帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
1月に入ると本格的な冬の到来となり、気温の低下とともに「鼻炎」に悩まれる方が増えていきます。鼻炎には、「アレルギー性鼻炎」と「非アレルギー性鼻炎」があります。
アレルギー性鼻炎は、「季節性アレルギー性鼻炎」と「通年性アレルギー性鼻炎」に分けられます。それぞれを簡単に説明しましょう。
①季節性アレルギー性鼻炎
いわゆる「花粉症」と呼ばれる種類の鼻炎で、鼻水・鼻づまり・くしゃみの三大症状が特徴です。季節性アレルギー性鼻炎を引き起こす花粉は、日本においては約60種類も存在するという報告があります。患者さんによっては、1年中ずっと花粉のアレルギーの症状に悩まされる方もいるほどです。
②通年性アレルギー性鼻炎
ダニやハウスダストなど、アレルゲン(アレルギーの原因となる物質)によって引き起こされる鼻炎です。
非アレルギー性鼻炎は、次に挙げる五つの鼻炎に分けられます。
①急性ウイルス性鼻炎
さまざまなウイルスによって引き起こされる鼻炎です。通常は、風邪(感冒)のウイルスが原因となって、鼻水・くしゃみ・鼻づまり・セキ・微熱などが起こります。
②慢性鼻炎
通常は、炎症やウイルス感染によって鼻炎が長引く状態をいいますが、別の病気(梅毒や結核)を伴っている場合もあります。主な症状は鼻づまりで、重症化すると頻繁な鼻出血や、悪臭を放つ膿性の鼻水を生じるようになります。
③萎縮性鼻炎
鼻の粘膜が萎縮して硬くなり、鼻腔が広がって乾燥しやすくなることで起こる鼻炎です。萎縮性鼻炎にかかると、鼻の内側にかさぶたができて、悪臭を放つようになります。激しい鼻出血を繰り返すことがあり、嗅覚が失われる場合もあります。高齢者に多く見られる鼻炎です。
④血管運動性鼻炎
鼻づまり・くしゃみ・鼻水などの症状が現れる鼻炎です。また、ほこりや花粉・香料・大気汚染・香辛料の強い食べ物に対して、鼻が敏感となって起こります。そのほか、自律神経系に関与した連続的なくしゃみが特徴で、朝に強い症状(モーニング・アタック)が起こるのも血管運動性鼻炎の特徴です。
血管運動性鼻炎は、空気が乾燥すると悪化します。粘膜の腫れや副鼻腔の軽い炎症も認められる場合があります。血管運動性鼻炎の症状が現れた場合は、煙や刺激物を避け、湿度を高めるために加湿機能付きの暖房装置や加湿器を使用することで、鼻炎症状の改善が期待できます。
⑤薬剤性鼻炎
鼻閉改善薬の鼻腔スプレーや点鼻薬を使いすぎる(3~4日間の連続使用)ことによって引き起こされる、重度の鼻づまりを伴う鼻炎です。症状を引き起こしている薬の使用を中止し、生理食塩水の鼻腔スプレーを使用することで、鼻炎の改善を図ります。
ツボ療法は、鼻炎に対しても効果を発揮します。今回は、これまで挙げた鼻炎の種類の中から、特にアレルギー性鼻炎と血管運動性鼻炎に対して有効とされる「印堂」と「尺沢」という二つのツボをご紹介しましょう。鼻づまりを感じた時は、「印堂」や「尺沢」のツボを刺激することで改善が期待できます。
「印堂」のツボは、両手の中指で額に向かって5秒程度押し上げてください。これを3~5回繰り返します。指圧効果によって鼻の周囲にある神経や微小血管に影響を及ぼすため、鼻の通りがよくなります。
「尺沢」のツボは、反対側の親指を使って垂直にゆっくり5秒ほど押し込んでいきます。これを3~5回繰り返してください。押す力は、指の爪の色が白くなる程度が目安です。
● 由来
【印堂】「印」は印鑑、「堂」は広間の意味で、印堂は額(前頭骨)を指します。ヒンドゥー教徒(インドの既婚女性)が額につける印の場所であることから「印堂」と名づけられました。眉間は「第3の眼」と呼ばれる特別な場所として、直観力・判断力・洞察力などの物事を見極め、光を敏感に感じる場所とされています
【尺沢】「尺」は長さの単位のこと。昔の人は、手首の関節からひじまでの長さを1尺と定め、該当する部分を「尺」と称しました。「沢」は、水が集まるような「くぼみ」を指しています。尺沢のツボは「尺」と呼ばれる前腕のひじにあるへこみに位置することから「尺沢」と名づけられました
● 効能
【印堂】鼻炎、花粉症、頭痛、眼精疲労、めまいなど
【尺沢】鼻炎、花粉症、気管支ぜんそく、咳嗽(セキ)、のどの痛み、扁桃炎、咽頭炎など