プレゼント

間質性肺炎の患者と医師を本音でつなぐ役割を患者会が担いたい

患者さんインタビュー

間質性肺炎患者会「一期一会」会長 宮村 和之さん

日本ではまだ少ない間質性肺炎かんしつせいはいえんの患者会で会長を務める宮村和之さんは、製薬会社勤務の経験を活かして患者と医師の間をつなぐ役割を担っています。「自宅にいながら参加できる患者会」として、患者さんやそのご家族から注目を集める患者会「一期一会いちごいちえ」について、ご本人に伺いました。

健康診断で「肺が汚い」といわれ、膠原病が原因の間質性肺炎と分かりました

[みやむら・かずゆき]——1967年、北海道函館市生まれ、西武池袋線沿線育ち。大学卒業後、製薬会社に入社し、MR(医薬情報担当者)として約30年間勤務。2023年、間質性肺炎と診断され、福島県郡山市の坪井病院で治療を開始。同年設立された患者会「間質性肺炎患者会 一期一会」の会長に就任。製薬会社勤務の知識と経験を活かした立ち位置で、患者と医師をつなぐ役割に尽力している。

私が会長を務める間質性肺炎の患者会「一期一会」は、2023年7月に設立されました。もともと患者会の構想は、私の主治医であるつぼ病院(福島県郡山こおりやま市)の杉野圭史すぎのけいし先生(坪井病院院長兼間質性肺炎・肺線維症センター長)がお持ちでした。 

患者会の構想を伺った際、私は先生から「患者会の会長になってほしい」と依頼されました。私は大学卒業後、製薬会社に就職し、MR(医薬情報担当者)として約30年間勤務しています。仕事上で医師との関わりが多かったことから、「患者会の会長になったとしても100%の患者目線にはなれません」と杉野先生に伝えたところ、「医師と患者の気持ちをともに理解している宮村さんに、両者をつないでほしいのです」といわれ、患者会の会長という大役を引き受けることにしたのです。

今では大きく変わりましたが、かつての製薬業界は毎晩のように接待がありました。長時間にわたるオペ(手術)を終えて緊張から解き放たれた医師と、手術が終わるまで医局で待ちつづけるMRにはある種の一体感が生まれることが多く、深夜に飲食をともにすることもありました。仕事を通じて高血圧や脂質異常症、糖尿病(当時は境界型)、睡眠時無呼吸症候群を発症したのは至極当然の流れでした。

私が間質性肺炎と診断されたのは、2023年のことです。間質性肺炎は、肺胞はいほう壁や周囲の組織(間質)が炎症を起こし、徐々に線維化していく肺疾患です。ひと口に間質性肺炎といってもその原因は多岐にわたり、私の場合はこうげんびょうが原因で発症する膠原病性の間質性肺炎です。

膠原病は、私たちの体を守る免疫システムに異変が起こり、自分の臓器や器官を異物として攻撃してしまう自己免疫疾患です。自身の病歴を振り返ると、20代の時にきんせいのうほうしょうせき嚢胞症、30代ではへいじょう湿しっしんるいかんせんを発症しています。私の膠原病は皮膚疾患として現れるのが特徴的で、肺の間質にも影響を与えたと考えています。

宮村さんが間質性肺炎と診断された際に採取された肺細胞の一部

初めて肺の異常を指摘されたのは、2022年12月に受けた健康診断の時でした。問診時に「肺が汚い」と指摘を受けたのです。当時の私は、「汚い」という表現が何を意味しているのか分かりませんでした。その医師は前年も健康診断を担当していたのですが、肺のレントゲン画像が白く写っていることが気になっていたそうです。当時の私は呼吸機能が低下している自覚症状に乏しく、「いわれてみれば、確かに息苦しい時もあるかな」という程度でした。その後、主治医に健康診断の結果を伝えて胸部のCT(コンピューター断層撮影法)検査を受けました。その結果、肺に明らかな網目状の炎症が認められ、すぐに坪井病院を紹介されました。

