帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
梅雨に入る頃になると湿度が上がり、冷房を入れる機会が増えてきます。しかしながら、冷房によって体調を崩してしまう「クーラー病」も、この季節に多く見られる現象です。体を人工的に冷やすことで、自律神経のバランスが崩れてしまうクーラー病の中でも、「おなかの冷え」は、夏場において顕著に起こりやすい現象です。
一般的に、おなかの周囲の温度は36℃前後であるのに対し、手先の温度は27℃前後といわれています。「おなかが冷えている」と感じたときに、手をおなかに当てて手とおなかの温度差がない場合は、おなかが冷えている証拠です。おなかの冷えから、排尿障害や便秘、下痢などの症状が起こることも見受けられます。
おなかが冷える原因はさまざまですが、一般的には内臓の冷えと関係しているといわれています。おなかの周りには腸や膀胱、女性は卵巣や子宮もあります。これらの臓器の活動状況が悪くなると、おなかの冷えとして現れます。その背景には、ストレスをはじめ、飲食物などの食習慣、仕事や家庭内の環境要因など、さまざまな原因が考えられます。特にストレスは、自律神経の変調を引き起こし、内臓の機能低下を招きます。一般的に内臓は副交感神経が優位なときに働くため、過剰なストレスによって内臓の血流が低下すると内臓の活動が抑制されて、おなかの冷えが生じると考えられています。また、おなかの冷えは、骨盤底筋群などの筋力低下から骨盤内臓器(膀胱・腸・子宮)などの機能低下を招くことにもつながっています。
おなかの冷えを解消する方法を挙げてみましょう。
● 骨盤底筋体操
骨盤底筋を鍛える体操は、おなかの冷えを解消する方法として効果的です。
①あおむけになり、両足を肩幅程度に開いて、両ひざを軽く立てる
②尿道・肛門・膣をキュッと締めたり緩めたりする動作を2~3回繰り返す
③次に、ゆっくりとキュッと締めて三秒間静止。その後、ゆっくりと緩めていく。これを2~3回繰り返し、締める時間を少しずつ延ばしていく
以上のように、骨盤底筋に刺激を与えることで、おなかの冷えを克服しましょう。
● 食事療法
食べ物には、体を冷やす夏野菜(キュウリ・ナス・ゴーヤ・トマトなど)と、体を温める冬野菜(ジャガイモ・カボチャ・ダイコンなど)があります。夏野菜は体を冷やす働きがあるので、夏野菜を材料に料理を作る時は、体を温めるショウガなどを加えるとおなかの冷えを防ぐことができます。
続けて、おなかの冷えに有効なツボを二つご紹介しましょう。最初のツボは「関元」です。手のひら全体で円を描くように、5秒間ゆっくりと押しなでて刺激します。これを5回で1セットとし、計3セット行います。また、ツボ周囲を棒灸(スティック状のお灸)で温めるのも効果的です。ツボの周囲の皮膚が発赤(皮膚が赤くなること)する程度が適度な刺激です。
もう一つの「三陰交」のツボは、骨の際を親指で押し上げるように5秒間刺激します。これを5回で1セットとし、計3セット行いましょう。押す力は、指の爪の色が白くなる程度が目安です。関元のツボと同じように棒灸で温めると、おなかの冷えの改善につながります。
● 由来
【関元】「関」は「関所」の関で、門を司る「かんぬき」という意味があります。一方の「元」は「大本」「初め」などの意味があります。「関元」とは、健康の源である元気の関所や、全身の気の巡りに大切な場所ということから名づけられました
【三陰交】「三」は数の3、「陰」は宇宙の2大元気の1つ、「交」は交わる(交叉)を意味しています。三陰は、太陰・少陰・厥陰という3つの陰経(太陰脾経・少陰腎経・厥陰肝経)が交わるところから名づけられました
● 効能
【関元】冷え症、むくみ、腹痛、水溶性下痢、疲労倦怠感、生理痛、不妊症、排尿障害など
【三陰交】冷え症、自律神経失調症、生理痛、生理不順、骨盤位(逆子)、足のむくみ、下痢、便秘など