プレゼント

がん・難病に打ち勝つため、絶対必要な検査と治療の予備知識

がん治療の進化を目撃せよ!

日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央

ステージⅢ期以降のがんにはがん幹細胞が存在している可能性が高く新療法が必要

[こばやし・ひでお]——東京都八王子市出身。幼少期に膠原病を患い、闘病中に腎臓疾患や肺疾患など、さまざまな病態を併発。7回の長期入院と3度死にかけた闘病体験を持つ。現在は健常者とほぼ変わらない寛解状態を維持し、その長い闘病体験と多くの医師・治療家・研究者との交流から得た予防医療・先進医療・統合医療に関する知識と情報を日本中の医師と患者に提供する会を主催して活動中。一般社団法人日本先進医療臨床研究会代表理事(臨床研究事業)、一般社団法人ガン難病ゼロ協会代表理事(統合医療の普及推進)などの分野で活動中。

2018年度の公益財団法人がん研究振興財団の統計によると、日本で新たにがんになる人は約101万3500人、2018年のがん死亡者は約38万人と推測されています。また、国立がん研究センターが2019年に発表したデータでは、全がんを総計したがんの5年生存率(いわゆるがんの治癒ちゆ率)は66.1%でした。この数字を見ると、がんを発症した人の3人に2人が助かるように見えますが、実は話はそう単純ではありません。

がんの発症部位と進行度、死亡率には大きな相関関係があります。治しやすい部位のがんは多数が助かり、治しにくい部位のがんは大半が亡くなっているのです。具体的には、前立腺ぜんりつせん、乳房、子宮といった部位にできたがんは治しやすいがんの代表で、膵臓すいぞう、肝臓、肺といった部位にできたがんは治しにくいがんの代表です。また、胃、大腸、食道、膀胱ぼうこうといった部位はその中間といえるでしょう。

どの部位にできたがんも、進行が進むほど5年生存率が落ちていきます。そのため、できるだけ早く発見し、進行する前に治療しようという「早期発見・早期治療」が叫ばれているのです。この考え方自体は間違っていません。しかし、現在行われている「早期発見・早期治療」の中身である保険適用の検査と治療は問題が山積みなのです。

検査でいえば、欧米ではすでに廃止になっているレントゲンによる肺がん検査、痛みを伴ううえに発見率が低い乳がんのマンモグラフィー検査、発見率も信頼性も低い腫瘍しゅようマーカー検査など、どれも力不足の感が否めないものばかりです。また、PET-CTやMRIという高度な画像診断検査は、早期発見や予防には使えず、がんが見つかった後になって初めて保険適用となるしくみなのです。それ以外にも、超早期のがんを見つける最先端検査はいくつもあります。しかし、保険適用になるのは遠い未来のことでしょう。

次にがんの治療法についてですが、気力・体力・免疫力を大幅に奪う拡大手術(切除範囲を拡大することで根治性を高める手術)や照射量の多い放射線治療、縮小効果だけで完治が期待できない化学療法(抗がん剤治療)という3大療法が現在の日本では主役です。手術や放射線治療は大幅に体力を奪うため、高齢者や進行したがんには適用とはなりません。つまり、ステージⅢ以降は、化学療法しか保険適用となる治療の選択肢はないのです。

ところが、抗がん剤は水溶性の薬剤のため、ステージⅢ以降のがんで問題となるリンパ節への転移(リンパ行性転移)の主戦場であるリンパ管やリンパ節には届きません。抗がん剤は大部分が脂であるリンパ管には効きにくいのです。そのため、ステージⅢ以降のがんに対して、抗がん剤はほぼ無力です。

がん専門医には既知の事実ですが、一般の方やがん患者さんはこうした事実を知らないようです。そのため、ステージⅢ以降のがんでもなんとか治療したいと、効果がほぼ期待できない抗がん剤治療を続けてしまうのです。その結果、気力・体力・免疫力をボロボロにした末、やっと抗がん剤以外の治療法にたどりつく患者さんが多いのです。

本来ならば、ステージⅢ以降のがんは、すぐにでも抗がん剤以外の治療法を試すべきです。例えば、保険が使える治療法には、ハイパーサーミアやコータック(大きながんにも効果が期待できる放射線増感剤を使用した放射線治療。増感放射線療法)、動脈塞栓術どうみゃくそくせんじゅつなどがあります。また、全額自己負担の自由診療には免疫療法や遺伝子治療、抗酸化療法、ヨード療法、代謝療法、サプリメント療法など、さまざまな治療法があります。

日本先進医療臨床研究会の初代理事長である白川太郎医師(左)といっしょに撮った1枚

日本先進医療臨床研究会の初代理事長である白川太郎しらかわたろう先生(如月総健きさらぎそうけんクリニック院長)の研究から、ステージⅢ以降のがんにはがん幹細胞が存在している可能性が高いことが分かってきました。がん患者さんの血液を採取してCTC検査という高額な最先端検査で血液中のがん細胞を抽出し、がん細胞の核を染色して分類すると、一般的ながん細胞(タイプ1)と特殊ながん細胞(タイプ2)が見つかったのです。

タイプ2は、増殖・転移を繰り返す性質があり、体内でがんを増やす元であることが分かってきました。さらに、さまざまな角度から検査した結果、タイプ2はがん幹細胞の特徴をいくつも備えていることが判明。つまり、がんの重症化はタイプ2がカギを握っていることが明らかになってきたのです。

そこで、タイプ2を殺傷する方法を探すため、さまざまな薬剤を試しました。その過程で、現在使用されているほとんどの抗がん剤を試したところ、すべての抗がん剤でタイプ2を殺傷できないことが判明したのです。そうした背景を経て、抗がん剤以外で新たにタイプ2を殺傷できる方法を探す研究がスタートしました。数年の歳月の末、やっといくつかの方法でタイプ2を殺傷できることが分かるとともに、さらなる問題点も見つかりました。

第一の問題は価格です。CTCというタイプ2を見つける検査自体が高額なのです。次に、治療ができる医療施設が限られる点です。タイプ2を殺傷できる治療法は全額自己負担の自由診療となるため、がんセンターや病院では行うことができません。これは混合診療禁止といって、保険診療と自由診療を1つの医療機関で行ってはいけないというルールがあるためです。

タイプ2のがんを殺傷する治療を受けるためには、診療所など、自由診療を行う小さな医療機関に通う必要があります。それと同時に病状を検査するため、PET-CTやMRIといった画像診断検査や病理診断などを行う大きな病院の両方に行かなくてはならないのです。また、現在の日本の医療制度ではこれら2つの医療機関で意思疎通や連携が必ずしもうまくいっていない点も問題となっています。