株式会社レガルシィ代表取締役CEO 今村 充生さん
今、がんや認知症をはじめ、さまざまな難治性疾患への活用が期待され、医学界の先駆者からも注目されている「HHOガス(水素酸素混合ガス)」。HHOガス発生装置の開発を手がけたパイオニアが株式会社レガルシィ代表取締役CEOの今村充生さんです。今回は、これからの医療のみならず、農業や畜産など幅広い分野で大きな変化をもたらす「HHOガス大革命」を牽引する情熱人の物語(前編)をご紹介します。

今、医療から農業、食、環境まで幅広い分野で大革命を起こすと注目されている「HHOガス(水素酸素混合ガス)」。株式会社レガルシィ代表取締役CEOの今村充生さんは、HHOガス発生装置の開発・製造・販売を手がけるほか、レストラン経営やレーシングドライバーの育成、海外大学客員教授を兼務するなど、多方面で活躍しています。しかし、その輝かしい経歴の陰には、幾度もの挫折と裏切りがあったといいます。
編集部 「HHOガス」というと耳慣れない人もいるかもしれません。分かりやすく説明すると、どういったものですか?
今村 HHOガスは、水(H2O)を特許技術で電気分解した気体のことです。水素原子(H)2つと酸素原子(O)1つがサークルの中につかず離れずの状態で存在できるといわれていて、時間がたつとくっついて水に戻ってしまいます。約2ヵ月間は気体の状態で存在できることが分かっています。
編集部 酸素や水素に関連した製品はよく見かけますが、酸素や水素との違いはあるのですか?
今村 はい。少し専門的な話ですが、酸素は細胞内のミトコンドリアという器官で栄養素からエネルギー物質であるATP(アデノシン三リン酸)を大量に作り出すために使われます。ミトコンドリアは「細胞のエネルギー工場」と呼ばれ、私たちが生きるための活動エネルギーを供給しています。
ただ、呼吸で取り込む酸素のうち、約1~2%は体内で反応性の高い活性酸素に変化します。適量であればウイルスや細菌を退治する免疫機能として働きますが、過剰になると細胞やDNAを傷つけ、老化や生活習慣病の原因になってしまうんです。活性酸素にも種類があって、ヒドロキシルラジカルという活性酸素がいちばんの悪玉といわれています。
編集部 では、水素との違いはなんですか?
今村 水素は優れた抗酸化作用が医療分野でも注目されていて、活性酸素を中和してくれる働きがあります。ただ、吸いすぎてしまうと酸素不足を引き起こすおそれがあります。
一方、HHOガスは酸素がミトコンドリアに供給されてエネルギーを作り出し、その際に発生する活性酸素を水素が中和してくれるという優れものなんです。特に水素はヒドロキシルラジカルを選択的に除去して必要な活性酸素は残す「選択的抗酸化作用」があると注目され、悪玉活性酸素を水に変えて体内から尿や汗として排泄できてしまいます。HHOガスには、酸化ストレスの軽減や炎症反応の抑制、細胞・ミトコンドリアの保護など、さまざまな健康効果が期待されているんです。
編集部 HHOガスは水素と酸素の長所を兼ね備えているわけですね。安全性の面ではどうですか?
