千代田国際クリニック院長 前川 衛
線維筋痛症に対する特別な乳酸菌食品の効果は試験で実証され痛みの数値が大幅に改善
先の記事で解説したように、私が院長を務める千代田国際クリニックでは、前院長の永田勝太郎先生のもとで行われた調査によって、「線維筋痛症の患者さんは8~9割が低血糖や血糖値スパイク(血糖値の乱高下)を起こしている」ことを突き止めました。血糖値の乱高下によって起こる低血糖が全身のエネルギー不足を招き、低血圧や血流の悪化(虚血)、さらには痛みの発生につながると考えられるのです。
そこで私たちのクリニックでは、線維筋痛症の原因を、①低血糖、②血糖値の乱高下(血糖値スパイク)、③血行動態の悪化の三点とし、永田先生が考案された「永田式疼痛アプローチ」によって大きな成果を挙げています。
永田式疼痛アプローチは、①食事、②呼吸、③運動、④患者力という四つの要素を軸にした独自の線維筋痛症の治療法です。①の食事法は、線維筋痛症を引き起こす低血糖と血糖値スパイクの予防と改善を目的に患者さんに指導されますが、より高い効果を期待するために永田先生が開発したのが「特別な乳酸菌食品」です。特別な乳酸菌食品は、低血糖や血糖値スパイクの抑制作用が認められている「LAB4乳酸菌」と水溶性食物繊維の「グルコマンナン」が適切な比率で配合された健康食品です。
私が永田先生から院長職を引き継いだ千代田国際クリニックには、全国からおおぜいの線維筋痛症を含む慢性疼痛の患者さんが来院されます。私は麻酔科医として、線維筋痛症の痛みやこわばり、薬の副作用に苦しみながら生活している多くの患者さんを診ています。
線維筋痛症の発症や向精神薬などの薬の副作用により、生活の質(QOL)が著しく低下した患者さんを検査すると、低血糖・血糖値スパイクや血行動態不良症候群(低血圧)を起こしていることがほんとうに多いと感じます。そのような患者さんたちが特別な乳酸菌食品を飲むことで低血糖や血糖値スパイクが改善し、痛みの軽減につながることも確認しています。
線維筋痛症の症状に対する特別な乳酸菌食品の効果は、クリニックで行った試験で確認され、学術的な発表も行っています。次に、試験の内容をご紹介しましょう。
線維筋痛症を含む機能性身体症候群の患者さんを特別な乳酸菌食品服用群(男女合計33人・平均年齢40.6歳)と対照群(男女合計34人・平均年齢38.4歳)に分け、二重盲検法(先入観などをなくすため、被験者も医師も、誰がどの治療を受けているかを分からないようにする方法)による試験を行いました。対照群には偽薬を朝・昼・晩の食後に1粒ずつ、服用群には特別な乳酸菌食品を朝・昼・晩の食後に1粒ずつ、ともに3ヵ月間飲んでもらいました。
線維筋痛症の痛みに対する特別な乳酸菌食品の効果は、痛みの程度を数値化する「VASスケール」を用いて評価しました。VASスケールで痛みを評価する場合、想像できる最大の痛みを100とし、まったく痛みがないことを0とします。
その結果、対照群の数値に変化が現れなかったのに対し、特別な乳酸菌食品を飲んだ患者さんたちは、痛みの程度を示す数値が有意に下がり、明らかな痛みの改善が見られました。この試験によって、痛みに対する特別な乳酸菌食品の働きが裏づけられたのです。
特別な乳酸菌食品を開発した永田先生は、特別な乳酸菌食品のみならず、普段の食事からも低血糖や血糖値スパイクを防ぐ食事法を提唱されています。次に、痛みに悩まされている患者さんたちにすすめている食事法を解説しましょう。
①食事(低血糖と血糖値スパイクを防ぐ食事法)
食事は、大きく「食べ方」と「食事の内容」の二つに分けられます。
● 食べ方
線維筋痛症の患者さんに顕著な低血糖を防ぐ食事法として、朝・昼・晩の3食に加えて、午前10時・午後3時・就寝前に軽食をとる「1日6分食」があります。食事と食事の間隔が6時間以上空くと低血糖になりやすいため、軽食をとって血糖値を安定させる目的で行います。また、就寝前は空腹にしたほうがいいと思われがちですが、夜間低血糖を起こして睡眠の質が低下するおそれがあります。就寝前に夜食をとると、夜間低血糖を防ぐことができます。
