変形性股関節症は30~40代前半からの予防がとても重要
変形性股関節症の患者さんに多く見られるのが、先天性の寛骨臼形成不全です(正常な股関節の図①を参照)。生まれつき大腿骨頭を覆っている寛骨臼のかぶりが少なく、体重を支える面積が小さいため、加齢とともに軟骨が消耗して股関節が変形していきやすいのです。変形性股関節症は、年代によって出る症状に特徴があります。
当施設に来るのはほんとうに困っている年配の方が多く、30代の方はほとんどいません。しかし、50~60代の方のお話を聞くと、30代には前兆のような症状が現れているものです。例えば、「股関節が外れる感じがあって痛かったが、すぐに治った」とか、「長く歩いた後や立ったときに違和感があった」などです。
変形性股関節症で私が強く訴えたいのは、30代から予防に取り組むことが非常に重要だということです。遅くとも、40代前半から予防に取り組んでほしいと考えています。30~40代から冨澤式[股関節温存療法]に取り組んで自己ケアを行っていれば、将来的に人工関節の手術を受けることなく変形性股関節症を回復させていくことは十分に可能なことです。
股関節周辺に違和感や痛みを自覚しやすいのは30代です。短期間ではあるものの痛みや違和感が継続する傾向にあり、病医院や整体院などに行く方が増えます。痛み止めや湿布を使ったり股関節の周辺をマッサージしてもらったりすると一時的に症状が消えるため、症状が治ったと思われがちです。しかし、症状が一時的に治まっただけで、後で再発することになります。
40代になると、股関節周辺の痛みの持続期間が長くなり、日常生活にも支障が出るようになります。病医院や整体院などに通うことも多くなり、治療や施術を受けるとその場では症状がよくなるのですが、数日たつと痛みや違和感がぶり返してしまいます。
40代で股関節に痛みや違和感を覚え、病医院や整体院などで足の長さに左右差が出てきているといわれたら要注意です。適切な治療を受けずに放置すれば、40代後半には可動域(動かすことができる範囲)が極端に狭くなり、「靴下が履きづらい」「階段の昇降がつらい」など、日常生活のさまざまな場面で不自由さを感じるようになります。
ただし、40代でも対症療法で一時的にしのげるため、悪化する前に予防を心がける方は多くありません。整形外科でも「しばらく様子見て、ひどくなるようなら手術しましょう」といわれることが多く、股関節の悪い状態を引きずったまま50代に突入してしまいます。
50代以降は日常生活が困難になり真剣に治し方を探しはじめる
50代になると、股関節周辺の違和感や痛みが悪化し、常に痛みを覚えるようになります。整形外科で撮影したレントゲン画像から「軟骨がすり減っている」「骨棘や骨嚢疱がある」などと指摘されます(変形性股関節症の図②・③を参照)。さらに、痛み止めや湿布を処方され、「しばらく様子を見ましょう」といわれます。
50代といえば、職場で頼りにされたり、親の介護が必要になったりするなど、なにかと忙しい時期です。整形外科に通う時間がなかなか取れず、痛み止めや湿布だけもらいに行くようになりがちです。さらに、左右の股関節に症状が出はじめる頃でもあるため、股関節周辺の痛みを我慢しながら日常生活を送ることになります。当施設に来られる50代の方のほとんどは、人工関節などの手術をすすめられています。この頃になって初めて真剣に予防について考えるようになります。
60代になる頃には左右の股関節の痛みが強くなり、例えば「以前は右股関節が痛かったけれど、いまは左股関節が痛い」と訴える方が多くなります。これは、痛む右股関節をかばって左股関節に負担をかけてしまったせいだと考えられます。左右の股関節に痛みが起こって脚長差も大きくなり、スムーズな歩行が困難になる方も少なくありません。
60代では、ほとんどの方が人工関節の手術をすすめられますが、なんとか手術を避けたいと願って、股関節治療で有名な病医院や整体院などに関する情報を求める人が増えていきます。一般的に60代では回復が遅く、股関節も硬くなってしまいます。若い頃に比べて時間がかかるうえに、脚長差を治すことはできません。しかし、根気よく正しい自己ケアを行えば、必ず回復に向かいます。
70代になると自己ケアを行うという発想が生まれにくくなり、当施設にも子どもたちに連れて来られるケースが多く、自己ケアに対して消極的な方がほとんどです。70代まで自己ケアをせずに放置してきた股関節を、簡単に回復させるのは難しいといわざるをえません。しかし、諦めずに本気でがんばれば、希望は十分にあると思います。 私が指導する冨澤式[股関節温存療法]は、年配の方でも実践できるようにプログラムされています。冨澤式[股関節温存療法]に取り組んで股関節の状態がよくなれば、運動能力が高まって生活の質も向上します。ぜひ身につけて生涯にわたって継続してほしいと考えています。なお、冨澤式[股関節温存療法]は「健康365」2019年2.3月号で紹介されています。
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