整体師、理学療法士 沖倉 国悦さん
肩や腰をマッサージしても、なかなかよくならない——。その原因は、「筋膜の癒着」にあるのかもしれません。筋膜の癒着に着目した独自のアプローチ法「六層連動操法」は、痛みに悩む患者さんをはじめ、治療家の間でも話題を集めています。
慢性的な凝りや痛みは離れたところの癒着が原因の可能性大!

肩が凝ったら肩をもむ。首が凝ったら頭をぐるりと回す。私たちにとって、これらの動きは至極当たり前に思えます。
ところが、凝りや痛みを感じる部位をほぐして一時的に症状が和らいでも、しばらくするとまたぶり返してしまうのはよくあること。凝りや痛みの解消は、運動不足の解消や体質改善など、生活習慣を根本的に変えなければかなえられないと思っている人は多いのではないでしょうか。
そのような風潮の中、「必ずしも症状が現れているところに問題があるとは限りません」と、断言するのが、「六層連動操法」という、特殊な手技療法を開発した沖倉国悦さんです。沖倉さんが開発した手技は、凝りや痛みを感じる部位から〝離れたところ〟にアプローチするのが特徴。実際に受けてみると、まるで魔法にかかったように体がらくになると話題を集めているのです。
六層連動操法とは、皮膚から骨までの六層にわたる筋膜や骨膜の癒着や硬結を改善する独自の手技です。人体の可動域に制限をかけている筋膜の癒着を深部から剥がし取ることで、高い治療効果を得ることができます。
六層連動操法が生まれたきっかけは、沖倉さんが理学療法士として病院に勤務していた頃、自身が直面していた素朴な疑問にあったといいます。
「当時の私は、体の痛みを訴える患者さんの施術をする中で、『教科書どおりの施術をして一度は痛みが引いたとしても、時間がたつとまた痛みが戻ってしまうのはなぜか』と疑問を持ちながら仕事をしていました。これはおそらく、現場にいるすべての理学療法士に共通する悩みのはずです。そこで私は、多くの患者さんと理学療法士にとっての壁となっている〝痛みの戻り〟の正体を突き止めることを、自分のテーマにしてみようと思ったんです」
沖倉さんは日々の治療に当たるかたわら、多くの文献を読みあさり、専門的な研修に参加するなど〝痛みの戻り〟を解決するための研究に取り組みます。そこで見つけたキーワードが「筋膜の癒着」だったのです。
人間の体は筋膜という筋繊維の層で覆われています。いわば皮膚の下に筋膜というボディスーツを着ているイメージに近く、これが骨や腱などと癒着すると、本来の滑らかさを損なう「滑走不全」を起こしてしまうと沖倉さんは解説します。
「従来の治療では、ひざが痛むならひざを、ひじが痛むならひじを診るわけですが、その部位だけを治療しても痛みはまた戻ってしまいます。筋膜は全身でつながっています。痛みのある部位から離れたところにある、根本的な痛みの原因(癒着)を取り除かなければ、ほんとうの意味での改善は見込めません」
何年間も独学で勉強を重ねる中、〝痛みの戻り〟の根本原因が筋膜の癒着にあるという持論が確信に変わる瞬間が訪れました。
「ひざの激痛で1人では歩くこともできない60代の患者さんを担当していた時のことです。毎日できる限りの治療を行い、ひざ周囲を中心にさまざまな方法を試しましたが、痛みはまったく改善されませんでした。悩みながら全身のつながりを意識して体を触れていく中で、ふと肩関節の動きの悪さが気になり、ひざではなく肩関節を調整してみました。すると突然〝ズコッ〟という手応えとともに筋肉の張りが抜け、その瞬間『ひざの痛みが消えた』と患者さんが立ち上がって自分の足で歩きはじめたんです」
いったいなにが起こったのか、すぐには理解できなかったという沖倉さん。しかし、この体験を機に全身の筋膜の構造をくまなく分析したところ、「痛みの原因は必ずしも患部の周辺にあるとは限らない」という確信にたどり着いたそうです。
「患部から離れた部位の癒着によって腱が引っかかり、滑走不全が起こって他の部位の筋肉がれん縮して痛みの原因になるという理屈が、この時の体験によって実証できました」
筋膜のつながり(ライン)に着目していたからこその大発見。そのつながりの存在を体感できたことが、沖倉さんの研究をいっそう加速させます。
「西洋医学ではどうしても局所的な治療に偏りがちですが、東洋医学では体の不調が別の部位に影響するという考え方が『経絡』として古くから知られています。近年、筋膜が全身を連続したネットワークとしてつながっていることが明らかになり、その走行は経絡の考え方と重なる部分が多いことも分かってきました。鍼灸で痛みのある場所とは離れた部位に鍼を打つのも経絡の流れを整えるためですが、筋膜においても同じように、離れた部位へのアプローチが体全体に影響を及ぼすと考えられます」
沖倉さんは自己体験をベースに、全身の筋膜の構造をさらに徹底的に分析し、理論を構築していきます。後に完成する六層連動操法の理論が、徐々に積み上がっていったのです。
「例えば、転倒して肩をぶつけた時を考えてみましょう。数日後に肩の痛みが治まれば、多くの人は『治った』と思って安心してしまいます。ところが、その肩のケガがもとで筋膜の癒着が起こり、数年後にまったく違う部位に痛みが発生することがよくあります。今抱えている慢性的な痛みの原因は、もしかすると10年前、20年前のケガが引き起こしているものかもしれないのです」
続けて沖倉さんは、癒着の原因は多岐にわたると話します。