血糖値スパイクに大きく関係するのが食べる順番です。血糖値の乱高下を防ぐには、食物繊維の多い野菜や海藻をはじめ、たんぱく源である肉や魚、大豆を「先に」食べ、炭水化物のご飯やパンは「最後に」食べるようにしましょう。覚え方は「野菜ファースト、ご飯ラースト」です。特に、水溶性食物繊維には粘性があり、胃腸内をゆっくりと移動するため、糖の消化・吸収のスピードを遅らせて血糖値の急激な上昇を抑えます。その結果、血糖値スパイクや低血糖が起こりにくくなるのです。
家族や友人、仲間と団らんしながらいただく食事も血糖値を安定させる要素です。楽しい会話を伴う食事はゆっくりと進むため、血糖値スパイクはもちろん、満腹中枢が刺激されて過食を防ぐこともできます。さらに、食事中の楽しい会話はストレス発散にもつながります。
よく噛んでゆっくり食べることも、血糖値の安定に大きく関係します。よく噛むことでインスリンの速やかな分泌が促され、血糖値が上昇しにくくなると報告されています。一方で、ドカ食いや早食い、ほかのことをしながら食事や間食をする「ながら食べ」はインスリンの過剰分泌を招き、血糖値スパイクや低血糖を引き起こします。これらの食べ方を続けていると膵臓が疲弊し、さらにインスリンの過剰分泌を招くという悪循環に陥ります。
● 食事の内容
食べ物には血糖値を上げやすいものと上げにくいものがあり、判別する数値として「GI値」があります。GIはグリセミック・インデックス(Glycemic Index)の略で、50㌘の糖質をとった時に血糖値がどのくらい上昇するかを示す指数です。GI値が高い食材を食べると血糖値が急上昇しやすく、GI値が低い食材を食べると血糖値は上昇しにくいのです。
低血糖や血糖値スパイクを起こさないためにも、目安としてGI値が60未満の食品を中心に食べることを推奨しています。推奨できるGI値が低い食品と控えるべきGI値が高い食品を表にまとめています。GI値が高い食品は絶対に食べてはいけないわけでなく、食べる量や頻度の問題と考えましょう。
GI値に注意しながら糖質の量を管理すると、血糖値が安定しやすくなります。1日に必要な糖質の量は約130㌘と考えています。子どもの茶わん3杯分程度で、1杯のご飯の重さは100㌘です。一度にとる糖質の量が多すぎると血糖値スパイクを引き起こして低血糖になったり、逆に糖質制限をしすぎると脳が栄養失調を起こして萎縮する場合があります。過度な糖質制限は控えましょう。
1日6分食を実践する際、午前・午後・就寝前の軽食にはナッツ類やくず湯、こんにゃく、ゆで卵、ホットミルクなどがおすすめです。いずれもGI値が低く、血糖値の上昇が緩やかなので血糖値スパイクの発生を心配することなく食べられます。どの軽食でも摂取カロリーを40~80㌔㌍にとどめ、食べすぎないように気をつけましょう。
「特別な乳酸菌食品」は、朝・昼・晩の食直前と夜食の直前に一粒ずつ飲むのがおすすめです。特別な乳酸菌食品に含まれるLAB4乳酸菌とグルコマンナンがインスリンの過剰分泌を抑制し、血糖値スパイクや低血糖になることなく血糖値を正常域で安定させます。その結果、試験で確認された痛みのみならず、食後の眠気や集中力の欠如、寝つき・目覚めの悪さ、眠りの浅さなどの改善も期待できます。
体内で血糖値スパイクが起こっているかどうかは分かりにくいものですが、食後の眠気は血糖値スパイクや低血糖が起こっているサインといえます。特別な乳酸菌食品を飲んで食後の眠気が起こらなくなったら、膵臓の負担が減ってインスリンの過剰分泌が改善しているといえます。特別な乳酸菌食品を1粒ずつ飲んでも食後の眠気が治まらない場合は、2粒に増やすことをおすすめします。膵臓の機能が正常になったら、特別な乳酸菌食品の飲む量を減らしても体感を得られるでしょう。