私はこれまでの生涯をほぼ埼玉県で過ごし、現在も県内に住んでいます。間質性肺炎と診断された2023年当時は、福島県郡山市に単身赴任中で、紹介された坪井病院も郡山市内にあります。主治医となり、後に患者会の顧問となる杉野先生のもとでかん内視鏡検査、きょうくうきょうによる試験切除を行って肺の細胞を調べていただいた結果、膠原病由来の間質性肺炎と診断されました。

間質性肺炎は、引き起こしている原因に対する治療が主となります。私の場合は膠原病が原疾患のため、プレドニゾロンと免疫抑制剤であるシクロフォスファミドを服用しています。

間質性肺炎の程度を測る指標として、KL-6とSP-Dが知られています。私の場合は、治療薬を服用しながらこれらの数値を維持していくことが目標です。杉野先生から「数値は長期スパンでの変化率を見ることが大切」と指導されているので、数値の変化に一喜一憂しないことを心がけています。

酸素発生器に不具合が出ないように、電車は各駅停車に乗ります

間質性肺炎の診断以降、呼吸機能は徐々に低下しています。車で移動する際はともかく、歩行時間が長い外出には酸素ボンベが必要です。現在、私が使っているのは高濃度酸素をじゅうてんした酸素ボンベではなく、持ち運びができる酸素発生器です。外から取り入れた空気から窒素ちっそを除去した後、残った酸素を濃縮して高濃度酸素を発生させるため、充塡式の酸素ボンベのように酸素残量の心配がありません。

しかしながら、酸素発生器には空気を取り入れる吸入口と、不要な窒素を排出するための排気口が付いています。混雑している場所ではリュックに背負った酸素発生器の排気口がふさがれてしまうおそれがあります。そのため、電車で移動する際は排気口を確保するために混み合う急行電車を避け、目的地まで時間がかかっても各駅停車に乗るようにしています。

交通機関を使った移動についていえば、間質性肺炎を発症してから航空機を利用する際に注意が必要となりました。気圧が低い飛行機の中は酸素が膨張するため、機内の酸素濃度は通常の8割程度まで下がります。以前、飛行機に乗った時はSPO2(血中酸素飽和度。基準値は96~99%)の数値が79%まで下がってしまいました。

宮村さんは患者会の会長として講演活動を積極的に展開している(写真は2024年7月に開催された「坪井病院 肺の日記念 市民健康フォーラム」の様子)

航空会社が定めた手続きを経て診断書を提出すれば機内で酸素発生器の使用が認められますが、長いフライトが及ぼす影響を鑑みると、定年退職後に妻とオーロラを見に行くという海外旅行の約束は、残念ながら果たせなくなりそうです。船旅なら可能かもしれませんね。

間質性肺炎の症状はつらいものですが、早期退職後の診断だったため、人生設計に大きな影響が出なかったことは幸運でした。すでに独立している息子たちは、私の病気をどこまで理解しているのか分かりませんが、彼らなりに私の体調について心配し、いろいろ考えているようです。このような親子関係になれたのも、間質性肺炎を患ったからこそと思うようにしています。

私が会長を務める間質性肺炎の患者会「一期一会」の会員数は、現在283人です(2025年9月現在)。性別は6対4で女性が多く、年齢は50代を筆頭に(28%)、60代(24%)、70代・40代(ともに15%)と続きます。間質性肺炎を引き起こしている原因は多岐にわたります。

私自身の経験はもちろん、会員の皆さんとの対話から感じるのが、間質性肺炎を治療できる専門医の少なさです。「原因が分からない」といわれて新たな病院を紹介され、受診を繰り返して、ようやく間質性肺炎と診断された時には症状が進行していることが少なくありません。東京近郊には若干専門医が多いものの、「検査を受けるまで3ヵ月待ち」ということも多いのが実情です。間質性肺炎を含む難治なん じ性疾患の治療は、希望した時に検査や治療を受けられるのが望ましい形です。埼玉県に住みながら2ヵ月に一度、1泊2日で郡山に通院しているのは、そのような理由もあるのです。

