プレゼント

仲間と励まし合いながらリハビリと患者会の運営に取り組んでいます

患者さんインタビュー
内田 幸男さん

慢性閉塞性肺疾患(COPD)にかかって肺の呼吸機能が低下すると、セキやタンなどが出てきて徐々に息切れがひどくなっていきます。「板橋サンソ友の会」は、COPDの他、間質性肺炎、気管支拡張症、肺高血圧症など、慢性的な呼吸器疾患を持つ人のための患者会です。2004年に6名で設立し、現在の会員数は48名。60代前半から80代半ばまでの年齢の方が参加しています。

今回は、友の会創立メンバーの一人で会長をされている内田幸男さん(79歳)にお話を伺いました。

肺気腫と診断されたショックを乗り越えて呼吸リハビリと運動を毎日続けています

[うちだ・ゆきお]——1939年、東京都板橋区生まれ。2000年4月、61歳のときに肺気腫と判明。2004年6月に設立したCOPDの患者会「板橋サンソ友の会」代表。

私が呼吸に違和感を覚えたのは、いまから20年ほど前の1998年の春、59歳のときでした。通勤時に長い階段を昇るたびに、息切れがひどくなったのです。年のせいかなと思っていたのですが、翌年の人間ドックで担当の先生から「呼吸器系に少し異常があるようです」といわれ、禁煙指導を受けました。でも、数十年間毎日20~30本ものタバコを吸いつづけていた私は、禁煙をしようという気持ちにはなれませんでした。

さらに、1年後の精密検査の結果、肺気腫と診断されました。先生から「肺気腫は1度かかると治りません」といわれ、強いショックを受けたのをいまでも覚えています。呼吸をらくにするための気管支拡張薬を処方されたほかは、年に1度検査を受けるよう指示されただけでした。

肺気腫を完治できる治療法がないという事実は、私に重くのしかかってきました。ひどく落ち込み、体調もくずしがちになりました。呼吸困難になって救急車で搬送されたこともありました。このままではいけないと痛感した私は、ようやく禁煙を決意。ニコチンパッチなどの禁煙補助薬も一般的ではない時代に、独力で3週間かけて禁煙に成功しました。

ところが、禁煙後も体調は思うように回復せず、気持ちが沈んでふさぎ込むようになりました。なんとか状況を改善したい一心で、かかりつけの先生に「よい呼吸器科の先生はいませんか」と相談したところ、東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)を紹介されました。2001年の秋のことです。

2週間の入院が決まり、当時呼吸器科部長だった木田厚瑞先生から呼吸リハビリの指導を受けました。呼吸リハビリは呼吸器の機能の向上・改善を目指して行うもので、呼吸器疾患を持つ患者の健康状態の回復や維持に欠かせません。退院後に自宅で継続して取り組めるように、COPDの患者さんそれぞれの肺の状態や筋力を測定し、症状に合わせた呼吸法や吸入薬の使い方、運動の習慣を身につけます。また、呼吸リハビリや運動療法とともに、病気や服薬に関する知識をはじめ、食事療法や感染症の予防対策、排タン法、自己管理についてしっかりと学ぶことができます。

COPDの先駆的な治療をされている木田先生から呼吸リハビリの指導を受けたことで、気持ちが大きく切り替わりました。たとえ肺気腫が治らない病気だとしても、運動や栄養管理にコツコツと取り組みつづければ、症状の悪化を防ぐことができると思えるようになったのです。

退院後も、私は呼吸リハビリで学んだことを毎日実行しつづけました。初めのうちは高さ15㌢ほどの踏み台を1分間に8回というゆっくりした速さで昇降するだけでも、息が切れて呼吸が苦しくなりました。それでも諦めずに続けていると、体を動かせる時間が少しずつ長くなっていきました。

歩行トレーニングとしてウォーキングも始めました。毎日5000歩または1時間歩くことを目標に取り組みました。退院直後は、平らな道でも20分以上歩くと呼吸が苦しくなり、フラフラして何度も休憩しなければなりませんでした。しかし、毎日ウォーキングを続けるうちに、休むことなく1時間も歩けるようになったのです。

運動量が増えて体力がつくと、心肺機能が高まります。息切れなどの症状が緩和され、体調も安定してきました。木田先生からのアドバイスで、さらに筋力や持久力を鍛えるためにフィットネスクラブでのトレーニングも始めました。

呼吸リハビリを始めて半年ほどたった頃から体調が安定し、日帰りの旅行にも出かけられるようになりました。ますますやる気が出てきて、呼吸リハビリも運動も楽しく続けられました。

ところが、2004年の1月にこじらせたカゼが悪化し、肺炎になって入院しました。COPDで起こりやすいとされる、セキやタンが急に増えて呼吸が苦しくなる急性増悪です。どんなに自己管理を行って努力しても、COPDの症状が進んでしまうことを実感しました。ただ、呼吸リハビリや運動を地道に続けていたからでしょうか、春になるにつれて体調は回復。鎌倉や箱根を散策したり、高尾山へハイキングに出かけたりすることができるようになりました。

主治医の木田先生の提案によって、2008年から夜間12時間の在宅酸素療法を始めました。酸素療法は、肺の機能が低下していても十分な量の酸素を取り込めるようにする治療法で、直径8㍉ほどの柔らかいチューブを装着し、鼻から高濃度の酸素を吸います。2012年には外出中も酸素ボンベを携帯する24時間の酸素療法に切り替えました。酸素療法と呼吸リハビリ、運動を組み合わせて続けたところ、呼吸器疾患の専門の先生も驚くほど肺機能を維持できています。

