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第3の合併症は骨粗鬆症

糖尿病・腎臓内科

福岡腎臓内科クリニック副院長 谷口 正智

慢性腎臓病患者は活性型ビタミンDとリンの調節不良で骨粗鬆症・骨折を招く

[たにぐち・まさとも]——1996年、九州大学医学部卒業。同大学第2内科腎臓研究室、同大学大学院医学研究院病態機能内科学助教、米国テキサス大学サウスウェスタン・メディカルセンター内科学客員助教、福岡腎臓内科クリニック透析室室長を経て、現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本腎臓学会専門医、日本透析学会評議員・専門医・指導医。

(じん)(せい)(ひん)(けつ)」と並んで気をつけたい慢性腎臓病(CKD)の合併症は「慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常(CKD-MBD)」です。慢性腎臓病に伴う骨・ミネラル代謝異常は、腎性貧血と同じように推算()(きゅう)(たい)ろ過量(eGFR)が45未満(ステージG3b)を境に現れはじめ、30未満(ステージG4)になると高い割合で発症します。

心臓から大動脈には1分間に約5㍑の血液が送り出されます。体重の200分の1以下の重さしかないにもかかわらず、腎臓には1分間に約1㍑(約5分の1)もの大量の血液が流入しています。腎臓は血液量の最も多い臓器の1つなのです。その理由は、腎臓が全身の臓器で作られた老廃物を尿に捨て、血液中の成分を一定に保つ働きをしているためだと考えられます。

血液中には、ナトリウムやカリウム、カルシウム、リンなど、さまざまな成分(電解質)が含まれています。腎臓は血液中に含まれる成分を基準値内に収めて調節する仕事を一手に担っています。さまざまな臓器や器官と連携しながら赤血球の増産や血圧の管理、さらには血液中の成分の調節まで行っている腎臓は、人体という緻密な生命ネットワークの “血液の番人”とも呼ぶべき存在なのです。

腎臓によって血液中の濃度が管理されているカルシウムは、骨の原料となることは多くの方がご存じだと思います。体内にあるカルシウムの99%は骨や歯の形成に使われ、骨はカルシウムの貯蔵庫としての役割も果たしています。また、残りの1%は血液中や細胞に存在し、筋肉や神経の働きを正常に保ったり、ホルモンの(ぶん)(ぴつ)や血液の凝固作用に関わったりするなど、重要な役割を担っています。

血液中のカルシウムは、常に一定の濃度に保たれるよう、のどぼとけの下に位置する(ふく)(こう)(じょう)(せん)という組織でも調節されています。副甲状腺は、体内のカルシウムの量が不足すると副甲状腺ホルモン(PHT)を分泌し、骨に貯蔵されているカルシウムを血液中に送り出します。

さらに、副甲状腺ホルモンは、骨の形成を促す活性型ビタミンDの産生にも関わっています。活性型ビタミンDは、小腸からのカルシウムの吸収を促進し、骨を形成するうえで重要な役割を果たしています。ビタミンDは食事から体内に取り込まれたり、紫外線を浴びることで合成されたりします。ビタミンDは腎臓や肝臓で酵素の働きを受けることで活性型ビタミンDとなり、小腸からのカルシウムの吸収を促進するのです。

腎機能の低下に伴って活性型ビタミンDの産生量が減ると、小腸からカルシウムを十分に吸収することができなくなります。また、腎不全になると、リンを尿中に排出する機能も低下し、血液中のリンの濃度が上昇します。カルシウムとリンはシーソーのような関係で、リンの濃度が上がるとカルシウムの濃度が下がります。慢性腎臓病の患者さんは「活性型ビタミンDの産生量の低下」と「血液中のリンの濃度の上昇」という2つの理由によって、血液中のカルシウムの濃度が低下してしまうのです。

副甲状腺が血液中のカルシウム不足を察知すると、大量の副甲状腺ホルモンを分泌します。その結果、骨からカルシウムとリンがどんどん溶け出してしまうのが「()()(せい)(ふく)(こう)(じょう)(せん)()(のう)(こう)(しん)(しょう)」という病気です。副甲状腺ホルモンが増えつづけることで骨がもろくなり、(こつ)()(しょう)(しょう)や骨折を引き起こしてしまうのです。

骨粗鬆症は、骨密度が低下して骨折しやすくなる骨の病気です。骨がもろくなっているため、軽い転倒による骨折だけでなく、セキやくしゃみをしただけでも骨折の危険性が高まります。

腎機能が低下すると骨粗鬆症による大腿骨近位部骨折の発症頻度が高くなると判明

日本国内における骨粗鬆症の患者数は高齢化に伴って増加傾向にあり、特に女性に多く見られる

日本国内の骨粗鬆症の患者数は高齢化に伴って増加傾向にあり、2005年の時点で1280万人と推定され、予備群を含めると2000万人に達するといわれています。特に女性に多く見られ、患者全体で女性が占める割合は8割以上に上ります。

骨粗鬆症は、(よう)()(せき)(ちゅう)(かん)(きょう)(さく)(しょう)や変形性関節症と並んで、運動器症候群(ロコモティブシンドローム)の3大原因の1つです。運動器症候群は、骨や関節、筋肉といった運動器の障害によって要支援・要介護になるリスクが高い状態のことで、生活の質(QOL)を著しく低下させかねません。

骨粗鬆症が原因で骨折が生じやすいのは、脚のつけ根の(だい)(たい)(こつ)(きん)()()、背骨の(つい)(たい)、腕のつけ根の(じょう)(わん)(こつ)(きん)()()、手首の(とう)(こつ)(えん)()(たん)などです。特に大腿骨近位部を骨折した場合、歩行能力の低下などの後遺症が残ることが多く、介護が必要になったり寝たきり状態になったりするリスクが高まります。

骨粗鬆症の最大の合併症といえる大腿骨近位部骨折の発症頻度は、腎機能が低下していると高くなることが知られています。特に、腎機能が著しく低下した末期腎不全の(とう)(せき)患者では、大腿骨近位部骨折の発症頻度が数倍から10倍に上るという報告もあります。

大腿骨近位部骨折で恐ろしいのは、高齢者の場合、手術後1年未満の死亡率が10%以上になることです。複数の原因が考えられますが、骨折後の活動の低下に伴って心肺機能が衰弱してしまうことなどが要因の1つといわれています。

大腿骨近位部骨折の原因は、9割以上が転倒によるものです。そのため、骨粗鬆症の予防だけでなく、転倒を防ぐこともとても大切です。背中が丸まっていたり、すり足になって(つま)(さき)が上がっていなかったりすると転倒しやすくなります。体幹や下半身のトレーニングを行うことで、姿勢の改善を心がけましょう。