千代田国際クリニック院長 前川 衛
線維筋痛症は全身の痛みが持続的・継続的に起こる疾患で生活の質が著しく低下
皆さんは「線維筋痛症」という病気をご存じでしょうか。線維筋痛症は、体の広範囲にわたって持続的・断続的に痛みが起こる、一般的には原因不明といわれる慢性疾患です。線維筋痛症の患者さんは、国内に200万人いると推測されています。
線維筋痛症の痛みは鈍い痛みから激しい痛みまで個人差があり、患者さんたちは「体がナイフで切り裂かれるような痛み」「体の中を割れたガラスの破片で傷つけられるような痛み」「全身が締めつけられるような痛み」など、それぞれが異なる言葉で尋常ではない痛みを表現します。
線維筋痛症の原因にはさまざまな説が議論されていますが、その一つとして「脳が痛みの信号を感じる機能に障害が起こっているのではないか」というものがあります。脳には痛みの信号を伝える「アクセルの機能」と、信号を抑える「ブレーキの機能」があります。しかし、なんらかの原因でこれらの機能に障害が生じ、ブレーキが利かなかったりアクセルを踏みすぎたりすると、通常では痛みを感じない程度の弱い刺激でも痛みを感じるようになるのです。
線維筋痛症の患者さんにとって、痛みの程度は日によって、あるいは一日のうちでも時間によって刻々と変化するのが特徴です。また、季節や天候、身体活動、精神的ストレスなどによって痛みが悪化します。痛み以外には、強い疲労感や抑うつ気分、熟睡感のなさ、物忘れ、集中力の低下などの症状も起こります。
線維筋痛症が深刻な病気といわれるのは、痛みのみならず、150以上もの合併症が起こるおそれがあるからです。痛み以外の不調に悩まされる患者さんの中には、原因が分からない不調に苦しみ、精神疾患と誤診される人も少なくありません。さらに、処方された向精神薬の副作用に苦しんでいる患者さんも多くいらっしゃいます。そのような患者さんは人生への絶望感や、医師に対する不信感や怒りを抱きやすくなります。そのため、線維筋痛症の治療は薬物療法だけでは不十分で、患者さんの心の問題も見逃さずに寄り添うことが欠かせません。
現在、国内における線維筋痛症の診療ガイドラインは、1990年にアメリカのリウマチ学会が定めた内容が基本となっています。線維筋痛症の定義とされる「広範囲にわたる疼痛の病歴があること」「18ヵ所の圧痛点のうち11ヵ所以上に圧痛があり、3ヵ月以上継続していること」が患者さんの体に確認され、さらに問診も含めた総合的な判断によって線維筋痛症と診断されます。
線維筋痛症の痛みは血液の滞りで起こり低血糖や血糖値スパイク、低血圧が大きな要因
難治とされる線維筋痛症ですが、国内外における長年の研究によって、痛みを引き起こす原因の一つに脊柱起立筋と腹筋に十分な血液が供給されない、血行動態の問題(血液の滞りや虚血)が関係していることが明らかにされました。首から腰にかけて背中の両側にある脊柱起立筋は、腸肋筋・最長筋・棘筋からなる筋肉で、背骨を支える働きを担っています。脊柱起立筋は私たち人間が直立姿勢を維持するには腹筋とともに不可欠な筋肉ですが、血液が滞ると十分なエネルギーが行き渡らず地球の重力に耐えられなくなります。虚血状態となった際に起こる痛みが、線維筋痛症で起こる症状の根源と考えられるのです。
線維筋痛症の痛みを引き起こす血液の滞りは、さまざまな要因によって起こります。私たちのクリニックでは、その要因の中でも、特に①低血糖・血糖値スパイク、②血行動態不良症候群(低血圧)の二つが大きく関わっていると考えています。
血糖値スパイクとは、血糖値の乱高下のことです。血糖値が急激に上昇した後、一気に下降する現象が、血糖値のグラフでは靴底の鋭利なスパイクのような形になることから命名されました。糖の代謝が適切に働く人は、食事をとって血糖値が緩やかに上昇した後、膵臓からインスリンというホルモンが分泌されてブドウ糖(グルコース)を筋肉の細胞に取り込んでいきます。その後、血糖値は緩やかに下降していきます。
ところが、膵臓の働きが過敏な人は、食事の後に大量のインスリンが分泌されて血糖値が急激に下がります。その結果、血液中のブドウ糖が急激に減って低血糖となり、全身がエネルギー不足に陥ってしまうのです。
