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「音楽聖徳太子」に挑んで注意力の選択・配分を強化

Dr.朝田のブレインエクササイズ!

メモリークリニックお茶の水理事長 朝田 隆

少し離れた場所の会話から、自分の名前だけ聞こえてきたという経験はないでしょうか。それは、認知機能のうちの「注意力」の働きによるものです。今回は、朝田先生が命名した「音楽聖徳太子」をご紹介します。聖徳太子になったつもりで、楽しみながら注意力を向上させましょう。

複数の音の中から求める情報だけを入手するには注意力の「選択」と「配分」が必要

[あさだ・たかし]——筑波大学名誉教授。1982年、東京医科歯科大学医学部卒業。同大学神経科、山梨医科大学精神神経科講師、筑波大学精神神経科学教授などを経て現職。数々の認知症の実態調査に関わった経験をもとに、認知症の前段階からの予防・治療を提案している。著書に『その症状って、本当に認知症?』(法研)など多数。

飛鳥(あすか)時代の政治家である(しょう)(とく)(たい)()は、宗教的思想家というよりも、かつて1万円札にその肖像が載っていたことで有名です。聖徳太子のエピソードとして、10人以上の人々が同時に発した言葉を理解し、的確な答えを返したという逸話が知られています。

近年、言語処理の分野では科学技術の進歩が著しく、精度が向上しています。マイクで拾った複数の人の声をその場で話者ごとに分離する「分離集音技術」という、現代版の聖徳太子と呼べる機器も現れています。ところが、私たち人間の多くは、10人以上はもとより、二人ですら同時に話されると内容を聞き分けることが困難です。

複数の会話を聞き分けるには「注意力」と呼ばれる認知機能が重要です。基本的に注意力は「選択」「配分」「持続」「転導」の四つに分類されます。聖徳太子の例では、多くの情報の中から必要な情報だけを選ぶ「選択」と、注意を一方のみならず別にも向ける「配分」が重要と考えられます。

注意力に関係する話として、耳鼻科には「ご都合性難聴」と呼ばれる現象があります。例えば、難聴のある高齢の方に大声で話しかけても聞き取ってくれないのに、本人の悪口はしっかり聞こえているなどです。

また、心理学用語では「カクテルパーティー効果」という言葉があります。これは、カクテルパーティーのように、多くの人が会話している環境でも、自分のことや自分の名前、また興味のある人の会話などは自然と聞き取ることができることを指します。つまり、人間は音や話されていることの概要などを無意識のうちに判別したり処理したりして、必要な情報だけを脳内で再構築しているようなのです。

聖徳太子には、10人以上の人々が同時に発した言葉を理解し、的確な答えを返したという逸話が残っている

音楽においても、カクテルパーティー効果と似ている現象があります。例えば、オーケストラの演奏などで複数の楽器がそれぞれ別のメロディを奏でているとき、特定の楽器のメロディだけを追って聴くことができるなどです。

今回は、私が名付けた「音楽聖徳太子」に挑んでみましょう。三人の歌い手がそれぞれ異なる曲を同時に歌い、それぞれが何という曲かを当てるゲームです。歌ってもらう歌は、「われは海の子」「たきび」「お正月」など、誰もが知っている童謡や唱歌にしましょう。難しい点は、聴こうとしないのに入ってくる曲を無視し、逆に聴こえてこなかったり分かりづらかったりする曲に向かって注意を絞って集中しつづけることです。

音楽聖徳太子に挑んでみよう!

次の動画を見ながら、実際に音楽聖徳太子に挑んでみましょう。最初は1曲しか分からなくても、コツをつかめば3曲同時に聴き分けられるようになります。音楽聖徳太子は、加齢に伴って衰えがちな注意力を楽しみながら鍛えるには最良の方法の一つになるかもしれません。

3人がそれぞれ別の歌を歌っています(イラストとは違う歌です)。それぞれ何の歌か当ててみてください。解答は動画の後半にあります。

音楽や歌い手を複数用意することが難しい人は、テレビなどを使うとよいでしょう。テレビでニュースを見ながらラジオを流したり、友人や家族と話したりしてどちらの内容も理解しようと試みると、音楽聖徳太子と同様の効果が期待できます。

私のクリニックのホームページでは、音楽聖徳太子だけでなく、認知症に関するさまざまな情報を発信しています。興味のある方は、ぜひ下のリンクからアクセスしてみてください。

朝田隆先生が診療されているメモリークリニックお茶の水の連絡先は、
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