特別な乳酸菌食品は食事中の糖質の消化・吸収を緩やかにするため、飲むタイミングが非常に重要です。食事の直後に飲んでも効果が期待できるものの、直前に飲んだほうが実感を得やすいでしょう。
線維筋痛症の痛みを増幅させる自律神経のバランスの乱れは腹式呼吸で整えられる
②呼吸(腹式呼吸)
適切な呼吸法は自律神経のバランスを整えるため、痛みの軽減に役立ちます。自律神経とは、意思とは無関係に内臓や血管の働きを支える神経のことで、交感神経と副交感神経に分けられます。交感神経は心身の状態を活発にする神経で、副交感神経は心身の状態を休息させる神経です。
自律神経は外部環境の変化に対応しながら、交感神経と副交感神経がバランスを取り合っています。ところが、生活環境や気温、気圧、日照時間の変化といったストレスにさらされると、交感神経が常に優位な状態になります。交感神経は筋肉を硬直させたり、血管を収縮させたりして、ストレスという危機に備えて体の緊張状態を保つように働きかけるのです。
ストレスによる交感神経の過度な緊張が長く続くと、自律神経のバランスが崩れて慢性疼痛などが起こります。慢性疼痛は慢性的に続く痛みのことで、薬物療法を行っても3ヵ月以上続くことが少なくありません。慢性疼痛には、線維筋痛症も含まれます。
自律神経を整える呼吸法の一つとして「腹式呼吸」が挙げられます。片手をおへそ周辺に当て、もう片方の手を腰に当ててスーッと勢いよく空気を鼻から吸います。その際に、おなかが膨らんでいることを確認します。その後、ゆっくりと鼻から吐きながらおなかをへこませます。腹式呼吸を毎日1~2分間行うと自律神経が整うため、痛みの軽減につながります。
③運動
線維筋痛症の患者さんの多くは、常になんらかの痛みに悩まされています。痛みがある時は安静にして過ごすべきですが、体調が良好な時は運動によって脊柱起立筋や腹筋を鍛えると、血流の改善や痛みの軽減につながります。
そこで、おすすめの運動として「お願い運動」をご紹介しましょう。お願い運動を食後に行うと、血糖値の安定や筋力の強化が期待できます。食後にイスに座り、胸の前で両手を合わせて合掌のポーズを作ったら、左右の手を押し合うように力を入れます。20秒後に手を放し、ブラブラと脱力させて血流を促します。この一連の動きを1日3回続けてみましょう。
永田式疼痛アプローチの根幹は〝患者力〟で患者さんの行動力こそ線維筋痛症改善のカギ
④患者力
患者力とは、私たちのクリニック内で使われる造語で、「新しい生活習慣を実践する力」のことを指します。永田式疼痛アプローチの根幹といえる患者力は、食事・呼吸・運動という線維筋痛症の改善に欠かせない三つの行動の意味を患者さん自身が理解し、積極的に実践する力といえます。患者力を身につけて永田式疼痛アプローチに前向きに取り組むことで、線維筋痛症は必ず改善すると自負しています。
私たちのもとに「治療方針は先生にすべてお任せしますから、私を治してください」といって来院される患者さんは少なくありません。私たちのクリニックでは、「医療スタッフは患者力をチームで支えるサポーター。治療の主役は患者さんご自身」と考えています。一人ひとりに合った治療方法を患者さんと一緒に考えて行っていくことを大切にしています。
千代田国際クリニックでは、一人ひとりの患者さんの患者力を高める目的で、定期的に患者会を開催しています(https://www.ciclinic.net)。患者力の高さは線維筋痛症の治癒率と密接に関係しています。患者会に熱心に参加して行動の意味を理解しながら永田式疼痛アプローチを実践した人ほど線維筋痛症が早期に改善し、社会復帰までの期間が短いと感じています。
線維筋痛症は難治ではあるものの、しっかりと治療を行えば治る病気です。線維筋痛症の患者さんは豊かな感受性と行動力、適応力をお持ちの方が多いと感じます。痛みから解放されれば、潜在的な能力を開花させて、社会復帰や社会貢献、自己実現を成し遂げることができます。線維筋痛症の克服を目指し、特別な乳酸菌食品を中心とした永田式疼痛アプローチを実践していただきたいと思います。