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耳鳴り・めまいを伴う女性の難聴が急増中で突発性・低音部型やメニエール病が顕著

耳鼻咽喉科
JCHO東京新宿メディカルセンター耳鼻咽喉科診療部長 石井 正則

耳鳴りやめまいが起こったらできるだけ早く遅くとも二日以内に耳鼻科の受診が大切

石井正則[いしい・まさのり]——1980年、東京慈恵会医科大学卒業。1984年、同大学大学院修了後、米国ヒューストン・ベイラー医科大学耳鼻咽喉科に留学。1987年、東京慈恵会医科大学耳鼻咽喉科医長。2000年、同准教授を経て、現職。八重洲クリニック・耳鳴り・めまい・難聴・ストレス特殊外来担当を兼務。日本耳鼻咽喉科学会専門医・評議員、日本めまい平衡医学会・専門医・めまい相談医・評議員、宇宙航空研究開発機構(JAXA)・宇宙医学審査会委員。著書に『自律神経を良くすれば、耳鳴り、めまい、難聴も良くなる!』(廣済堂出版)など多数。

近年、年代に関係なく難聴を訴える人が増えています。特に、低音の耳鳴りを伴う急性低音障害型感音難聴(以下、低音部型難聴と略す)、突発性難聴、耳鳴りとめまいを伴うメニエール病が多くなっています。

患者数が最も多いとされるのは低音部型難聴です。男性よりも女性が圧倒的に多く、20~30代の働き盛りの世代に急増しています。「耳が詰まった感じがする」「低音の耳鳴りがする」「低音が聞こえづらい」「音がゆがんで聞こえる」などの症状が現れます。

低音部型難聴の症状は、突発性難聴やメニエール病と比較すると軽度といわれています。しかし、治療をせずに放置すると再発を繰り返し、聴力障害が起こります。そして、内耳の中のリンパが増えて蝸牛(音の振動を電気信号に変換して聴神経に伝える器官)にむくみが生じ、蝸牛型メニエール病に移行するケースもあります。

低音部型難聴の再発率は週単位から年単位まで含めると最大約80%といわれています。再発を繰り返して蝸牛型メニエール病に移行した人たちの経過を詳細に追うと、そのうちの約10~15%がメニエール病に移行すると推定されています。

蝸牛型メニエール病はメニエール病に移行する前段階ともいわれ、激しいめまいの発作を発症することはありません。しかし、メニエール病に移行すると、耳が詰まった感じとともに〝ボーッ〟という耳鳴りや回転性の激しいめまいが起こります。メニエール病のめまいの発作は数時間続き、吐き気や嘔吐を伴うのが特徴です。

突発性難聴は、突発的に起こる原因不明の難聴です。突然、片方の耳だけが詰まっているような状態になり、音が聞こえにくくなります。ふらつきや短時間のめまいを伴うこともあり、同じ耳に再発することはありません。もし再び聴力が落ちれば、それは別の原因から起こったと考えられます。

突発性難聴は早期治療が大切です。治療が遅れると、聴力が元に戻らない恐れが出てきます。耳に異常を感じたら、可能な限り早く、遅くとも48時間以内には耳鼻咽喉科を受診するようにしましょう。

ストレスや睡眠不足による自律神経の乱れが耳の不調を引き起こす大きな要因となる

石井方式で自律神経の状態をチェック!

メニエール病は、内耳にある蝸牛のむくみの他に、内耳の三半規管(体の平衡感覚を保つ器官)のむくみや血流障害、ウイルス感染などが疑われていますが、直接的な原因はいまだに解明されていません。しかし、これらの症状と深い関わりがあると考えられているのが、過度のストレスです。

ストレスは、悩みや不安などの精神的な要因だけでなく、睡眠不足や疲労などの肉体的な要因も重なり合うことで増幅します。蓄積されたストレスは、自律神経の乱れを引き起こします。

自律神経とは、自分の意思とは無関係に臓器や血管の働きを支配している末梢神経のことです。

自律神経には、心身が活動的に働くときに優位になる「交感神経」と心身がリラックスしているときに優位になる「副交感神経」があります。自動車にたとえるなら、興奮や活動を促す交感神経はアクセル、リラックスや安定を促す副交感神経はブレーキといえます。交感神経と副交感神経がバランスを取り合うことで、心身の状態を維持しているのです。

脳の中枢性自律神経ネットワーク(CAN)の領域

ところが、過度のストレス状態になると、交感神経が優位に働きます。交感神経は別名「戦いの神経」とも呼ばれ、血管を収縮させて血圧や心拍数を上昇させ、臨戦態勢を整えるのです。
こうした自律神経のバランスを支配しているのが、脳内にある「中枢性自律神経ネットワーク(CAN)」と呼ばれる部分です(上の図参照)。CANは大脳辺縁系(感情や欲求、本能をつかさどる部分)を中心として、脳の前頭前野とリンクしている前方から、視床下部(自律神経や内分泌の機能を調節する部分)や孤束核までを含む後方まで、広い領域にわたる神経線維のネットワークで形成されています。

それぞれの働きによって自律神経のバランスを保っていますが、心身にストレスが加わるとCANが交感神経を興奮させるように指令を送ります。すると、脳全体が興奮して自律神経のバランスが不安定になり、その情報が内耳にも伝わって、耳鳴りやめまい、難聴を引き起こすのです。

耳鳴りやめまい、難聴を伴う病気の改善には、適切な治療を受ける一方、ストレスの状態や原因を知り、上手につきあう方法を見つけることも重要です。