東京慈恵会医科大学総合診療内科客員教授 大野 岩男
慢性腎臓病の早期発見には健康診断に加えて尿の状態を見て異変を察知することが大切
皆さんは、トイレに行ったときに自分の尿の状態を確認しているでしょうか。「尿は腎臓の状態を映す鏡」といっても過言ではありません。
腎機能が低下して起こる慢性腎臓病(CKD)の早期発見には、定期的に健康診断を受けることはもちろん、日頃から体が発しているわずかなサインを見逃さないようにすることが非常に大切です。具体的には、むくみや疲労感、貧血、息切れ、短期間での5㌔以上の体重増加などが挙げられます。ただし、これらの自覚症状は、必ずしも慢性腎臓病だけが原因で起こるわけではありません。
そこで私がおすすめしたいのが、普段から尿の状態や量をチェックすることです。尿をチェックするときのポイントは、次の5つです。
腎機能が低下すると乏尿・無尿・多尿のおそれがあり尿の量や回数も重要な指標
①尿の色(写真参照)
腎臓や膀胱に異常が現れると、尿の色は赤褐色や茶褐色(コーラ色)になり、いわゆる血尿が疑われます。血尿は、慢性腎臓病以外にも、尿路結石や膀胱炎、尿路系腫瘍などの可能性があるため、早急に腎臓内科・泌尿器科専門医の診察を受ける必要があります。
②尿のにおい
健康な人の尿のにおいは、ほんのわずかなアンモニア臭(刺激臭)しかしません。アンモニア臭は、便器などに付着する細菌が尿中の尿素を分解することで発生します。排尿してすぐにアンモニア臭が強くする場合は、膀胱や腎臓に細菌が感染していたり、尿路に炎症を起こしていたりする可能性があります。また、果実のような甘いにおいがする場合は糖尿病のおそれがあります。
③尿の泡立ち
健康な人の尿の泡立ちは、1~2分後には消えます。しかし、たんぱく尿の場合は、ビールの泡のように消えずにずっと残ります。体調が悪かったり、お酒を飲みすぎたりすると尿が泡立つこともあるので、目安として確認するといいでしょう。
④尿の量
健康な人の尿の量は1日約1.5㍑で、1回の目安量は200~300㍉㍑です。腎機能が低下すると、1日400㍉㍑以下しか尿が出なくなる乏尿という状態になります。さらに腎機能が低下すると、1日100㍉㍑以下しか尿が出なくなる無尿という状態になります。一方、尿の量が1日3㍑以上出る状態を多尿といい、尿崩症や尿細管の異常、糖尿病の疑いがあります。
⑤尿の回数
健康な人の尿の回数は1日4~6回で、多くは昼間に4~5回、夜間に0~1回といわれています。尿の回数が1日8回以上の場合は頻尿といい、過活動膀胱や尿路感染・炎症、腫瘍などのおそれがあります。慢性腎臓病に起因する頻尿で多く見られるのが夜間頻尿です。日中に活動して下半身にたまった水分が就寝時に横になることで心臓に戻るため、心臓は腎臓に対して不要な水分を排泄するよう指令を出し、夜間の尿量が増えてしまうのです。
「腎臓は徐々に機能が低下し、自然に治ることはない臓器」といわれています。腎機能の低下は自覚症状が乏しいため、知らないうちに進行しているおそれがあります。普段から食塩制限などの食事療法を実践しながら尿の異常をチェックすることで腎機能低下の早期発見が可能になり、ひいては人工透析の回避にもつながります。違和感を少しでも覚えたら、すぐに腎臓内科・泌尿器科専門医を受診してください。