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化学物質過敏症は、いつでも、誰でも発症するおそれがあります

Dr.坂部の化学物質過敏症コラム

千葉大学予防医学センター特任教授 坂部 貢

[さかべ・こう]——東海大学医学部卒業後、米国タフツ大学医学部リサーチフェローを務める。医師・医学博士。北里大学北里研究所病院臨床環境医学センター長・アレルギー科部長、東海大学医学部教授・医学部長兼副学長を経て、2022年から現職。日本臨床環境医学会理事長。化学物質が健康に与える影響を基礎・臨床の両面から研究。著書に『家庭でできる身のまわりの化学物質から家族を守る方法』(PHP研究所)など。

臨床環境医学や環境生命科学を専門領域とする私は、環境化学物質による健康影響について、基礎医学と臨床医学の両面から研究を続けています。現在は千葉大学予防医学センターをはじめ、日本臨床環境医学会理事長、日本衛生学会評議員といった学術団体の役員を務めながら、医療機関で化学物質過敏症の治療にあたっています。

私たちが身を置く生活空間には、さまざまな化学物質があふれています。そして、化学物質による影響によって生活の質を下げている人が増えています。化学物質過敏症に関する情報を提供している化学物質過敏症(CS)支援センターへの相談件数から推測すると、国内における化学物質過敏症の患者数は約70万人、子どもを含めると100万人を超えると考えられています。2009年には、化学物質過敏症が厚生労働省の標準病名マスターに追加され、中毒症のカテゴリーに含まれる健康保険適用の登録病名となっています。

体調不良を覚えつつも、すぐにその原因が化学物質にあると考えられる人はあまりいません。医療機関で診察を受けても不調の原因が分からず、複数の医療機関を巡る人も少なくありません。さらに化学物質過敏症は、前触れもなく発症するおそれがあるため、突然の不調に戸惑う人も多いのです。

暮らしの中で目に見えない化学物質は数多く存在します。例えば、家具などに使用されている接着剤は、部屋が高温になると揮発して有害物質が蒸散されることがあります。化粧品や洗剤、文具や家電製品にも健康に害を与える化学物質が含まれていることがあります。食事に関していえば、食品添加物はもとより、容器や包装にも化学物質は使われています。調理法によっては、容器や包装に含まれる化学物質が溶け出し、体内に入ってしまうこともあるでしょう。

現代社会を生きる私たちにとって、「化学物質からの影響を避けることは不可能」と思いがちですが、必ずしもそうでもありません。日用品の選択や使い方など、上手に付き合うコツを知れば、影響を減らすことができます。

『365カレッジ』で始まるこの連載では、化学物質過敏症の正体を本質的に知っていただきたいと思います。さらに、化学物質による影響を防ぐ方法を、最新のキーワードとともにご紹介していきます。すでに化学物質過敏症と診断されている方はもちろん、大切なご家族との生活から、化学物質の不安を取り除きたいと望まれている方々への一助になれば幸いです。

坂部貢先生が解説する化学物質過敏症の特集は『健康365』2023年7月号で掲載しています