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河内晩柑に多い脳内の炎症を抑える「オーラプテン」をとって認知機能の低下を阻止!

ご当地研究最前線
愛媛大学大学院医学系研究科/老年神経総合診療内科学講座特任教授 伊賀瀬 道也さん

認知症の予備軍ともいえる軽度認知障害(MCI)が悪化して認知症に移行する確率は、1年で10%、5年で40%といわれています。認知症を未然に防ぐには、MCIの段階で脳の機能低下を正常化することがカギとなります。今回は河内晩柑に多く含まれ、脳内の炎症を抑制して認知機能の低下を回避する「オーラプテン」をご紹介します。

軽度認知障害の進行は気づきにくいのが問題で1年で10%、5年で40%が認知症に移行

[いがせ・みちや]——1991年、愛媛大学医学部卒業後、同大学第2内科、公立学校共済組合近畿中央病院循環器内科、米国・ウェイクフォレスト大学医学部高血圧・血管病センターリサーチフェロー、愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センター長を経て、2015年より現職。医学博士。日本循環器学会専門医、日本老年医学会専門医、日本抗加齢医学会専門医。著書に『血管力革命 健康寿命を延ばす46の知恵』(冬樹舎)など多数。

「今日の日付がわからない」「少し前のことをしばしば忘れる」というような症状が起こるようになったら、軽度認知障害(MCI)の疑いがあります。MCIとは、認知機能が衰えているものの、日常生活は正常に保たれている状態のことです。

MCIがやっかいなのは、日常生活に支障を来さずにゆっくりと進行するため、本人や家族が気づきにくいことです。MCIから将来的に認知症になる移行率は、1年で10%、5年で40%といわれています。

世界各国で認知症の研究が進められているものの、アルツハイマー病をはじめ、認知症の原因疾患を改善に導く治療法はいまのところ見つかっていません。そのため、MCIの段階で認知機能の衰えに歯止めをかけ、認知症の発症を防止することが重要と考えられているのです。

MCIの状態から認知機能を維持する、あるいは正常化する手法は、運動や食事など、さまざまなものが挙げられます。その中で近年、注目を浴びるようになってきた成分が、河内晩柑という柑橘類に含まれる「オーラプテン」です。

「和製グレープフルーツ」といわれる河内晩柑は愛媛県特産の柑橘類で、苦味の少ないさっぱりした味が特徴です。柑橘王国として知られる愛媛県では5番めに多く生産され、2015年産は約6000㌧と、日本一の生産量を誇ります。

河内晩柑の果皮にはオーラプテンが豊富に含まれる

オーラプテンは、河内晩柑など、柑橘類の果皮に含まれる機能性成分です。ハッサクやグレープフルーツ、温州ミカンなど、20種類以上の柑橘類と比較したところ、河内晩柑の果皮には群を抜いて多くのオーラプテンが含まれていることがわかりました。

オーラプテンには優れた抗炎症作用があり、脳の中枢で免疫を担当する「ミクログリア」という細胞の活性化を抑制し、MCIの予防・改善に役立つと考えられています。ミクログリアは炎症に反応して活性化し、変性した神経細胞を除去する働きがあります。その一方で、ミクログリアの活性が過剰になったり、長期化したりすると、周辺の正常な神経細胞まで除去してしまいます。そのため、ミクログリアの活性のコントロールが、脳の神経細胞の保護につながるといわれているのです。

実際、私が勤める愛媛大学医学部附属病院抗加齢・予防医療センターで行われた試験では、オーラプテンの優れた機能性が明らかになりました。試験には同センターの抗加齢ドックの受診者で、明らかな認知症の傾向がない82名(男性27名、女性55名。年齢62~80歳)にご協力いただきました。

試験では、参加者のグループを2つに分け、河内晩柑の果汁に果皮ペーストを混ぜた2種類の果汁飲料125㍉㍑(オーラプテンの含有量6㍉㌘と0.1㍉㌘)を、それぞれ6ヵ月間にわたって毎日飲んでもらい、認知機能の変化を調べました。試験で採用されたのは、プラセボ効果(思い込み効果)を排除するため、観察者にも参加者にも果汁飲料の働きなどについて説明しない二重盲検法です。

認知機能の変化は、「10単語想起テスト」を中心とする5つの課題で構成される「MCIスクリーン日本語版」と、見当識(状況把握)・記憶力・言語能力・図形能力などを確認する「MMSE(ミニメンタルステート検査)」という検査法で、初回と24週間後の2回測定しました。

オーラプテンを多く含む果汁飲料を毎日飲むと認知機能が有意に改善すると判明

オーラプテンが6㍉㌘含まれている強化果汁飲料群は、対照果汁飲料群に比べて認知機能の改善が見られた

試験の結果、オーラプテン0.1㍉㌘を含む果汁飲料を飲んだグループでは、10単語想起テストの成績の変化率が平均2.4%、MMSEの成績の変化率は平均0.8%の低下が見られました。それに対して、オーラプテン6㍉㌘を含む果汁飲料を飲んだグループは、10単語想起テストの成績の変化率が平均6.3%、MMSEの成績の変化率は平均1.6%の上昇が見られたのです。

今回の試験では、河内晩柑の果皮に含まれるオーラプテンには、認知機能の低下を予防・改善する効果が期待できることが示唆されました。試験の結果は「第7回日本認知症予防学会」で発表され、「The Journal of Prevention of Alzheimer’s Disease」という英字論文雑誌での掲載が決定しています。

現在、オーラプテンを含む河内晩柑の果汁飲料の研究・開発は、愛媛県の戦略的試験研究プロジェクトとして、愛媛県、愛媛大学、松山大学、株式会社えひめ飲料が共同で行っています。今後、味や香り、舌触り、飲みやすさなどを改良したうえで、機能性表示食品として製品化される予定です。高齢者がいつまでも健康で自分らしく暮らせる社会の実現のため、1人でも多くの方々に役立てていただければ、これほど研究者冥利に尽きることはありません。