将棋はMCIの改善効果が期待でき脳が検索することで前頭葉が刺激される
新鋭の棋士として連日のように新記録が報道される藤井聡太六段、永世七冠を達成し、国民栄誉賞を受賞した羽生善治九段、引退後も将棋のおもしろさを説く加藤一二三元九段らの活躍で、将棋に興味を持つ人が増えています。テレビでは将棋番組の視聴率が上がり、書店には将棋関係の本が多く並んで、将棋盤の売れ行きも好調だそうです。
将棋に注目が集まることは、認知症の治療を専門にしている私にとっても大変喜ばしいことです。将棋や囲碁で継続的に頭を使うことによって、脳を活性化できるからです。将棋をすることで鍛えられるのは、脳の前頭葉。頭の前方に位置する前頭葉は、思考・運動・創造などにかかわる〝脳の最高司令部〟といっても過言ではない重要な部分です。
将棋は、紀元前のインドで生まれたチャトランガというゲームが起源です。チャトランガは各地方に伝搬し、日本では将棋へ、ヨーロッパではチェスへと発展しました。
チェスについては、認知症の前段階であるMCI(軽度認知障害)から認知症への移行を遅らせることが、ヨーロッパの研究で実証されています。チェスとルーツを同じくし、ルール上の類似点が多い将棋でも、認知症に対する大きな効果が期待できるのです。
認知症の予防に効果が期待できるのは、将棋やチェスだけではありません。囲碁やボードゲーム全般に脳を活性化させる効果があります。ボードゲームが認知症に有効な理由は、ゲーム中に相手の考えを読み取り、先を読む努力が必要になるからと考えられます。
ボードゲームでは、相手がどのような手を仕かけてくるか、自分はどのように対応すればいいか、積極的に攻めていくべきか、守りを固めるべきかなど、攻守のタイミングを常に考える必要があります。集中して〝次の一手〟を考える作業は、脳内にある過去の経験から情報を「検索」することに近い行動です。検索する作業を行っているのが、脳の前頭葉。日常的に前頭葉で検索することを怠れば、物忘れが激しくなったり、注意力が落ちたりするという症状が起こるのです。
ボードゲームは、ルールの範囲内で複数の手の中から勝ちにつながる手段を見つけたり、相手を混乱させるパターンを考えたりするなど、高度な脳の働きが求められます。つまり、それだけ前頭葉を鍛えることができるのです。
将棋は8種類のコマを盤上で動かし、相手の王様を取りに行くゲームです。コマの動きなど、覚えるルールは限られていても、盤上の展開によって相手の動きを予測した臨機応変な攻守の対応が求められます。
将棋が脳にいいといっても、すぐに効果が現れることはないでしょう。将棋を楽しみながら、定期的に継続することが大切です。持続的に前頭葉を刺激することで、認知症の長期的な予防効果が期待できると考えています。
インターネットのゲームよりも相手と向き合う生の対局で脳がより活性化する
将棋はインターネット上で誰かと対戦するよりも、実際に相手と向き合って対局するのがいいでしょう。対局中のやり取りはもちろん、対局以外のコミュニケーションも生まれるので、前頭葉がより活性化します。認知症予防に1人で黙々と漢字や計算のドリル、クイズをするよりも、相手と話しながら楽しめる将棋やボードゲームは続けやすいはずです。
相手の気持ちを読み取る能力を鍛えるには、マージャンも適していると考えられます。デイサービスなどでは入所者の脳の老化予防にマージャンを取り入れているところも少なくありません。団塊の世代の男性には、若いころにマージャンを楽しんでいた人が多いので、取り組みやすいゲームの1つだと思います。
相手の気持ちを読み取るトレーニングとしては、ボードゲームではありませんが、社交ダンスも適していると考えられます。相手の気持ちがわからなければ、ダンスを楽しむことができないからです。ペアを組んだ相手の気持ちを考えながら、手や足を動かしてステップを踏む社交ダンスも、脳の活性化に役立ちます。
カラオケも認知症の予防に効果的といえます。特に、カラオケは誰かとデュエットで歌うことがおすすめです。2人で声を合わせるには相手を思いやり、気持ちを読み取ることが欠かせません。カラオケで大きな声を出すことそのものがストレスを発散させ、脳の活性化につながります。