ブドウ糖は、私たちの体にとって大きなエネルギー源です。全身の中で最もエネルギーを必要とするのは筋肉で、肝臓・脳・心臓・腎臓と続きます。心臓が低血糖状態になると貴重なエネルギー源を少しずつ使うようになるため、血液を送り出すポンプ機能の低下を招くようになります。血液を送る力が弱くなった心臓は低血圧を引き起こし、特に心臓から遠い位置にある脳や下肢、脊柱起立筋、腹筋が虚血状態に陥りやすくなります(血行動態不良症候群)。
通常、糖尿病の診断には、75㌘のブドウ糖液を飲み、2時間後に血糖値の変化を調べる糖負荷試験が行われます。糖負荷試験は血糖値スパイクの有無を調べる際にも用いられますが、血糖値の乱高下は糖の摂取から2時間後以降に起こることもあります。そのため、私のクリニックでは小さな貼付式の測定器を使いながら、24時間の血糖値の変化を2週間にわたって測定することで血糖値スパイクの有無を診断しています。
全人的医療を提唱した永田勝太郎医師が開発した「特別な乳酸菌食品」で線維筋痛症の痛みが改善
そのほかにも、測定器を使わずに血糖値スパイクのリスクを簡易的に調べる方法があります。それは、食後にひどい眠気をもよおすかどうかです。食後、急な眠気に襲われる人は、血糖値スパイクによって脳が低血糖に陥っているおそれがあります。脳の重量は全体重の2%程度しかありませんが、全エネルギーの約2割を消費しています。しかも、脳は、たんぱく質や脂質を栄養源にできるほかの臓器と異なり、栄養源がブドウ糖のみです。そのため、脳が低血糖を起こすと、すぐに脳の機能低下につながってしまうのです。
私たちのクリニックでは、線維筋痛症と低血糖が密接な関係にあることを確認しています。クリニックに来られた線維筋痛症の患者さんを調査したところ、90%の人が夜間低血糖、78%が午前低血糖、82%が血糖値スパイクを起こしていました。また、患者さん(10~20代)の96%に午前低血糖や血糖値スパイクの原因となる朝食抜きやどか食い、早食い、過食、拒食、過剰なダイエットといった食事の異常行動が見られたのです。
線維筋痛症患者さんの9割に起こっている低血糖や血糖値スパイクを改善する救世主といえるのが「特別な乳酸菌食品」です。特別な乳酸菌食品は、低血糖や血糖値スパイクの抑制作用が認められている「LAB4乳酸菌」と水溶性食物繊維の「グルコマンナン」が適切な比率で配合された健康食品です。
特別な乳酸菌食品は、千代田国際クリニックの前院長である永田勝太郎先生(故人)が長年の研究の末に開発しました。永田先生は第二次世界大戦中にナチス・ドイツによって捕らわれ、収容所から奇跡的に生還したオーストリアの精神科医・ヴィクトール・E・フランクル博士の最後の弟子として実存分析(人生の意味を見いだし、病を乗り越えることを支える方法論)を学び、「全人的医療」を確立させました。
永田先生は一人ひとりの患者さんを「個」としてとらえて、ていねいに向き合うことを重んじてきました。そして、長年にわたって原因不明とされていた線維筋痛症の原因が〝生きざまのゆがみ〟にあると考えたのです。
患者さん一人ひとりには、固有の「身体(体)」「心理(心)」「社会(環境)」「実存(生きがい)」を反映した生きざまがあります。線維筋痛症の患者さんは、長年の生活の中で人生にさまざまな障害が生まれ、それが結果的に生きざまのゆがみにつながってしまっているのです。そのため、線維筋痛症の患者さんを痛みから解放するには、一人ひとりの患者さんの生きざまに潜む、まるでジグソーパズルのように複雑に絡んだ原因を解きほぐしていくことが大切だと話されていました。
みずからの生涯を全人的医療の研究・教育・実践・啓発にささげた永田先生は、その過程において線維筋痛症を引き起こす要因の一つに低血糖と血糖値スパイクがあることを突き止めました。以後、独自の研究によって開発した特別な乳酸菌食品を中心とした「永田式疼痛アプローチ」によって、クリニックに来られる線維筋痛症の患者さんの七割以上に改善が見られたのです。
次の記事では、特別な乳酸菌食品を中心とした四つの柱から成り立つ永田式疼痛アプローチについて、詳しく解説しましょう。