「女性であれば、帝王切開や子宮筋腫の治療などで腹部の手術を受けると、術後の腹膜には間違いなく癒着が起こります。ところが、そのケアが必要だという認識は、今の医療の現場にはありません。手術から数年後に、激しい腰痛を起こしたとしても、外科医はもちろん、患者さん自身もそれが腹膜の癒着が原因であるとは気づかないでしょう」
ここに課題を見いだした沖倉さんは、16年勤めた病院を退職し、独立することを決意。六層連動操法を世に広めるための活動を本格化したのが今から約7年前のことでした。根底にあったのは、痛みに悩んでいる患者さんを1人でも多くサポートしたいという思いです。
「そもそも私は治療することが好きなので、役職に就いてあまり現場に出られなくなっていたことを歯がゆく思っていたんです。それに、自分が勤めている病院だけでなく、世の中には今もたくさんの方々が痛みに苦しんでいるわけですから、六層連動操法を全国に広めたいという気持ちがありました」
エビデンスに基づく六層連動操法の効果をもっと伝えていきます

独立を果たした沖倉さんは、六層連動操法の施術法を解説するDVDを制作し、セミナー活動を開始。合わせて整体師としての活動も始め、痛みに苦しむ人たちに六層連動操法をより身近なものに感じてもらうべく、施術と告知に取り組んでいます。
「代謝や血流の停滞も、癒着の原因になります。これは粘土にたとえると分かりやすいでしょう。粘土はもみほぐせば軟らかくなりますが、放置していると冷えて硬くなりますよね。筋繊維もこれと同じです。固まった状態のまま長く放置していると、ほかの組織にこびりついて炎症を起こし、痛みを引き起こす原因になるのです」
つまり、明確なケガがなくても、癒着は知らず知らずのうちに我が身に起こっているということ。昨秋、新たに『筋肉のつながりを知れば「肩こり」と「腰痛」は自分で解消できる』という本を執筆したのも、痛みに悩む人々に、自宅でできるセルフケアの方法を伝えるためでした。
「ただし、自分の体のどこに癒着が起こっているかを知るのは、非常に難しいことです。それでも筋膜の構造とそのラインを知ることで、今抱えている問題を解決する糸口になるのではないかと思います」
実際、同書では筋膜のラインを具体的に解説し、誰でもその場で簡単にできる筋膜はがしの手法が紹介されています。現在もセミナー生を率いて海外まで出向いて人体解剖を行うなど、さらに研究を進化させている沖倉さんの理論の一端を知る、格好のテキストといえるでしょう。
現在、六層連動操法を習得した治療家が全国に着々と増えています。「痛みが治まった」「自分で歩けるようになった」という喜びの声が頻繁に届いているのだそう。それでも、沖倉さんの胸中には、まだまだ道半ばという思いがあるようです。
「西洋医学に比べると、東洋医学的な理論はどうしても敬遠されがちですし、うさんくさく思われてしまうことがあるのも事実です。だからこそ、確かなエビデンス(科学的根拠)に基づいた手技療法であることをもっと伝えていかなければならないと切に感じています」
そのために、苦手なメディア出演などにも前向きに取り組んでいるという沖倉さん。すべては六層連動操法を世の中に広め、1人でも多くの人が健やかに暮らせるようにしたいという、強い決意があればこそなのです。
YouTubeチャンネル『沖倉国悦 【六層連動操法】』
沖倉さんの最新著書『筋肉のつながりを知れば「肩こり」と「腰痛」は自分で解消できる』(アスコム)は好評発売中



