株式会社YAMADA 代表取締役 山田 好洋さん
一般の人からアスリートに至るまで、幅広い世代の人が使用できる歩行訓練用のサポート器具「e‐foot」を考案した山田好洋さん。考案から5年目を迎えた現在も、全国で「歩くことの楽しさ」の普及活動を続けています。大学も注目する、e‐footへの思いと情熱の源泉について山田さんに伺いました。
患者さんの実生活に合った煩わしさのない新しい装具を探し求めた

今月の情熱人は、株式会社YAMADAの代表を務める山田好洋さん。山田さんは、柔道整復師、ケアマネジャー、スポーツトレーナーとして、約40年にわたり、医療・介護・スポーツ業界に携わってきました。現在は、医療・福祉・スポーツ分野での経験を生かし、世界初のゴムの力を利用した歩行補助具「e-foot」の開発と普及活動に取り組んでいます。
静岡県浜松市で生まれ育った山田さんは、子どもの頃から、ものづくりが得意だったといいます。
「当時はおもちゃをあまり買ってもらえない環境だったので、竹馬や竹とんぼ、けん玉といったおもちゃを自分で作っていました。試行錯誤しながら自分なりに工夫して作ることが好きな子どもでしたね」
小学生時代から野球を始め、スポーツ少年でもあったという山田さん。スポーツをきっかけに、小学5年生の時には将来の進路を決めていたと振り返ります。
「当時通っていた小学校にはサッカー部がなく、市内のサッカー大会に出場する時は校内のほかの運動部から選手を集めていました。集められた選手は一生懸命練習をするのですが、不慣れなサッカーで、ケガをしてしまうことが多かったんです。私は自分なりに勉強してケガをした子にテーピングなどの処置をするようになりました。そんな毎日を過ごしているうちに、いつしか『将来は接骨院を開いてケガをした子どもが試合に出られるように治してあげたい』と思うようになったんです」
高校卒業後、東京にある柔道整復師養成校に進学した山田さん。卒業後はリハビリテーション界の世界的権威として知られる医師が院長を務める病院に勤務したそうです。
「当時のリハビリの現場では、マヒなどで体を動かしにくくなった患者さんに対して、体の動きをサポートする装具療法が最先端の方法でした。5年間、その病院に勤務する中で多くの患者さんと接し、装具療法を学ぶことができました」
その後、浜松市内の病院での勤務を経て、1993年に山田接骨院を開業した山田さん。長年、柔道整復師として患者さんと向き合う中、装具療法の課題に直面していたといいます。
「例えば、脳梗塞を患って片マヒになった方は、足首から先が内側を向いてしまいます。そこで足首が直角になる装具を着けると歩くことができますが、煩わしさや生活のしにくさからどうしても外してしまいます。その結果、転倒してケガや骨折をしてしまうんです。装具療法は実生活にそぐわない側面もあるので、『装着しても患者さんが煩わしさを感じずに、もっとらくに動けるものが欲しい』と思っていました」
患者さんの実生活に沿った新しい装具を探し求めた山田さんは、大手企業が開発した歩行支援ロボットの歩行体験などを試してみたこともあったそうです。
「現在の医学では、歩けない患者さんを歩かせるためには外側からの力が必要です。歩行支援ロボットを使うと歩くことができるはずなのですが、私の患者さんの1人はうまく歩けませんでした。ひどく気落ちする様子を見て『なんとか歩かせてあげたい』と思った私は、手元にあったトレーニング用のチューブやベルトを使って補助具を作ってみたんです。その補助具を使ったところ、患者さんは歩行支援ロボットで歩くことができたんです」
末期がん患者の「もう一度歩きたい!」という願いをゴムで実現

