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人工関節置換手術は65歳から要検討!術後は感染症や骨粗鬆症に要注意

整形外科

黒河内病院院長/北里大学医学部整形外科助教 森谷 光俊

人工関節手術は保存療法後の最終手段で痛みの劇的改善がメリット

[もりや・みつとし]——1978年、埼玉県生まれ。医学博士。2003年、藤田保健衛生大学(現・藤田医科大学)医学部卒業後、北里大学医学部整形外科入局。2010年、北里大学医学部整形外科学助教、2019年より現職。相模原市病院協会理事、公益財団法人日本テニス協会医事委員、相模原市病院協会理事、相模原市医師会理事、日本テニス協会医事員会委員、神奈川県テニスメディカルサポートドクターを兼任。

私が院長を務める(くろ)河内(こうち)病院は、神奈川県相模原(さがみはら)市にあります。50年以上の歴史を誇り、伝統を守りながらも、常に変わっていく医療現場に柔軟に対応して新しい考えや技術を積極的に取り入れています。「患者さんから選ばれつづける病院」を、医師だけではなく看護師や事務員を含めたすべてのスタッフが目指しています。

当病院を受診する患者さんは、変形性関節症の方が多数いらっしゃいます。治療では、変形性股関節(へんけいせいこかんせつ)(しょう)・ひざ関節症を問わず、運動療法などの保存療法や関節温存手術(骨切り術)が優先して行われますが、最終手段として人工関節置換術が検討されます。

人工関節置換術の対象年齢は、一般的には60~65歳といわれています。しかし、日常生活を送るうえで障害が大きかったり痛みが強かったりする場合は、年齢が若くても、人工関節置換術を行うことがあります。

人工関節置換術のメリットは、なんといっても痛みが取れ、歩き方も改善することです。また、人工関節置換術を受けることで可動域(動かすことができる範囲)も広がり、階段の上り下りやトイレでの立ち座りなどの日常生活もらくになります。また、股関節の場合は(きゃく)(ちょう)()をある程度まで矯正し、脚の左右のバランスを整えて腰痛やひざ痛の改善が期待できます。

さらに、入院期間が短いのも魅力の一つです。関節温存手術は1ヵ月以上入院しなければならないのに対し、人工関節置換術は入院期間やリハビリテーションの期間が2週間以内と短く、比較的早期に社会復帰することが可能です。

人工関節置換術はとても優秀な治療法ではありますが、決して万能ではありません。人工関節に置き換えた関節は、二度と元の自分の骨でできた関節には戻せません。

さらに、大きく進化してはいるものの、残念ながら人工関節には耐用年数があります。股関節の場合、人工関節の耐用年数は1990年代後半には摩耗の耐久性が高められたクロスポリエチレンが導入されて大腿骨頭(だいたいこっとう)(太ももの先端にある球状の骨)の部分もセラミックが使用されるようになり、現在では人工関節の耐用年数が20~30年とされていますが、大事に使うことでさらに長い間もたせることが可能です。

一方、ひざ関節の場合、現在一般的に行われている人工ひざ関節置換術は、ひざ関節のすべてを一度で取り換える「人工ひざ関節全置換術(TKA)」です。また、近年注目されるようになっているのが、ひざ関節の一部のみを人工関節に置換する「人工ひざ関節単顆(たんか)置換術(UKA)」です。ひざ関節のすり減りが「内側だけ」または「外側だけ」の場合に、すり減っている部分だけを人工関節に置き換える方法で、全置換術に比べて破損の少ない関節を残すことができます。痛みや傷の程度も軽くすむ場合が多く、今後さらなる普及が進んでいくでしょう。

人工関節置換術には、必ず感染症の危険が伴います。我々も手術の際には細心の注意を払っており、患者さんは治療後に関節周辺に傷をつけないように注意していただく必要があります。

股関節の人工関節置換術の治療後は、(だっ)(きゅう)に注意が必要です。股関節を内側にひねる座り方(脚を横に向けてそろえて座る女の子座りなど)や、股関節が屈曲してしまう(ひざの位置が高くなってしまう)ほど深くて柔らかいソファーの利用、脚を組む動作は避けましょう。人工関節置換術を行った後は、半年は安静にするようにしてください。

ひざの人工関節の場合も、負荷がかかる正座や激しい運動はおすすめできません。人工関節の摩耗が進んで耐用年数が短くなったり、ひざが不安定になってぐらつくようになったりします。

また、骨粗(こつそ)(しょう)(しょう)は人工関節の大敵です。土台となる骨が()せ細ると人工関節が不安定になります。最悪の場合は再置換術が必要になりますが、再置換術は非常に困難です。

人工関節置換術を受けるタイミングに関して、私は患者さんに「悩んでいるならやらないほうがいい」とお伝えするようにしています。人工関節置換術は、人生の大きな転換になります。その後の生活などを熟考されたうえで覚悟を決めて手術に臨んだ人のほうが、予後は良好であるように感じています。運動療法や薬物療法を中心とした保存療法に優先して取り組み、人工関節置換術はあくまでも最終手段と考えるようにしましょう。