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誤嚥性肺炎の入院患者ゼロを達成した伝説の歯科衛生士 健康寿命を延ばすカギは“健口”にあり!

ニッポンを元気に!情熱人列伝

歯科衛生士、ピュアグループ歯科衛生士事務所代表 精田 紀代美さん

北陸を中心に口腔ケアの啓発活動を展開する歯科衛生士の精田紀代美さん。介護施設で「誤嚥性肺炎の入院患者ゼロ」を達成した独自のノウハウは、「セイダ式口腔ケア」として学会で発表され、大きな注目を集めました。“おんなきよまろ”の芸名でも活動する精田さんが新しく開発した「オーラル救急箱」にも注目です!

笑いを交えて口腔ケアの大切さを伝える「健口講演会」が大人気!

[せいだ・きよみ]——1950年、富山県生まれ。富山県保健所に30年間勤務した後、独立。2015年、「誤嚥性肺炎の入院患者ゼロ」を達成した独自の口腔ケアを学会で発表し、注目を集める。“おんなきよまろ”のキャラクターで登場する「健口講演会」をはじめ、全国の施設で口腔ケアの指導と後進育成に尽力している。

社会の高齢化とともに、高齢者の命を脅かす疾患の一つとして危険視されているのが、口の中の細菌が誤って気管支や肺に入ることで生じる「誤嚥性肺炎」です。

現在、誤嚥性肺炎を防ぐために、歯科領域の専門家を中心にさまざまな取り組みがされています。その中で圧倒的な存在感を放っているのが、歯科衛生士の精田紀代美さんが考案・指導する「セイダ式口腔ケア」です。学会でも高く評価された独自の口腔ケアが生まれた経緯について、精田さんにお話を伺いました。

「私は約30年間、富山県の公務員として保健所に勤務していました。50歳を迎えた2001年に早期退職をして独立。以来約20年間、口腔ケアの大切さを伝える啓発活動と技術指導をライフワークにしています」

数年前から広く報道されるようになった、高齢者と誤嚥性肺炎の問題。精田さんによると、実は30年以上前から、病院や介護現場で深刻な問題になっていたといいます。

「ご高齢の方は『ピンピンコロリで逝きたいね』と、よくおっしゃいますが、誤嚥性肺炎にかかるとそうはいきません。誤嚥性肺炎を起こした多くの患者さんは入院を数回繰り返し、徐々に体力が落ちてから亡くなられます。ピンピンコロリとはほど遠く、とても苦しい思いをして亡くなられるのです」

国が誤嚥性肺炎の対策を検討しはじめ、歯科を中心とした医療機関や福祉施設に口腔ケアの指導を勧めたのは2009年のこと。当時、独立したばかりだった精田さんは、国を挙げた口腔ケアの推奨を好機ととらえ、歯科衛生士ならではの口腔ケアを事業方針に定めたといいます。

早速、地元である富山県を中心とした北陸各地の介護施設を訪問し、職員さん向けの口腔ケアの指導を始めた精田さん。多くの施設を訪れるたびに、口腔ケアの深刻な実態を目の当たりにしたといいます。

“おんなきよまろ”のキャラクターに変身した精田さん。赤い着物と青い扇子がトレードマーク

「高齢者施設の職員さんにとって、大きな負担になっているのが、食事の介助と排泄の2つです。特に、慣れた手つきで入所者のおむつをパパッと取り替えるベテランの職員さんでも、食事の介助に関しては慎重です。嚥下機能が低下している高齢者は、お正月のおもちどころか、小さなアメ玉でも喉に詰まらせてしまうからです。施設内で誤嚥が起こると、事件性のなさを証明する手続きとして、警察を呼ばなければいけないこともあります。職員さんは施設にやって来た警察官から、「事件性はないか」「故意にやったのではいか」と、取り調べを受けることもあるんです。真剣に介助に取り組んでいた職員さんの中には、あらぬ疑いをかけられて仕事に嫌気が差し、現場を離れてしまった方もいるんです」

精田さんが話すように、高齢者のケアは慎重な配慮が求められる一方で、努力がむくわれにくい環境といえます。過酷な福祉の現場で懸命に働く職員さんたちの力になりたいと思った精田さんは、現場から答えを探し出そうとしたそうです。