チューブとベルトで簡易的に作った補助具の手応えから、山田さんはゴムを使った歩行用補助具の開発に取り組むようになりました。
「歩行が難しい患者さんでも、ゴムの補助具を使うと歩くことができると分かりました。『私も欲しい!』と患者さんから頼まれるたびに、その人に合ったゴムの補助具を作るようになりました。開発を始めてまもなくの頃、市内の健康イベントで出展したら新聞に掲載され、たくさんの問い合わせをいただきました」
山田さんのもとに寄せられた多くの問い合わせの中には、ホスピスに入院している末期がんの患者さんからの声もあったそうです。
「その方の問い合わせは、『死ぬまでにもう一度だけ歩きたい』という切実な望みでした。難しいとは思いつつも、完成後に試作品を持って患者さんを訪れました。患者さんはまさに命の炎が燃え尽きそうな状態ではありましたが、試作品を足に装着すると、なんと歩くことができたんです。患者さんは『夢がかなった!』と喜んでくださり、『あの世でも歩けるように棺おけに入れたい』ともおっしゃってくださったんです。その言葉を聞いた瞬間、この補助具をもっともっと広げていかなければと強く思いました」
2020年12月、世界初のゴムの力を利用した歩行補助具「e-foot」が完成しました。
「私たちの体は、筋肉が伸び縮みすることで関節を動かしています。ゴムも伸縮性がありますから、体の動きの原理と同じです。e-footのゴムは人工筋肉のようなイメージで、装着することで足りない筋力を補うしくみになっています。e-footを使うと脚が軽く上がって歩きやすくなり、姿勢がよくなります。また、爪先が上がるようになっているので転倒予防にもなります。歩幅が広がって筋力がつきますし、ひざ関節を支える設計になっているので、ひざのひねりを防いで坂道や階段も歩きやすくなります」
例えば、歩行支援ロボットを使用する場合、装着に1時間近い時間がかかります。一方、e-footは40秒ほどで装着が可能です。
「身長や体形に合わせて長さの調整は必要ですが、ほとんどの方は1分もかからずに装着できます。実際、私の80代の母親も自分で着けて歩いています」
大学との研究を重ねてe-footが身近な装具になることを目指す
山田さんのもとには、e-footを使用している方から多くの喜びの声が寄せられているといいます。
「足腰が弱っている80代、90代の方からは、『足が上がるようになった』、『足が軽くなり、らくに歩けるようになった』という多くの言葉をいただいています。中には体感のよさから、『スーパーマンになったような感じがする』とおっしゃる方もいらっしゃるんですよ」
山田さんは、スポーツをしているお子さんや中高生たちにもe-footをすすめることがあるといいます。

「スポーツをしている子どもや若者は、体に負荷をかけすぎて疲労骨折をしてしまうことがあります。e-footを着けると体に負担をかけることなく体を動かすことができますし、速く走れるようにもなるんです。私自身、富士山登山の途中でe-footを装着したら、疲れ知らずのまま登頂に成功した体験があります」
山田さんは、e-footを装着しながら日常生活を送るためには、次のような工夫をするのがよいと話します。
「e-footの素材は天然ゴムなので、肌に直接着けると皮膚が赤くなってしまう方もいらっしゃいます。女性の場合はタイツやレギンスの上から装着し、長めのスカートを履く方が多くいらっしゃる印象です。男性の場合は薄手のインナーを履いた上から着けてズボンを履くのをおすすめします。私はe-footを着けた上からスーツを着ることもありますが、はた目にはまったく分かりません」
山田さんが手がけたe-footは評判を呼び、浜松市において起業を志す人を対象にした支援を行う「Hamamatsu Incubator 2021」で優秀賞を受賞しています。
「受賞後すぐに浜松医科大学からお声がかかり、治験やデータ収集のご協力をいただけることになりました。その後も大阪大学や和歌山県立医科大学、新潟医療福祉大学、日本整形外科学会などからご連絡をいただき、すでにe-footに関するいくつかの論文が発表されています。大学や企業と研究を重ねることで、e-footがより身近な装具になっていくことを期待しています。私のモットーは〝健康は歩行から〟です。いつまでも自分の力で歩ける喜びを届けることが私のライフワークです。e-footの普及を通して、健康という人類最大のテーマに挑みつづけていきます」


