日常生活に支障をきたす月経困難症の最大原因は子宮内膜症で9割が月経痛に悩む
重い月経(生理)痛に悩んでいませんか。日常生活に支障をきたすほどの痛みであれば、子宮内膜症を疑ってみてください。
「子宮内膜症」という言葉に、聞き覚えがある人は少なくないかもしれません。子宮内膜症は、月経がある女性の10人に1人が罹患している疾患です。子宮内膜症と診断されて治療を受けている患者さんは、1997年の厚生省(現・厚生労働省)による調査では約13万人、2014年に日本産婦人科学会が行った調査では約22万人と報告されています。治療を受けていない人も含めると、200万人以上が罹患していると推計されています。
子宮内膜症は、月経困難症を引き起こす病気の1つです。女性は少なからず、月経期間中に下腹部痛・腰痛・頭痛・吐き気などの症状に苦しんでいます。月経困難症とは、日常生活が困難になるほど、月経に伴う症状が強く現れている状態のことです。
重い月経痛は月経困難症の症状の1つですが、かつては病気という認識はなく、がまんするものと思われていました。理解のない人たちから「たかが月経痛」と軽く見られていたのです。現在、日本における月経困難症患者さんの人数は、800万人以上に上ると推定されています。ところが、その中で医療機関を受診しているのは、わずか10%だといわれています。
月経困難症には複数の原因が考えられ、子宮や卵巣の病気が原因となることもあります。月経困難症を引き起こす病気の代表が、子宮内膜症です。子宮や卵巣に起こる疾患が原因で月経困難症を発症している患者さんの半数以上が、子宮内膜症を併発しているといわれています。さらに、月経困難症の患者さんは、健康な人に比べて子宮内膜症になる危険性が2.6倍にまで高まるという報告もあります。
子宮内膜症の患者さんの多くが抱える悩みは重い月経痛です。9割近くの人が月経時に重い痛みを経験し、およそ7割の人が月経時以外でも痛みを感じています。
子宮内膜症は器官や臓器の機能を低下させ卵巣で発症するとがんの危険度も高め
では、次に子宮内膜症が起こるしくみについて解説しましょう。
女性の卵巣からは、毎月1回、卵子が排出されます(排卵)。そのさい、子宮では受精卵が着床しやすくなるように子宮内腔にある子宮内膜の厚みが増します。精子が卵子に到達して受精卵になり、子宮内膜に着床すると妊娠が成立します。妊娠しなかったときは、不要になった子宮内膜が剥がれて体外に排出されます。これが月経です。
子宮内膜症は、月経血が子宮内腔から卵管を通って腹腔内へ逆流することによって発症します。月経のある女性の9割に、月経血の逆流が見られます。子宮内膜組織を含む月経血が逆流し、子宮以外の臓器や腹膜などの表面に付着します。通常であれば付着した子宮内膜組織は自然に吸収されるのですが、なんらかの原因によって残ってしまうことで子宮内膜症は起こります。
子宮内膜が移植されやすい場所は、子宮の周囲にある卵巣や腹膜、ダグラス窩(子宮と直腸の間にあるくぼみ)、直腸などです。まれにへそや肺、膀胱、リンパ節などにも起こります。
子宮以外の場所や別の器官・臓器に付着した子宮内膜組織も、月経を迎えるたびに増殖・出血します。通常、子宮内膜は月経時に排出されますが、子宮以外の場所にできた子宮内膜組織は体の外に排出されません。出口のない場所で子宮内膜組織が増殖して炎症が起こると、激痛が生じます。
さらに、移植された子宮内膜組織が定期的に増殖を繰り返すことで組織が変質し、周辺の組織と組織をのりのようにくっつけてしまいます(癒着)。癒着が進行すると、器官や臓器の働きが低下していきます。さらに、臓器どうしが引っ張られることで激しい痛みが起こります。
卵巣や卵管に子宮内膜症が起こると、不妊の原因ともなります。子宮内膜症の患者さんの約半数に、不妊の傾向が見られるといわれています。
卵巣で子宮内膜症が起こると、出血して卵巣が大きく腫れて嚢胞が発生します。古くなった血液の色がチョコレートのような色に見えることから「チョコレート嚢胞」と呼ばれています。チョコレート嚢胞が起こると、卵巣がんを発症するリスクが高まるため注意が必要です。
子宮内膜症の症状は、下腹部痛・腰痛・性交痛・排便痛といった痛みがあります。該当する症状が複数ある場合は、子宮内膜症を疑ってください。子宮内膜症は進行性の病気のため、早期発見・早期治療が有効です。月経を重ねるたびに痛みが強くなる場合はもちろん、つらい月経痛で悩んでいる方は必ず専門医の診療を受けるようにしてください。低用量ピルなどのホルモン剤治療を始めると、子宮内膜症の発症や進行の予防ができると考えられます。
