つじ耳鼻咽喉科クリニック院長 辻 富彦
難聴・耳鳴り、めまい、咽喉頭異常感症にはさまざまな原因がありストレスの影響も甚大
耳鼻咽喉科が専門とする疾患の中でも、治りにくいものとして代表的なものが「難聴・耳鳴り」「めまい」「咽喉頭異常感症」です。それぞれさまざまな原因が考えられますが、特にストレスの影響が大きく反映される疾患として知られています。
難聴は加齢や循環障害が大きな原因だといわれています。聴力が低下してある音域の音が聞き取れなくなると、脳はその音域の音をよりよく聞こうとします。弱くなった音域の電気信号を補うために脳の活性が高まった結果、耳鳴りの音も強調されて自覚するようになるのです。
また、突発性難聴やメニエール病など、難聴や耳鳴りにめまいを伴う疾患も少なくありません。突発性難聴は、突発的に起こる原因不明の難聴です。ある日突然、片方の耳が詰まっている状態になり、音が聞こえにくくなります。まれにめまいを伴うこともあり、同じ耳に再発することはほとんどありません。
メニエール病は、激しい回転性のめまいに加えて、耳鳴りや難聴、耳閉塞感を伴うことが少なくありません。直接的な原因はいまだに特定されていないものの、ストレスが引き金になるといわれています。
近年、耳鼻咽喉科を受診する患者さんで増えているのが、のどに違和感を覚える咽喉頭異常感症の患者さんです。「のどが狭くなったように感じる」「水を飲んでものどの圧迫感が治まらない」といった症状が見られ、東洋医学では「咽中炙臠」や「梅核気」と呼ばれています。
咽喉頭異常感症の中には、逆流した胃液によって食道に炎症が起こる逆流性食道炎や食道がんなどが原因のものもあります。しかし、内視鏡検査でも異常が見られないことがほとんどです。
耳鼻咽喉科を受診する患者さんの中には、治療を受けて予防法に取り組む中で症状が治まる方もいますが、検査でも原因が特定できず、薬を飲んでも改善しない方も少なくありません。そういった患者さんは、ストレスの軽減が必要かもしれません。
耳鼻咽喉科領域の疾患はストレスの原因を除去するだけで改善が期待できる
私は、2015年に耳鼻咽喉科領域の疾患とストレスの関係性についてSTAIという心理検査を使って調査しました。STAIでは、患者さんの訴える不安を「特性不安」と「状態不安」の2つに分けて数値化できるのが特徴です。
特性不安とは、ふだんから危険に対して回避的であったり、心配しやすかったりするといった性格を表しています。また、状態によって変わるものではないため、あまり変化することがありません。
一方、状態不安とは、ある特定の時点や場面で感じている不安のことを指します。例えば、大事なプレゼンテーションの直前や、近くで大きなイヌがほえているといった場面では、誰でも緊張して不安になります。ストレスが強いほど、またストレスにさらされている時間が長いほど、状態不安は高まります。
私は、クリニックに訪れた患者さん180人にSTAI検査を受けてもらい、結果を5段階で評価しました。試験の結果、対象となったすべての症状で特性不安の高値例が40%以上を占めていると判明。また、状態不安の数値も高いことから、ストレスの悪影響が強く出る疾患であることが分かります(グラフ参照)。
注目すべきなのは、特性不安よりも状態不安の高値例が多い点です。性格によるストレスに比べて、環境によるストレスが耳鼻咽喉科領域のさまざまな疾患の原因になっている可能性が高いといえるでしょう。
もちろん、難聴・耳鳴り、めまい、咽喉頭異常感症が重篤な疾患から起こっている可能性もあります。しかし、精密検査を受けて異常が見られなければ、ストレスの軽減に取り組んでみましょう。趣味を楽しんだり、友人との外出を計画したりして、不快な症状を忘れられる時間を増やすことも大切です。病気に振り回されるのではなく、自分の人生を積極的に楽しむようにしましょう。