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透析導入の最大原因は糖尿病で高齢者は細動脈・毛細血管の老化に伴う腎硬化症にも注意

糖尿病・腎臓内科

東名厚木病院名誉院長、慢性腎臓病研究所所長 冨田 公夫

〝沈黙の臓器〟である腎臓は自覚症状なく機能低下が進行し早期発見・治療が大切

[とみた・きみお]——1973年、東京医科歯科大学医学部卒業後、同大学医学部勤務。医学博士。1982年、米国国立衛生研究所(NIH)勤務。東京医科歯科大学医学部助教授、熊本大学医学部教授を経て、2013年より現職。東名厚木病院慢性腎臓病研究所所長を兼務。日本腎臓学会指導医・専門医、日本透析医学会透析指導医・専門医、日本内科学会認定内科医。

慢性腎臓(まんせいじんぞう)(びょう)(CKD)の進行を防ぐには、なによりも早期発見が大切です。ところが、慢性腎臓病は自覚症状が起こりにくいことで知られ、体調不良を感じた時にはすでに病期が進んで深刻な状態にまで悪化していることが少なくありません。そのような背景から、腎臓は〝沈黙の臓器〟とも呼ばれています。異変を早期発見するためにも、年に一度は健康診断を受けるようにしましょう。

慢性腎臓病と診断されるのは、次の①②のいずれか、または両方が3ヵ月以上続いた場合です。

①尿検査でたんぱく1+以上、血尿、血液検査、画像などでの異常所見
②糸球体ろ過量(GFR)が60未満

たんぱく尿の検査は、腎臓のろ過機能をつかさどる()(きゅう)(たい)の機能が正常かどうかを調べるために行われます。糸球体の毛細血管に異常があると、本来ならば体内にとどまるべきたんぱく質が尿中にもれ出てしまうのです。

たんぱく尿は、濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」の6段階があります。水分の摂取量によって多少の誤差が生まれるものの、正常範囲は「-」「+-」です。「+」の数字が大きくなるほど、尿に含まれるたんぱく質の濃度が高く、糸球体の毛細血管の働きがより大きく損なわれていることを示しています。

糸球体ろ過量とは、一分間にすべての糸球体によってろ過される血清(けっせい)量のことです。血清とは、血液中の血球成分である赤血球や白血球、血小板、たんぱく質を除いた液体成分を指します。糸球体ろ過量(GFR)の数値を調べるには、血清クレアチニン値をもとに推測する計算法を用いての、推算糸球体ろ過量(eGFR)が簡便でよく使われます。

たんぱく尿検査と血清クレアチニン値から分かる推算糸球体ろ過量(eGFR値)で、腎機能の状態は6段階に判定できる
『CKD診療ガイド2012』をもとに作成

腎機能の程度を示す指標の一つであるクレアチニン値は、筋肉中の成分が代謝されてできる代謝産物の一つ(クレアチニン)の量を測ることで分かります。体にとって不要な物質であるクレアチニンはたんぱく質とは異なり、常に一定の量が尿に排泄(はいせつ)されています。クレアチニンを指標として用い、どの程度血清がろ過されているかを示す値が糸球体ろ過量です。

慢性腎臓病の病期は、推算糸球体ろ過量によって、G1~G5までの6段階に分けられています(G3はaとbに区分け)。糸球体ろ過量を調べるためにはとても複雑な計算が必要ですが、日本腎臓学会が作成した「糸球体ろ過量早見表」を用いて性別・年齢・クレアチニン値をあてはめれば、現在の腎機能の状態を知ることができます。

腎機能の低下を引き起こす原因の中でも特に注意したいのが動脈硬化(血管の老化)です。慢性腎臓病の中でも動脈硬化が密接にかかわっている疾患が「腎硬化症」です。

高血圧が悪化させる動脈硬化は毛細血管の血流不足を引き起こし腎機能の低下を招く

日本透析(とうせき)医学会が発表した『わが国の慢性透析療法の現況』によると、人工透析を受けている日本国内の患者数は、2020年の時点でおよそ34万7000人に上ります。透析を招く原因疾患の第1位は糖尿病性腎症で、40.7%を占めています。

長期にわたって増加傾向にあった糖尿病性腎症の患者数ですが、近年は糖尿病治療の質の向上などによって減少傾向にあります。一方、社会の高齢化とともに患者数の持続的な増加が認められるのが腎硬化症で、慢性糸球体腎炎の患者数を超えて第2位(17.5%)となっています。

腎硬化症は、細い血管(細動脈)の老化によって引き起こされる慢性腎臓病の一つです。細動脈は糸球体を構成する毛細血管に血液を送っている血管で、高血圧の負荷が毛細血管にかからないように血圧を調整する働きがあります。

ところが、加齢などによって細動脈に動脈硬化が起こると、細動脈の柔軟性が失われ、内腔(ないくう)が狭くなって毛細血管に血液を送る際の圧力(血圧)が低下し、毛細血管の末端まで血液が十分に届かなくなります。その結果、糸球体で酸素や栄養が不足して、腎臓の機能低下を招いてしまうのです。

動脈硬化を引き起こす要因はいくつも挙げられますが、中でも腎硬化症と密接な関係にあるのが高血圧です。高血圧の状態になると、毛細血管にかかる血圧を減らすために細動脈が収縮します。長期間にわたって血圧の高い状態が続くと細動脈に負担がかかりつづけるようになります。細動脈が高い血圧に抵抗していくうちに血管は徐々に肥大・硬化し、動脈硬化が進行していくのです。

腎硬化症は、糖尿病性腎症など、ほかの慢性腎臓病と合併することが少なくありません。早期発見・早期治療を行うとともに、禁煙や減塩を中心とした食事療法に取り組んで動脈硬化の進行予防に努めるようにしましょう。

さらに、動脈硬化の予防には運動も大切です。正しい運動の実践は、慢性腎臓病の患者さんにとって重大な合併症の一つといえる脳卒中や心筋梗塞(しんきんこうそく)などの脳・心血管障害の予防に役立ちます。適切な運動習慣を毎日の生活に取り入れて、腎機能の維持に努めてください。