今村 水素は非常に燃えやすい可燃性ガスのため、工業目的で使用される場合などでは爆発するという危険性があります。酸素も燃焼を促しますから同様です。
その点、HHOガスは安心・安全です。HHOガスは火がつくと即座に約1800分の1の水に戻ってしまうんです。真空になってパンッという音とともに爆縮(外側から内側へ向かう巨大な圧力によって物体が一瞬で押しつぶされて収縮する現象)を起こします。実際、HHOガスの安全性試験を何度も繰り返していますが、ペットボトルに入ったHHOガスに点火しても、内部の気体が水になることで体積が急激に減少して容器が少しへこむ程度なんです。
編集部 HHOガスはいいことずくめですね。開発に至った経緯を教えてください。
今村 私は趣味が高じてレーシングドライバーとして本格的なレースに参戦していたことがあるのですが、耐久レースではいかに燃費よく走るかが非常に重要なんです。そのため、燃費を改善できる装置はないかとずっと探していました。そんな時、知人に紹介されたAさんから「アメリカから持ち帰ってきた水素発生装置をレーシングカーに搭載してテストしてほしい」と依頼されたんです。実際に車につけて走ってみたら、確かに燃費がよくなったような気がしました。ただ、その装置はおもちゃのようなもので、30分で壊れてしまい、電極が溶けて車の中が泡だらけでした。
編集部 なるほど。耐久レースがきっかけだったんですね。
今村 その後、Aさんのたっての希望で本格的に水素発生装置の開発に取り組むようになったものの、装置の開発にはお金がかかります。開発資金を集めようという話になり、親戚や知人からお金を借りて1500万円をAさんに預けました。2003年のことです。
Aさんのもとには総額2億2000万円もの資金が集まったと聞いています。その中から少し開発費をもらって、金属を買ったり、いろんな部品を買ったりしました。
前述のように、水素ガスには爆発の危険性があったことから、なにかほかのものはないかと考えていました。そして、たどりついた答えがHHOガスだったんです。HHOガスには燃焼する速度を上げる水素と酸素が含まれ、しかも爆発の危険性がなかったからです。
いろいろと試して、おもちゃにちょっと毛の生えたようなHHOガス発生装置の試作品を作りました。それを当時乗っていたマツダRX-8につけたら、リッター4㌔だった燃費が8㌔まで伸びたんです。「これでほんとに世の中を変えられる!」と気持ちが高まりました。
ただ、順風満帆ではありませんでした。Aさんがその装置の販売権利を我々に内緒で売ってしまい、開発資金とともに行方をくらませてしまったんです。
編集部 えっ、詐欺に遭ったということですか?
今村 そうです。関係者一同途方に暮れてしまいました。2005年だったと記憶しています。ただ、自分が預けた以外のお金の返済義務が私にはなかったことは不幸中の幸いでした。
編集部 それは大きな岐路に立たされましたね。開発を続けようと決めたのはどうしてですか?
今村 もちろん、家族や親族、知人から猛反対を受けました。彼らからすれば、貸したお金がなくなってしまったのですから当然ですね。ただ、2人だけ私を応援してくれる人がいたんです。私の母親と叔母です。「充生がやってることなんだから、間違いない」と応援してくれました。その時に「もうやるしかない!」という決意が生まれたんです。
編集部 ピンチはチャンスといいますが、まさにそんな心境だったのですね。その後の開発は順調でしたか?
今村 いや、とんでもないです。周囲からは「たかが水素だろ」と相手にされず、なかなか理解が得られませんでした。特に苦労したのが資金繰りです。
編集部 多くの中小企業の経営者が資金繰りで苦労した話をされます。製品の開発となるとなおさらでしょうね。
今村 はい、そうですね。少し脱線しますが、私には最初の就職で税務会計事務所に入ったものの肌に合わず、精神的なことから体調を崩していた時期があるんです。母方が代々税務に携わる家系だった関係で、伯父が営む税務会計事務所でした。私立大学の商学部を卒業した1983年の春のことです。
ただ、これが全然向いていませんでした。税務計算をするのがまったく駄目で、数ヵ月後にはパニック状態に陥って飛び出してしまったんです。
編集部 それは意外です。
今村 当時の私の唯一の理解者だった父親の後押しもあり、しばらく菅平高原(長野県上田市)にあった知り合いのペンションで療養を兼ねて働くことになったんです。フランス料理を勉強したり、子どもの頃から慣れ親しんでいたスキーや大学時代に本格的に取り組んでいた硬式テニスを教えたり、夜はお客様にギターの弾き語りを聴かせたりして過ごしていました。レーシングと出合ったのもその頃です。菅平高原での1年数ヵ月の生活で数多くのお客さんと交流していろいろな体験をしたことで、将来に対して前向きに考えられるようになったんです。
編集部 挫折を乗り越え、再び挑戦する気持ちを取り戻したんですね。
今村 そうです。その後、父親が体調を崩したことをきっかけに実家のある東京に戻ったのですが、ご縁があって建設業に携わることになったんです。そして、1993年7月に建設・不動産・飲食事業を手がける会社を設立して独立したのですが、その利益をすべて2003年から開始した装置の研究・開発につぎ込みました。億単位のお金を毎年です。家族には相当迷惑をかけたと思います。
ただ、幸いだったのが、知人が2010年に応募してくれた「第17回空間デザイン・コンペティション」で入選を果たせたことです。私が手がけた飲食店のデザインだったのですが、「空間デザイナー」という肩書きがついたおかげで仕事が舞い込んでくるようになりました。
編集部 今村社長は、苦境に陥った際に救いの神が現れるようですね。人間用の装置を開発するようになったきっかけはなんですか?