「一期一会」の存在意義は、コミュニケーションが不足しがちな患者と医師の間の意見を双方で理解し、折り合いや落としどころを見つけていくことです。そのためにも、まずは患者の間でコミュニケーションを図ることが欠かせませんが、多くの患者さんは呼吸機能の低下から外出が困難です。そのため、インターネットを使った情報発信や、会員間のコミュニケーションツールとしてSNSやインターネットラジオを活用し、自宅にいながら患者会に参加できる仕組みを整えています。

外出が困難な患者でも参加しやすいSNSを使った交流を図っています

宮村さんは講演会活動のほか、さまざまな患者会に対して治験に関する情報提供や理解を深める「治験アンバサダー」としての活動も展開している

SNSを使ったコミュニケーションの中でも、LINEラインを使った「オープンチャット」は、間質性肺炎の患者さんやそのご家族をはじめ、どなたでも利用できます。日本国内はもちろん、海外にお住まいの方も利用することができるので、関心がある方はぜひアクセスしてください。また、LINEのオープンチャットのライブトーク機能を使った「間質性肺炎ラジオ」は、患者やご家族同士が直接会話できるツールです。間質性肺炎ラジオの開催は現在まで6回を数え、好評をいただいています。

私たちの患者会「一期一会」の方針は「来るものは拒まず、去る者は追わず」です。会の方針にご理解をいただける方であれば、どなたでもコミュニティに参加でき、ラジオの聴取も可能です。SNSを活用したサービスは、ご高齢の方にはなじみにくい面もありますが、メッセージを投稿しなくても、SNS上でさまざまな情報を入手することが可能です。思うところを述べていただいてもかまいませんが、疾患によって指を動かすことが困難な患者さんもいらっしゃるので、無理をせずご自身のペースでご活用いただければと思います。間質性肺炎という病気を患い、治療や将来に不安を抱える患者同士がつながり、医師との交流も図れる場が少しでも広がればと思っています。

患者会の会員さんたちの中には、精神的な不安定さを訴える方も少なくありません。そこで私たちが大切にしているのが「SDM(シェアード・ディシジョン・メイキング)」と「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」です。SDMは患者と医師が情報を共有し、協働して治療方針を決定する「共同意思決定」のことです。患者は診察室で医師とわずかな時間しかコミュニケーションを図れない「5分間診療」の悩みを抱えやすいものですが、たとえ5分間であってもお互いにとって意味のある5分間にしようという意識を、患者と医師の双方が共有することが治療効果の向上につながる前提だと思っています。

「一期一会」では、インターネットやSNSを使って患者同士のコミュニケーションを図り、自宅にいながら患者会に参加できる環境を整えている

SDMを土台にした次のステップとして重視するACPは、患者の価値観や希望、人生観を踏まえた最善の医療やケアを、家族や医師と話し合う取り組みです。間質性肺炎の患者さんの場合、進行度によっては終末医療や死生観も踏まえた話し合いが求められることもあります。

ACPの話をすると「まだ早い」「縁起でもない」といわれることもありますが、自分自身で決めておかないと、ご家族や大切な人に判断を迫ることになります。繊細で難しい問題ですが、避けて通れないACPの考えを普及させるために、イラストを交えたパンフレットを制作し、普及にあたる予定です。

間質性肺炎と診断された時に気持ちが沈むのは当たり前です。でも、暗い顔をしてため息ばかりついてもしかたありません。一見するとばかげた話でも、その掛け合いによって会話が生まれ、弾ませることで笑顔が見られるようになります。明るい心境と環境でコミュニケーションを図りながら、信頼関係のある医師のもとで前向きに治療に取り組める——そんな環境に身を置く患者さんが増えるための一助になりたいと思っています。