が残るおそれがある点です。

後遺症の神経痛が残ると、数ヵ月から長い人だと数年にわたって激痛が続く場合があります。患者さんによっては、「針で刺されるような痛み」「火ばしで焼かれるような痛み」と表現する激痛が長く続くこともあるのです。かつては、帯状疱疹の発症前後の痛みと後遺症の痛みを区別していましたが、時期と痛みの境界が曖昧なことから、近年では「帯状疱疹関連痛(ZAP)」と総称するようになっています。

一方の単純ヘルペスは、単純ヘルペスウイルス(HSV)が皮膚や粘膜ねんまくに感染して引き起こされる疾患です。初感染時はウイルスに対して免疫を持っていないため、高熱などの全身症状を伴って重症化しやすい傾向があります。再発時はすでにウイルスに対して免疫ができているため、一般的に軽症になります。

単純ヘルペスウイルスは、生物学的、物理化学的、免疫学的差異からHSV-1とHSV-2の2型に分類されます。初感染後、知覚神経節の神経細胞の核内に遺伝子の形で潜伏し、免疫力の低下に伴ってHSV-1は口唇こうしんヘルペスやヘルペス性歯肉口内炎など、HSV-2は性器ヘルペスなどを引き起こします。

帯状疱疹、単純ヘルペスの予防・改善には免疫力の向上が必須でスキンシップも有用

単純ヘルペスウイルスは、体のどこにでも感染する可能性があります。したがって、部位別に「ヘルペス性歯肉口内炎」「口唇ヘルペス」「顔面ヘルペス」「角膜ヘルペス」「性器ヘルペス」「ヘルペス性ひょう(手指に感染したもの)」「臀部でん ぶヘルペス」「ヘルペス性脳炎」などと呼ばれています。新生児の場合は「新生児ヘルペス」と呼ばれます。また、アトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略す)などの皮膚疾患に単純ヘルペスが合併する場合は「カポジ水痘様発疹症すいとうようほっしんしょう」と呼ばれます。

当院では、ステロイド外用薬や免疫調整外用薬のタクロリムス外用薬(プロトピック軟膏)を使わず、保湿剤も保湿剤依存症にならないように最小限の使用にとどめてアトピーの治療を行っています。ここ数年のコロナで肌で感じているのが、アトピーの合併症としてカポジ水痘様発疹症を患う患者さんが急増している事実です。その背景には、免疫力低下による単純ヘルペスウイルスの再活性化があると考えられます。

また、新型コロナウイルスワクチン接種後に診断がつかない原因不明の皮膚疾患に悩んでいる患者さんも少なくありません。実際に当院を受診された患者さんを調べた結果、原因が単純ヘルペスであると突き止めることができました。

帯状疱疹のように発症部位が分かりやすい場合は正しい診断を下しやすいのですが、単純ヘルペスの場合は体のどこにでも感染する可能性があります。そのため、口唇ヘルペスや性器ヘルペスのような特徴的な部位以外で起こった水疱やただれを単純ヘルペスとは見抜けず、原因不明の皮膚疾患と診断する医師が多くいるのです。

単純ヘルペスは、アトピー治療で処方されるステロイド外用薬ではよくなりません。単純ヘルペスは感染症のため、抗ウイルス薬の服用が正しい治療です。原因不明の皮膚疾患と診断され、ステロイド外用薬で水疱やただれ、かゆみ、痛みが改善しない場合は単純ヘルペスを疑い、専門医に相談することをおすすめします。

帯状疱疹と単純ヘルペスの予防・改善のためには、免疫力を向上させることが大切です。早寝早起きやウォーキングを心がけながら、ストレスをためないようにして免疫力の向上に努めましょう。また、ストレスを緩和する方法として、笑ったり、音楽を聴いたり、パートナーとスキンシップを取ったりすることもおすすめです。

パートナーとスキンシップを取ることについて調査・研究した結果、リラックス効果が高く、ストレスを緩和させるだけではなく、アレルギー反応が軽減することが判明したのです。私はこの結果を発表し、2015年に「イグ・ノーベル賞」医学賞を受賞しました。スキンシップは百薬の長といっても過言ではありません。免疫力を高めるためにも、恥ずかしがらずに実践してみてはいかがでしょうか。