「口腔ケアというと歯磨きを連想しますが、私が誤嚥性肺炎を防ぐカギと考えたのは、当時誰も注目していなかった“舌”でした。誤嚥性肺炎は口内の細菌が誤って気管に入り、気管支を経由して肺に侵入することで起こります。逆にいえば、口の中が悪玉菌に侵されていなければ、誤嚥をしても肺の炎症までには至らないのではないか。つまり、誤嚥性肺炎を防ぐには、口の中を清潔に保つことが何より大切なんです。ところが、当時の口腔ケアは歯を磨くことを推奨するばかり。舌の掃除を指導する専門家はほとんどいなかったと思います」

精田さんが“誤嚥性肺炎を防ぐカギ”として「清潔な舌」のほかに挙げるのが「舌の筋力」。介護施設の入所者の中には、歯がほとんどなくても舌を上手に使うことで誤嚥を起こさずに食事をとっている人がいたそうです。そのような人に共通していたのは「舌を自然にお椀のような形に丸められること」。舌を椀型に整えることで食べ物がこぼれず、誤嚥が起こりにくくなります。北陸各地の施設をめぐって高齢者の口の中を観察しつづけた精田さんは、口腔における健康寿命を決定づけるのは「舌」にあると気づいたのです。

“おんなきよまろ”に扮して開催する「健口講座」は各地で大人気!

「年を取ると下半身の筋肉が落ちるように、加齢によって舌の筋力も落ちていきます。例えば、介護施設では入所者さんの多くが車イスに座ったままオープンスペースでテレビを見て過ごします。おしゃべりをする機会が少ない入所者さんは、舌の筋力がどんどん衰えてしまうのです。ところが、入所者さんの中で誤嚥を起こしにくい人もいます。大声を出して騒ぐ人です。自然に舌とのどが鍛えられるんですよ」

介護施設で見た多くの実例から、舌のケア(舌そうじ)と舌の筋力強化(舌筋トレ)」の必要性を確信した精田さん。口腔ケアにおける舌の大切さを広めようと講座を企画したものの、普及にはとても苦労したと振り返ります。

「最初の頃は公民館を借りて講座を開催していました。午前中に参加者全員でゲートボールや体操を楽しんだ後、昼食をいただきます。午後からはいよいよ口腔ケアの講座ですが、始まる前に多くの方が家に帰ってしまうんです」

健康寿命のみならず、ときには命にもかかわる口腔ケアの大切さについて、どうしたら関心を持ってもらえるのか……。2年間悩みつづけた精田さんは、ある講演会を主催した自治体の区長さんから「あなたの話は面白くてためになるから、芸人として話をしてみたら?」とアドバイスを受けたそうです。“おんなきよまろ”のキャラクターが誕生した瞬間です。

精田さんが考案した「セイダ式口腔ケア」は、福祉施設の現場で広く普及している

「名前が紀代美なので、高齢者に大人気の綾小路きみまろさんにあやかって、区長さんが“きよまろ”と命名してくれたんです。ほんとうにやるべきかどうか悩みましたが、『講演会に足を運んでもらうきっかけがお笑いでもいいじゃない。私が道化となって口腔ケアの大切さを伝えよう!』と覚悟を決めました」

精田さんは赤い派手な衣装と扇子がトレードマークの“おんなきよまろ”として活動を開始。講演会の名称も「爆笑健口ライブ」と変えて大人気の講座となったのです。

「面白いだけでは口腔ケアの大切さは伝わりません。そこで私は、舌そうじと舌筋トレによる具体的な事実を数字といっしょにお伝えしています。例えば、2013年に計10ヵ所の高齢者施設で指導したセイダ式口腔ケアの結果について、『約880人の入所者の中で誤嚥性肺炎を起こした入所者はゼロ!』と紹介すると、皆さん身を乗り出して聞いてくださるんです」

誤嚥性肺炎を防ぐメソッドとして学会発表も行われたセイダ式口腔ケアは、誤嚥性肺炎のみならず、インフルエンザの予防効果も高めることが分かり、医療関係者から大きな注目を集めています。

「そのほかに分かりやすいお話としてお伝えしているのが、かつて“百歳姉妹”として国民的人気を集めた「きんさん・ぎんさん(成田きんさん・蟹江ぎんさん)」のエピソードです。おふたりの長寿の秘密を生活習慣から分析した歯科医師の先生の記録から、きんさんとぎんさんは、生活の中で舌そうじと舌の筋トレを実践していたことが分かったんです」