今村 車・船舶・発電機・ボイラーなど工業用の装置を開発していたのですが、燃費が桁違いにいい車や装置が登場した影響でHHOガス発生装置の行く末を案じていました。そんな時にクライアントの方から連絡があって、その方は医療関係の方だったのですが、「人間が吸っても大丈夫なように作れませんか?」と頼まれたんです。

その方は水素吸引療法に関する新聞記事を読んで、HHOガスのほうがいいのではないかと考えたそうです。ただ、工業用と人間用では話がまったく異なります。最大の課題は安全性の高い電極の開発でした。
日本のHHOガス発生装置のほとんどにはステンレス製の電極が使われているのですが、ステンレスが溶解してクロムが溶出する可能性があり、特に六価クロムは発がん性が指摘されています。工業用であれば、ステンレスが溶ければ交換すればいいだけの話ですが、人間用となるとそういうわけにもいきません。しかも、一定の濃度のHHOガスを安定して発生させる必要もあったんです。それから電極開発という試行錯誤の日々が始まりました。
編集部 それは一大転機ですね。今村社長は物作りに情熱を傾けるタイプのようにお見受けしますが……。
今村 それは父親の影響かもしれません。父親はテレビ業界でテクニカルディレクターを務めていて、数々の特許申請に貢献していたようですから。複数のカメラで撮影した映像を必要に応じて切り替えて表示・記録するスイッチングという技術があるのですが、父親が考案した技術で撮影した映像を、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団の指揮者を務めたヘルベルト・フォン・カラヤンが絶賛したという逸話もあります。
編集部 それはすごいですね。話を伺う限り、今村社長の探求心は父親譲りのようですね。
今村 そうかもしれません(笑)。ステンレスに替わる金属という金属を何十種類も試した結果、プラチナとイリジウム、チタンだけが耐久性で合格だったんです。ただ、「プラチナとイリジウムは高価」「チタンは水素が出ない」という問題がありました。そこで、チタンにプラチナのメッキを施す解決策を見いだし、日本全国の有名なメッキメーカーに試してもらって、ようやく2012年に試作機、2014年に販売できるクオリティーに仕上がったんです。
編集部 晴れて人間用のHHOガス発生装置が完成したのですね。その後は順調に販売実績を伸ばし、現在に至るのですか?
今村 いえ、まだまだ波乱は続きます。HHOガス発生装置の開発・設計は私が手がけていたのですが、製造は外部に委託していたんです。ところが、2014~2016年にかけてその会社と下請け会社が勝手に電極や金属を薄くするなどの変更を加えていることが判明したんです。きっかけは、電極が曲がってしまうという不具合でした。
編集部 一難去ってまた一難ですね……。
今村 その後、電極が曲がってしまったことに対して補償する、しないといろいろといざこざがあり、結果的に1円も補償してくれませんでした。曲がってしまった電極を全部直す、もしくは取り換えるとなると、7000万円くらいはかかります。
途方に暮れていた時、たまたま私のところに「融資はいりませんか」と銀行の営業の方が話を持ってきてくれたんです。「いくら貸してくれるんですか?」と聞いたら、「4000万円ぐらいだったらすぐ準備できそうです」というので、すぐに借りました。
編集部 まさに捨てる神あれば拾う神あり、窮地を救う融資だったのですね。
今村 はい。その反省を生かし、もう他人に頼っていられないと思って自社製造に切り替えました。工場を借りて、そこで製造というか、組み立てをしました。そのほか、メンテナンスや修理まで自社で行うようになったんです。
詐欺や裏切りに遭ってしまいましたが、ようやく販売体制が整いました。2009年に株式会社レガルシィを設立するにあたり、我々は絆をもって頑張っていくという願いを込め、イタリア語の「レガルシィ(絆・団結の意)」を社名にすることに決めたんです(後編へ続く)。

