小林メディカルクリニック東京院長 小林 暁子さん
理想的なダイエットには代謝と排泄を促す大腸を健康に保つことが大切
食べる量を減らしているのに、なかなかダイエットが成功しないと悩んでいる人はいませんか?ほかにも、ダイエットはできたけど、すぐにリバウンドしてしまったという人も多いはず。そんなダイエットにまつわる悩みを抱える人たちに朗報です。
小林メディカルクリニック東京院長の小林暁子先生は、「健美腸外来」という名称の便秘外来を設け、腸内環境と健康・美容の関係を提唱しています。小林先生いわく、ダイエットを健康的に成功させる秘訣は、食事の量や運動だけでなく、腸内環境にも目を向けることが大切とのこと。腸内にすむ“ヤセ菌”を上手に使うことで、健康的に減量ができるのだそうです。小林先生に分かりやすく解説していただきました。
「脂肪をきちんと燃焼させるには、ビタミンやミネラルといった脂肪の燃焼に欠かせない栄養素がしっかりと体の中にあることが大切です。ところが、便秘によって腸の機能が低下していると、口からとった食べ物の栄養素が適切に吸収されず、エネルギー代謝が働きにくい“燃えにくい体”になってしまうのです」
ダイエットを成功させるには、まずは健康的な体になることが大切と語る小林先生。そのカギとなるのが「腸」。代謝に必要な栄養素の吸収のみならず、腸が正しく働くことで、便が滞りなく排泄されるようになることも重要とのことです。
「おなかに溜まっていた便が体の外に出るだけでも体重の減少になります。そのほか、排便によって全身の老廃物が排泄されると、栄養物の吸収がよくなるので、代謝も高まる好循環が生まれます」
小林先生が指摘されるように、腸内環境の大切さはダイエットにとどまらず、全身の健康と深く関わっています。ひと口に「腸」といっても小腸と大腸では役割が異なります。例えば小腸は免疫力の要としての役割があるとされています。一方の大腸は、便を作って排泄する印象の臓器ですが、実は大腸こそ腸内細菌が多くすみ、健康状態を左右する臓器であることが分かってきているのです。
大腸は消化管のいちばん奥にあるので、老廃物や毒素が集まりやすい臓器です。偏った食生活や睡眠不足・ストレスなどで腸内環境が乱れると、大腸本来の機能が衰えて全身の健康リスクが高まります。この状態を“大腸劣化”と呼びます。現在、大腸がんをはじめ、潰瘍性大腸炎やクローン病といった大腸に関する深刻な病気にかかる人が増えています。大腸がんは2003年以降、女性の部位別に見たがんの死亡率で第1位となっています。食事を中心とした生活環境の変化などによって日本人の“大腸劣化”が進んでいると考えられます。
ダイエットのみならず、健康そのものに大きく関わる大腸の存在。さまざまな種類の腸内細菌が広がっている腸内フローラの状態は、小腸よりも大腸にあるとされています。
私たちの大腸には1000種類以上の腸内細菌がいるといわれています。大腸にすむ腸内細菌は、重量にして約1~2㌔㌘もあります。腸内では善玉菌・悪玉菌と、優勢なほうに加勢する日和見菌という菌が勢力争いをしています。理想的な腸内環境とは、善玉菌を中心に3つの菌がバランスよく存在している状態です。大腸における腸内フローラの状態が、肥満をはじめ、脳にも影響を及ぼすといった論文も多く発表されています(大腸劣化対策委員会HPより)
善玉菌の中で特に注目されているのが、脂肪の吸収を抑えたり、脂肪を燃やしたりする働きを持つ「短鎖脂肪酸」を作る腸内細菌の存在。短鎖脂肪酸は、ビフィズス菌や酪酸菌といった腸内細菌が水溶性の食物繊維などをエサに大腸で発酵して作り出す成分です。短鎖脂肪酸を作る働きをする菌は“ヤセ菌”と呼ばれています。
「短鎖脂肪酸を作るヤセ菌として代表的な菌が、善玉菌の1つであるビフィズス菌です。短鎖脂肪酸の1つである酢酸には強力な殺菌作用があり、腸内環境を健全に保つために役立ちます。
また、腸内の日和見菌は短鎖脂肪酸の1つである酪酸を作り出します。酪酸は脂肪の蓄積を抑える作用や、エネルギー代謝を活発にするなどして、太りにくい体質を作るのに役立ちます」
善玉菌のみならず、日和見菌もダイエットに役立つと話す小林先生。大腸の腸内環境を整えて、短鎖脂肪酸を作りやすくすることが、健康的なダイエットを成功させるカギといえそうです。
ビフィズス菌を入れて・育てて・キープする3つのステップでヤセ体質を手に入れよう!
大腸の腸内環境を整えてダイエットを成功させるには、どうしたらいいのでしょうか。小林先生に3つのステップを教えていただきました。
●ビフィズス菌を入れる
第一のステップとして試みたいのが、「短鎖脂肪酸を作り出す菌の種類を体の中に入れること」。具体的には、ビフィズス菌を摂取して腸内環境を整えることで、短鎖脂肪酸が作られやすくなります。特に女性は50代を境に代謝が大きく低下するため、太りやすくなります。スーパーマーケットやコンビニエンスストアで手軽に購入できるビフィズス菌入りのヨーグルトを食べる習慣をつけるのがおすすめです。ヨーグルトの中にはビフィズス菌が入っていないものも多いため、ビフィズス菌入りのヨーグルトを選んでとるのがよいでしょう。
●ビフィズス菌を育てる
腸内にビフィズス菌を入れたら、育てていきましょう。菌を育ててくれるベストパートナーといえる食材が、オリゴ糖や水溶性の食物繊維です。具体的には、海藻類やオクラ、長芋、なめこ、アボカドなどです。これらは胃や小腸で消化・吸収されることなく、大腸まで届いてビフィズス菌のエサになります。大腸にすむビフィズス菌がこれらの食材を分解・発酵することで短鎖脂肪酸が作られるのです。
●ビフィズス菌をキープする
腸内でビフィズス菌を育てて増やすだけでなく、腸の外からのケアも行いましょう。腸は体の中で浮いているように存在する臓器です。そのため、加齢や出産、筋力の低下などによって腸の位置が下がりやすくなります。すると、便を肛門まで送り出す蠕動運動が働きにくくなるので、便秘の原因となります。
腸を支えているのは「腸腰筋」という筋肉です。腸腰筋を意識したウォーキングやストレッチなどで、腸を正しい位置に保って蠕動運動が働くようにしましょう。また、座りっぱなしの姿勢を取っていると、腸腰筋の筋力が落ちてしまいます。座り仕事が多い人は、休憩中にストレッチなどをしましょう。 短鎖脂肪酸が作られやすい理想的な腸内環境こそ、健康と美容のキーワード。ビフィズス菌は年齢とともに減っていくので、入れて・育てて・キープすることが大切です。この夏はビフィズス菌を積極的にとって、太りにくい体質を手に入れましょう!