精田さんが代表を務める富山県の口腔ケアサロン「Teeth Ai」。「誰もが気軽に利用できる口腔ケアサロン」として人気

精田さんによると、女性は出産によって歯が弱くなり、抜けやすくなるとのこと。実際に、14人を出産した晩年のきんさんの歯はゼロ。5人を出産したぎんさんも、歯は5本しか残っていなかったそうです。おふたりにとって、歯の代わりとなったのが、強靭な歯茎と柔軟な舌。朝食にイワシの丸干しを頭からバリバリと食べる習慣があったきんさんとぎんさんは、舌と歯ぐきを使って食事をしていたそうです。

さらにおふたりは、日課として毎朝の起床後に口をゆすぎ、銅線で舌苔を落としてから仏壇に手を合わせていたとのこと。うがいの習慣は仏様に手を合わせる前の“お清め”の意味だったようですが、結果として理想的な口腔ケアになったと精田さんは分析しています。

「口内の細菌数は、朝起きたときが最も多いんです。口の中で細菌が増殖したまま朝食をとって誤嚥を起こしたら、大量の細菌が気管支から肺に入ります。多くの人が食後にしている歯みがきは、細菌が増殖している朝の起床後に行うのが最も理に叶っています。昔の日本人は、きんさんとぎんさんのように、朝に手と口を清めた後、仏壇や神棚に手を合わせる習慣がありました。高齢者の誤嚥性肺炎が増えているのは、社会の高齢化もさることながら、日本の伝統的な習慣が失われてしまった結果なのかもしれません」

セイダ式口腔ケアのメソッドを凝縮したオーラル救急箱を開発!

「Teeth Ai」の隣にある「健口神社」は、健康を祈願する人の隠れスポット

口腔ケアの分野で長年、注目されなかった「舌」を重視し、笑いを交えた啓発活動と指導で確かな結果を残してきた精田さん。セイダ式口腔ケアの集大成として新しく開発したのが「オーラル救急箱」です。

「2011年の東日本大震災では、避難所での生活が長く続いた高齢者の多くに口腔機能の低下が見られました。特に高齢者は、避難所生活が3日目に入ると嚥下機能の低下が始まり、中には誤嚥性肺炎を起こした人も少なくなかったそうです。さらに、2年前に起こったコロナ禍によって、いまもマスク生活が続いています。常にマスクを着けて会話を控える生活は、唾液の分泌が減少して口の中で細菌が繁殖しやすくなります。さらに、感染予防の観点で大きな声を出さない生活は、舌の筋力低下を招くなど、高齢者の口腔環境にとてもよくないんです」

そこで精田さんは、舌そうじと舌筋トレが同時にできる「二刀流舌筋トレーナー君」を中心に、セイダ式口腔ケアに欠かせないアイテムを詰め込んだ「オーラル救急箱」を開発。広く普及を図っています。

精田さんによると、高齢者施設でセイダ式の口腔ケアを施すと、サラサラ唾液とは異なる”とろ~り”とした液体が舌の表面から湧き出てくるそうです。

「私の指導を受けた歯科衛生士たちが、施術中に「先生、とろりとした液が出てきました!」と、声をかけてくるんですよ。この液体は舌にあるエブネル腺という唾液腺の一つから分泌されているようです。口腔ケアは抗菌や免疫力にも関わる唾液をしっかり出してあげることが大切ですが、セイダ式の口腔ケアは、舌のエブネル腺もケアできる究極の口腔ケアではないかと、手前味噌ながら思っています」

歯科衛生士になって半世紀。歯科衛生士界の“レジェンド”といえる精田さんの驚異的な観察眼と行動力から生まれた「セイダ式口腔ケア」は、北陸を中心に全国へと広がっています。

商品紹介

歯科衛生士界のレジェンド・精田紀代美さんが開発!

二刀流舌筋トレーナー君(税込1,080円)

「健康寿命を延ばす口腔ケア(健口)のカギは舌にあり!」というセイダ式口腔ケアを実践するための最新アイテム。舌そうじと舌の筋トレを目的としたセイダ式口腔ケアの切り札として、介護施設の現場でも広く活用されています

おんなきよまろ・精田さんから365college読者へメッセージ!