仲間と励まし合ってリハビリを継続して行うことがCOPDの症状の悪化を防ぐカギ

定例会では、生活の質を高めるための勉強会や講演を行っている

COPDの治療に取り組む中で、患者会も生まれました。当時、板橋区では福祉事務所主催の呼吸リハビリ教室が開催されていて、私も参加していました。2003年に教室が終了することになったとき、福祉事務所の担当者のアドバイスもあって患者会を立ち上げることにしたのです。

2004年6月、「板橋サンソ友の会」は、私を含めた6名のメンバーで発足。月に1度は会員が集まり、勉強や交流ができる機会を設けています。呼吸器疾患の患者さんは、温度差や気圧の変化から受ける影響が大きいので、寒さや暑さが厳しい2月と8月はお休みです。

隔月の定例会で開催される勉強会は、木田先生にご支援いただいているおかげで、呼吸器専門医や看護師、理学療法士、管理栄養士などの専門家の先生を講師に招いています。勉強会ではCOPDに関わるさまざまなテーマの講演を聴講し、みんなでいっしょに呼吸リハビリを実践したり、COPDの患者さんが毎日行っている吸入薬の吸入方法や運動療法の再確認を行ったりしています。

定例会と交互に行う交流会「おしゃべりひろば」や勉強会の後は、患者さんそれぞれが自分の病気の状態やどうすればよいか分からずに困っていることなどを自由に語り合える時間です。友の会にはCOPD以外の呼吸器疾患の会員さんも参加していますが、息苦しさや胸の痛みのつらさは同じです。多くの方が、「いままで独りで抱え込んでいた思いを口にすることができて、心が軽くなった」といっています。

中学生や高校生に喫煙の害や恐ろしさを伝える「防煙教室」の様子

会員さんの家族の方にも、勉強会や交流会に同席してもらうようにお願いしています。現在、ご夫婦で参加している会員さんは2~3組。患者さんといっしょに悩んだり苦しんだりしている家族の方も、友の会での交流を通じて少しでも気持ちがらくになればいいなと思います。

友の会では、喫煙の害と恐ろしさを伝える啓発活動も行っています。年に2~3回、東京都内の中学校や高校から依頼を受けて「防煙教室」を開催。資料を準備し、分かりやすい説明ができるよう心がけています。熱心に聞いてもらえる場合が多く、後日学校から送ってもらった感想文を読むと「やってよかった」としみじみ感じます。

2018年10月の日帰りバス旅行では、群馬県の原田農園でリンゴ狩りを行った

毎年10月には、日帰りのバス旅行に出かけます。酸素療法中の患者さんは、どこへ行くにも携帯用の酸素ボンベが手放せないので、出かけるのがおっくうになって家に閉じこもりがちです。だからこそ、「旅行できるなんて夢のようです」と喜びの声をいただくことが多く、旅行を心待ちにしている会員さんの期待に応えたいと思っています。

友の会のバス旅行では、酸素療法を行っている会員さんが安心して旅行を楽しめるように、事前に必要な分の携帯用酸素ボンベを手配しています。予想外の道路の渋滞や現地での混雑は、酸素が不足して危険なので、渋滞が予想される高速道路を使う方面は避けるなど、出かける場所を慎重に選びます。また、参加者の体調が急変した場合に備えて、目的地までの経路に大きな病院があるかどうかをあらかじめ徹底的に調べておきます。

バスの手配は福祉関係の会社にお願いしています。とてもていねいに運転してもらえるので、遠距離の乗車でも体への負担が少ないと好評です。

COPDになっても毎日元気で過ごすには自分の状態をよく知り前向きに動くのが大切

パルスオキシメーターという測定器を指先につけると、血液中の酸素飽和度を測定できる

私は現在、身長175㌢、体重63㌔と、標準的な体形で、血圧も血糖値も基準値内です。24時間酸素吸入を行っているとはいえ、体調はとてもよく、毎日元気に過ごしています。

COPDになり、肉体的にも精神的にも苦しくつらい思いをしたことは事実です。ただ、COPDになったことは、健康に無頓着だった私がタバコをやめて運動や食事に気を配るようになり、体調管理をしっかりと行うようになったきっかけといえるかもしれません。

私も初めは病気を前向きに受け止める気持ちになれず、マイナスの面ばかり考えて落ち込んでいました。しかし、木田先生と出会って病気の知識や治療法の指導を受けたからこそ、一歩ずつ前を向いて進めるようになったのです。そして、患者会という同じ立場の仲間が集まって相談したり励まし合ったりする場ができたことで、いっそう前向きになれたと思っています。

同じ立場の仲間が集まって相談したり、励まし合ったりしています

残念なことに、近年では都内近隣で活動していたCOPDの患者会が少なくなりました。会の運営に公的補助は受けられるものの、限りある予算の中では、会合用に無料の会場を探したり、講師の先生方にはほぼボランティアでご指導いただいたりと、工夫や努力が必要になります。行政の支援があっても、指揮を執る方がいないと患者会の存続は難しいのが実情です。

病気というマイナスをプラスに変える原動力は、自分の状態をよく知ったうえで、前向きに行動することだと思います。安静にしていても呼吸が苦しい患者さんにとって、独りきりで運動療法や呼吸リハビリを長く続けることは至難の業です。友の会で仲間と励まし合うことによって、呼吸器の疾患で苦しんでいる方が、少しでも元気になってくれるといいなと心から願っています。