腹腔鏡手術なら手術した翌日に動けるため社会復帰が早く癒着の危険性も低下
子宮内膜症の治療には、大きく分けて薬物療法と手術療法の2つがあります。患者さんの年齢や症状、妊娠を望んでいるかどうかなどによって選択肢が変わるため、医師と相談しながら最適な治療法を選びましょう。
子宮内膜症の薬物療法は、鎮痛剤とホルモン剤の2つに分けられます。鎮痛剤は痛みの緩和にはたいへん有効な手段ですが、子宮内膜組織に作用しないため、対症療法にすぎません。子宮内膜症の進行を抑えて症状を改善するには、ホルモン剤を用いた治療が行われます。かつては、体を閉経した状態に近づける治療法が一般的でしたが、現在は低用量ピルを用いて妊娠した状態に近づける治療法が普及しています。
プロゲステロンとエストロゲンという女性ホルモンの両方を配合している低用量ピルは、避妊薬として飲まれています。プロゲステロンには、子宮内膜組織に直接働きかけて増殖を抑える作用があるほか、月経痛を和らげる働きもあります。
ただし、ピルに含まれるエストロゲンには血栓(血の塊)ができやすくなるなどの副作用があるため、肥満や高血圧で血栓のできやすい人には使いにくいという問題があります。その場合には、プロゲステロン単体の薬の投与を行うこともあります。ただし、プロゲステロン単体の薬を投与すると、体内で分泌されるエストロゲンの働きが不安定になり、不正出血などが起こりやすくなるという問題もあります。
子宮内膜症の治療において、手術療法は重要です。特に、腹腔鏡手術の技術の進歩には、目をみはるものがあります。かつて腹腔鏡手術が注目されたのは、傷が小さくて済み、患者さんの負担が小さいという利点があったためでした。現在は、さらに技術が進歩したことで、より多くのメリットが得られることが分かってきました。
腹腔鏡手術は、下腹部に5㍉程度の穴を3~4ヵ所開け、器具やカメラを挿入してモニターを見ながら行う手術です。腹腔鏡は体の奥深くまで到達し、小さな患部を拡大して観察できます。子宮内膜症の病巣は骨盤底に多く、その切除には細かい操作が必要になるので、腹腔鏡の持つ拡大観察機能は大きな長所となります。
開腹手術では2週間前後の入院が必要になる場合もあります。女性の社会進出が求められている現在において、2週間の入院とその後の自宅安静による弊害は少なくありません。患者さんの負担が軽い腹腔鏡手術であれば、2週間程度で社会復帰が可能となります。
術後すぐに動くことができるのは、癒着の予防という意味でも大きな利点になります。子宮内膜症の癒着は、同じ姿勢のままじっとしていることで起こりやすくなります。開腹手術後では、術後に安静が求められるため、癒着のリスクを高めていたともいえます。腹腔鏡手術で術後すぐに体を動かすことができれば、癒着の危険性は格段に下がるのです。
もちろん、腹腔鏡手術が万能だとはいえません。手術経験の不足した医師であれば、臓器の機能を損なってしまうおそれも考えられます。とはいえ、腹腔鏡手術の経験が豊富な医師は、現在どんどん増えています。手術の必要がある場合は、主治医と相談して腹腔鏡手術の技量が確かな医師を紹介してもらうといいでしょう。
月経痛を和らげるには下半身の血流促進が期待大で入浴の他に適度な運動もおすすめ
子宮内膜症に限らず、重い月経痛に悩まされている人は、特に下半身の冷えに気をつけてください。血流が滞ることで痛みの原因物質が作られるようになると、痛みはますます強くなってしまいます。
下半身の冷えと血流低下を避けるには、温めることが有効です。湯たんぽの活用や入浴は、体を温めるのに有効な方法です。お風呂の温度は少しぬるめの38度C程度に設定するといいでしょう。また、適度な運動も下半身の血流改善に期待が持てます。ウォーキングやエアロバイクなどがおすすめです。
子宮内膜症は、患者さんの人生に大きな影響を及ぼしてしまうおそれがある疾患です。例えば、月経が始まった時期は月経困難症で生活の質が下がり、結婚後には妊娠の障害となり、閉経前後になると卵巣がんの危険性を高めてしまうのです。
子宮内膜症は早期発見・早期治療がいちばんです。充実した幸せな人生を歩むためには、転ばぬ先の杖が欠かせません。月経時の症状に少しでも気になることがあれば、できるだけ早急に婦人科を受診することを強くおすすめします。