木俣肇クリニック院長 木俣 肇

前回の提言で触れた「単純ヘルペスの患者さんが増えている」理由として、新型コロナウイルス関連、環境中の単純ヘルペスウイルスの多さ、ウイルスのシェディングによって単純ヘルペスウイルスが蔓延し、家族内感染や職場感染が起こることなどが挙げられます。それらの理由に加えて強調したいのが、健康に悪影響を与える「光害」です。人工的な光によって夜でも世界を照らし、夜行性の動物数を減少させている光害は、深刻な環境問題といえます。
概日リズム(約24時間周期の体内リズム)の失調による不眠は、心疾患や免疫機能の低下、精神的疾患のみならず、アレルギー疾患の悪化にも関与しています。特にアトピー性皮膚炎(以下、アトピーと略す)は、易疲労性や皮膚への直接的影響も加わってしまうのです。具体的には、ブルーライトは活性酸素を増やし、皮膚のDNAを損傷して老化や色素沈着を促進させながら、皮膚の細胞の概日リズムを乱します。概日リズムが乱れると免疫力も低下し、単純ヘルペスの発症原因となります。
最近はスマートフォンを夜間、特に就寝前に見ることで不眠に悩む人が増えています。これも光害です。不眠はアトピーを悪化させ、単純ヘルペスにも罹患しやすくなります。
問題は、不眠の自覚が分かりにくいことです。私の患者さんで、毎月のように単純ヘルペスに罹患しているアトピーの方(Aさん)がいました。Aさんの単純ヘルペスは抗ヘルペス薬で改善したものの、再発を繰り返していました。皮膚の状態から睡眠障害を疑った私がAさんに不眠の有無を聞くと「不眠はない」とのこと。あらためて熟睡の有無を尋ねると、「熟睡はできていない」という答えから、Aさんは初めて自身の睡眠障害を自覚したのです。
問診を続けると、Aさんはスマートフォンを1日中使っていました。そこで私は、睡眠薬を投与しながら、Aさんに「就寝前の30分はスマートフォンを使わないこと。朝は早起きをすること」と指導しました。その改善ぶりは明らかで、Aさんは毎晩、熟睡できるようになり、単純ヘルペスを発症しなくなったのです。さらに、Aさんはスマートフォンの使用を控えることでアトピーも著明に改善し、治癒に至りました。
スマートフォンの過度の使用のみならず、夜間のシフトワークや夜更かしをしている人は概日リズムが乱れやすく、単純ヘルペスに罹患しやすくなります。また、アトピーの皮膚症状が軽度な方や、アレルギー性鼻炎の方でも、光害によって不眠に悩まされるケースが増えています。
周囲を見渡せば、屋外では商業施設や自動販売機など、さまざまな設備が夜間に点灯しています。英国のある地域では、人工の光が多すぎて不眠症や心疾患にかかる人の割合が多いという報告もあります。

光害は屋外のみならず、屋内でも引き起こされます。現代社会におけるその光源は、パソコンやスマートフォンです。クリニックに来られたアレルギー性鼻炎の患者さん(Bさん)は、皮膚のかゆみなどの症状がないものの、最近不眠になったとのこと。Bさんに話を聞くと、家でスマートフォンの使用時間が長く、就寝前はもちろん、ベッドに入ってからも使っているとのことでした。私がBさんに「就寝前の1時間はスマートフォンを使わずに家族と会話をしましょう。音楽を聴いたり、ストレッチをしたりするのもいいですよ」と指導した結果、Bさんの不眠は改善。Bさんは不眠に悩んでいた時期はアレルギー性鼻炎が悪化したそうですが、不眠の改善以降は鼻炎も改善したとのことでした。
概日リズムの乱れは全身に影響するため、皮膚の細胞も例外ではありません。そのため、単純ヘルペスにも罹患しやすくなります。アトピーや単純ヘルペスの予防や改善には、概日リズムを正すことが大切——。私からのこの提言が、社会全体に届くことを願っています。

