福岡腎臓内科クリニック副院長 谷口 正智
現代の日本では高齢化に伴って慢性腎臓病の患者が急増中で成人の8人に1人が発症
現代の日本では、高齢化に伴って、腎機能が低下する慢性腎臓病(CKD)の患者さんが急増しています。慢性腎臓病とは、慢性的に腎機能が低下する腎臓病の総称です。日本腎臓学会の報告によれば、日本国内の慢性腎臓病の患者数は約1330万人で、成人の8人に1人の割合という状況です。さらに、慢性透析患者数は約33万人で、新たな国民病になりつつあるといっても過言ではありません。
慢性腎臓病と診断されるのは、次の①②のいずれか、または両方の状態が3ヵ月以上続いた場合です。慢性腎臓病の病期は推算糸球体ろ過量の数値によってG1~G5までの6段階に分けられます(G3はaとbに区分け)。
①尿検査でたんぱく尿1+以上、血尿1+など
②推算糸球体ろ過量(eGFR)が60未満
たんぱく尿や血尿などの検査は、腎臓のろ過機能が正常かどうかを調べるものです。ろ過機能に異常があると、体内にとどまるべきたんぱく質などが尿中に漏れ出してしまいます。
たんぱく尿は、濃度によって「-」「+-」「1+」「2+」「3+」「4+」の6段階に分けられます。正常な範囲は「-」「+-」です。「+」の数字が大きくなるほど尿に含まれるたんぱく質の濃度が高く、腎臓からろ過されて再吸収しきれない量のたんぱく質が尿中に漏れ出ていることを示しています。
一方、糸球体ろ過量は、1分間にすべての糸球体によってろ過される血漿(血液中の赤血球、白血球、血小板を除いた液体成分)の量です。糸球体ろ過量の数値を調べるには、血清クレアチニン値をもとにした計算法を用いて、推算糸球体ろ過量(eGFR値)を算出します。
クレアチニンとは、筋肉中の成分が代謝されてできる老廃物の1つです。たんぱく質とは異なり、クレアチニンは一定の量が常に尿とともに排出されなければならないものです。クレアチニンが正常に排出されているかどうかを調べたものが、糸球体ろ過量です。
腎機能が悪化すると造血ホルモンの分泌量も低下し赤血球の数の減少で腎性貧血を発症
慢性腎臓病が進行して腎機能が低下すると、さまざまな症状や合併症が現れてきます。主な症状や合併症として、浮腫(むくみ)や貧血、夜間頻尿・頻尿、だるさ、かゆみなどが挙げられます。その中でも気をつけたいのが「腎性貧血」です。腎性貧血は、推算糸球体ろ過量が45未満(ステージG3b)を境に現れはじめ、30未満(ステージG4)になると高い割合で発症します。
腎臓は、体にとって有益なコミュニケーション物質を何種類も分泌しています。その1つが「エリスロポエチン(以下、エポと略す)」です。エポは赤血球を作る働きのあるホルモンで、別名“造血ホルモン”と呼ばれています。
腎性貧血は、腎機能の低下に伴って腎臓から分泌されるエポの量が減少することで起こります。エポの量が減少すると、骨髄の赤血球を作る能力が低下してしまうからです。
赤血球の重要な働きは、全身に数十兆個ある細胞に酸素を送り届けることです。私たちの体を構成している細胞が正しく活動するには、酸素の存在が欠かせません。しかし、腎機能が低下してエポの分泌量が減少すると、赤血球の数も減少します。赤血球によって細胞に酸素が運ばれなければ、体は酸素不足に陥ってしまいます。
また、エポの分泌量が減少して造血能力が低下すると、赤血球の数が減少するだけでなく、赤血球の質も劣化します。正常な赤血球は「変形能」と呼ばれる能力を備えています。赤血球の変形能とは、直径約八㍈の赤血球が直径約6㍈しかない毛細血管に入るためにみずからの形を変える能力のことです。
ところが、劣化した赤血球は柔軟性を失い、変形能が低下します。みずからの大きさよりも細い毛細血管の中に入っていけなくなるため、末端の細胞に酸素を届けられなくなります。腎臓に張り巡らされた毛細血管への酸素供給がとだえると、腎機能の低下に拍車がかかってしまうのです。
腎機能の造血作用や赤血球の柔軟性を保持するには、動脈硬化の指標となる中性脂肪やコレステロールの数値、肥満度などにも注意が必要です。動脈硬化を予防・改善して血流改善による好循環を維持することで、血液の浄化に努めましょう。