日本先進医療臨床研究会代表 小林 平大央
感染症や花粉症、肥満、糖尿病ばかりではなくガンにも効果と話題の〝ケルセチン〟とは?
最近、新型コロナウイルス感染症や未知の感染症、間質性肺炎、ぜんそく、肺ガンなどの肺疾患に効果があるとして注目を集めているのが「ケルセチン」です。実は、ケルセチンは古くから欧州で知られているハーブで、免疫力増強効果があり、昔からカゼや感染症の予防に使われてきました。
ケルセチンは、リンゴ、ブドウ、ベリーなどの色のついた果物や赤タマネギ、茶、液果類、赤ワイン、葉物野菜、ブロッコリーなどの食品に広く含まれている、天然に存在する色素(フラボノイド)です。いわゆる、健康効果が高いとされるポリフェノールの一種です。
ケルセチンは槐という植物の花のつぼみに多く含まれており、中国では古くから漢方薬の成分としてさまざまな病気の治癒・改善に使用されてきました。
このように、ケルセチンは洋の東西を問わず古くから多くの病気の治癒・改善に対して効果があるといわれてきましたが、最近になって、にわかにその効果がクローズアップされはじめました。飲料メーカーや化粧品メーカーなどがテレビCMを始めたことで、これまで専門家や健康オタクにしか知られていなかったケルセチンという成分に注目が集まっているのです。
実は、ケルセチンには強力な抗酸化作用や抗ガン作用、抗炎症作用、抗ウイルス作用、抗菌作用など、多くの健康上の利点があることは以前から知られていました。ところが、ケルセチンはたいへん水に溶けにくい疎水性の性質のため、体内への吸収性が低く、これまでヒトへの健康効果は限定的だったのです。
しかし、最近になって日本のある素材メーカーが「配糖体」という水に溶ける加工方法で特許を取得。吸収性が大幅に上がったケルセチンを実現化し、健康効果の高いケルセチンという素材に対して注目が集まりはじめたのです。
時を同じくして、欧州でもイタリアのメーカーがケルセチンの高吸収加工に成功しました。現在、世界的に大きく注目されているケルセチンの加工方法は、イタリアのメーカーが開発した「ケルセチンフィトソーム」という方法(略称「ケルセフィット」)です。ケルセフィットは、ケルセチン配糖体よりもさらに体内への吸収性がよく、通常のケルセチンの約20倍以上も吸収されることが分かっています。
強力な抗酸化物質であるケルセチンに関して、これまで実験などで確かめられたさまざまな論文データがあります。例えば、「心臓病の予防」「炎症の軽減」「老化防止」「呼吸器および胃腸の感染症のリスク低減」「血圧降下」「アレルギーの軽減」などが挙げられます。
そして、もちろんケルセチンは、究極の病気ともいえるガンに対しても効果的であることが多くの研究で報告されています。次に、ケルセチンと抗ガン剤やほかのサプリメントとの併用による代表的な研究報告をご紹介しましょう。
● 米国フロリダ州のクリーブランドクリニックでの小規模臨床研究では、ケルセチンとクルクミンとの併用で家族性大腸腺腫症、結腸ガン、直腸ガンの患者の腺腫を減らす効果が確認されました。この研究では、ケルセチンとクルクミンの投与による60ヵ月の治療後、ポリープの数と大きさがすべての患者で減少し、それぞれ平均50%減少したことが分かりました。
● 中国の常熟中国中薬病院と蘇州大学附属病院の研究者が行った実験室研究では、脳腫瘍の抗ガン剤であるテモゾロミドといっしょにケルセチンを使用すると、テモゾロミドの抑制効果が大幅に改善されることが判明しました。
● 中国の浙江大学の研究者によって行われた研究では、ケルセチンは正常な肝細胞を保護しながら、肝ガン細胞に対するドキソルビシン化学療法の効果を高めることが確かめられました。
● 中国の広東省疾病管理予防センター、中山大学、広州市環境保護科学研究所の研究者が行った研究では、ケルセチンと抗ガン剤のシスプラチンとの組み合わせがヒト口腔扁平上皮の口腔ガン細胞のアポトーシス(細胞死)を促進し、マウスのガン増殖を阻害することが判明しました。
● 英国バーミンガム大学の研究者によって行われた小規模臨床研究では、シスプラチン治療に反応しなかった卵巣ガンの患者にケルセチンを併用したところ、腫瘍マーカーCA125が大幅に低下したと報告されています。
● 米国ウィスコンシン大学とウィリアム・S・ミドルトン記念退役軍人病院の研究者が行ったマウス研究では、ケルセチンとレスベラトロールのサプリメントの組み合わせが前立腺ガンの抗ガン効果を示したと報告されています。
● 米国テキサスA&M大学の研究者が行った別の研究では、ケルセチンとレスベラトロールとの組み合わせで結腸ガン細胞への抗ガン活性が確かめられました。
● 久留米大学が行った実験研究で、ケルセチンと抗悪性腫瘍剤のフルオロウラシル(5-FU)の併用療法が肝ガン細胞の増殖に対して抑制効果を示すと報告されています。
● スウェーデン・カロリンスカ研究所の研究では、スウェーデンの大規模な人口ベースの研究から、ケルセチンは胃ガンのリスクを大幅に下げる可能性があると報告されています。
こうしたさまざまな研究によって、ケルセチンは、膵臓ガン、乳ガン、卵巣ガン、肝臓ガン、神経膠芽腫、前立腺ガン、肺ガンなど、ガン治療において大きな可能性を秘めていることが分かってきました。今後、ヒトにおいてケルセチンの抗ガン効果を検証するため、大規模な臨床試験が行われることになっています。
一方、ケルセチンは薬並みに効果があるため、過剰摂取によって甲状腺機能の阻害を含む副作用につながる可能性があります。甲状腺機能障害や進行中の治療との相互作用などの副作用を避けるため、ケルセチンサプリメントの摂取は医師や薬剤師の指導のもとで行うことを推奨します。
日本先進医療臨床研究会ホームページ