帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
厚生労働省が発表している『2015年国民生活基礎調査』によると、全国で約2800万人もの人が「腰痛」に悩まされています。腰痛はまさに国民病といっても過言ではありません。私自身も昨年11月に急性腰痛、いわゆる「ぎっくり腰」を経験しました。その時は、立っていられないほどの激痛に襲われました。
腰痛が起こる原因は、さまざまですが、原因を特定できる割合は15%程度といわれます。代表的なものに、腰椎に直接障害を及ぼす圧迫骨折、腰椎椎間板ヘルニア、腰部脊柱管狭窄症などが挙げられます。腰痛の直接的な原因となる疾患を挙げてみましょう。
①急性腰痛
重い物を持ち上げた時に突然起こる腰痛で、ぎっくり腰とも呼ばれています。
②腰椎椎間板ヘルニア
腰椎は、背骨の腰の部分を構成している五つの骨のことで、骨と骨の間には「椎間板」というクッションの役割を果たしている軟骨があります。腰椎椎間板ヘルニアは、なんらかの影響で椎間板が正常の位置からずれて、後方にある脊髄や神経根を圧迫することで発症します。
③腰部脊柱管狭窄症
背骨の中にある脊髄が通る空間(脊柱管)が狭くなり、中を通る神経を圧迫することで発症します。
④腰部変形性腰痛症
圧迫骨折など、主に加齢からくるもので、椎間板や腰椎自体が変形して腰痛や足の痛み、しびれなどを起こします。
続いて、腰痛が症状の一つとして現れる疾患を挙げてみましょう。
①泌尿器系疾患
尿路結石、膀胱炎、腎盂腎炎などが原因で起こる腰痛。
②消化器系疾患
胃・十二指腸潰瘍、胆石、膵炎などが原因で起こる腰痛。
③婦人科系疾患
卵巣嚢腫、子宮外妊娠などが原因で起こる腰痛。
④循環器系疾患
腹部大動脈瘤、大動脈解離など、重篤な疾患が原因で起こる腰痛。
⑤皮膚疾患
帯状疱疹からの腰痛などは、関連痛として現れることが多いので、専門医を受診することをおすすめします。
【腰痛を改善する腰痛体操とストレッチ】
● 腰の反りを減らす体操
あおむけになり、ひざを軽く曲げて、腕を体の横に置きます。次に背中と床の隙間を埋めるイメージで背中を押し付けます。その体勢のまま、お尻をギュッと締めながら浮かせて5秒間止めます。5秒たったら最初の姿勢に戻します。この動作を1セットとし、計10セット行いましょう。
● おなかを伸ばすストレッチ
あおむけになった後、腰の下に巻いたタオルを入れて腰を反らせます。息を止めずに、ゆっくりとおなかを伸ばします。30秒間を1セットとして、計5セット行いましょう。
ツボ刺激は、腰痛に抜群の効果を発揮します。二つのツボをご紹介します。
一つ目のツボは「腎兪」です。慢性的な腰痛に悩まされている患者さんの腎兪を押すと、必ずといっていいほど圧痛を覚えます。圧痛部分を親指全体(指腹)で押し当て、円を描くように5秒間刺激します。以上を5回で1セットとし、計3セット行いましょう。適切な押す力は、親指で爪を押した時に、爪の色が白っぽくなる程度です。
また、シャワーを使って腎兪のツボに温水をかける方法もあります。温泉にある打たせ湯と同じ要領で、やや前屈姿勢を保ちながら、ツボを刺激して皮膚温を上げましょう。
そのほかの方法として、入浴後にドライヤーでツボを温めたり、カイロをツボに貼ったりするのも効果的です。刺激の目安は、皮膚の部分が軽く発赤する程度です。カイロを使用する際は、低温やけどを防ぐために、下着の上から貼りましょう。
二つ目のツボである「中封」は、足の関節を背屈(足首の関節を甲の方向に反らせること)させた時に現れる大きな腱(前脛骨筋腱)と内くるぶしの間にあるツボです。この中封のツボを、腎兪と同じように親指全体(指腹)で押し当て、円を描くように5秒間刺激します。以上を5回で1セットとし、計3セット行います。腎兪と同じように、親指で爪を押した時に爪の色が白っぽくなる程度が適度な刺激です。
● 由来
【腎兪】「腎」の気が巡り、体表に注ぐところという意味から名づけられました
【中封】「中」は中心や真ん中、「封」は封鎖される、閉じ込められるなどを意味します。「中封」のツボは、足を背屈した時に現れる大きな腱(前脛骨筋腱)の内側にある陥凹の真ん中にあることから名づけられました
● 効能
【腎兪】腰痛、頻尿、冷え症、耳鳴り、月経不順など
【中封】腰痛(特にぎっくり腰の特効穴)、排尿障害、足部の冷え、足関節痛、足関節捻挫、腹痛など