帝京平成大学ヒューマンケア学部鍼灸学科准教授 大山 良樹
6月4日は、「六(む)」と「四(し)」の語呂合わせから、「虫歯予防の日」といわれています。また、6月4日から10日までの1週間を「歯の衛生週間」として、厚生労働省、文部科学省、日本歯科医師会、日本学校歯科医会が、歯と口に関する正しい知識の普及に努めています。イベントや学校行事を中心とした啓発活動を通じて、歯科疾患の予防や早期発見、早期治療によって歯の寿命を延ばし、国民の健康保持増進に寄与することが目的です。
日本人の平均寿命は、男性が81歳、女性は88歳(2019年度)です。男性は香港、スイスに次いで第3位、女性は香港に次いで第2位という長寿国となっています。しかしながら「歯の寿命」の観点で見てみると、高齢になるにつれて歯を失ってしまう人が増えているのが現実です。多くの研究から、歯の本数と健康状態には密接な関係があることが分かっています。ふだんからしっかりと歯磨きを行うことで、歯の寿命を延ばすことができます。
最近では「80歳まで20本の歯を維持しよう」という「8020運動」が提唱されています。年を重ねても、食事の際には自分の歯でしっかりと咀嚼できるように、1本でも多くの歯を残したいものです。
2021年6月現在、昨年より続くコロナ禍に収束は見られません。健康不安はもちろん、社会不安や世帯収入の減少など、経済的な不安などに伴うストレスを感じている人は多いことでしょう。ある大学が発表した研究結果によると、収入に変化がある人は変化のない人と比べて、歯の痛みを訴える割合が1.4倍も高くなるそうです。このような、精神的な苦痛が引き起こす歯痛もあるのです。
歯痛は、単なる歯の痛みだけでなく「冷たいものを食べたときにしみる」「歯の奥がズキズキする」など、その症状はさまざまです。歯痛の主な原因として虫歯や歯周病が考えられますが、以下に挙げるさまざまな随伴症状から起こる歯痛も考えられるので注意が必要です。
①筋・筋膜性歯痛…あごの筋肉痛が原因となって起こることが多い歯痛。あごの一部を強く押すことで歯痛が現れます。
②神経性歯痛…神経症状の一つとして起こる歯痛。瞬間的な激痛や、じわじわとした痛みが持続します。
③神経血管性歯痛…片頭痛や群発頭痛の随伴症状として起こる歯痛です。
④心臓性歯痛…心筋梗塞や狭心症などの関連痛として起こる歯痛。早期に専門医の診察を受ける必要があります。
⑤上顎洞性歯痛…カゼなどが原因で上あごの奥(上顎洞)に炎症が起こって発症する歯痛。また、歯痛は副鼻腔炎でも起こることが多いため、耳鼻咽喉科の専門医による診察が必要です。
⑥精神疾患に関連する歯痛…うつ病や統合失調症など、精神系疾患を伴うことで現れる歯痛です。
⑦特発性歯痛…原因不明の歯痛で、重篤な疾患が隠されていることがあります。精密検査を要する歯痛です。
ツボ刺激は、歯痛にも有効です。そこで今回は、歯痛に対して効果のある「合谷」「下関」という二つのツボをご紹介しましょう。
まずは「合谷」のツボですが、反対側の手の親指をツボに当て、皮膚がややひずむ程度(爪の先がやや白っぽくなる程度)の強さで、人さし指側へ向かって斜めに3~5秒間押し当てて刺激します。以上を交互に5回、計3セット行ってください。また、「合谷」の部位に押し当てた親指を使って3~5秒間、ぐるぐると回しながら刺激するのも効果的です。
次に「下関」のツボですが、顔面部中央、ほほ骨の下縁のくぼみに取ります。この部分を親指の腹(指紋のある部分)で指を押し下げるように刺激します。指を押し込んで「ズーン」と感じたら、その部分を5秒間押し当てて刺激します。以上を5回、計3セット行ってください。「合谷」と同じように、5秒間、ぐるぐると回しながら刺激してもいいでしょう。
● 由来
【合谷】「合」は、3人の意見が集まり合意することを意味している。合う・合わせる・同じ・交わる・集まる・閉じるといった意味もある。「谷」は、泉から湧き出た水が、山あいを通過する所(くぼみ)の意味。したがって「合谷」は、山あいのくぼみのある場所という意味になる
【下関】「下」は下方、「関」は扉の開閉を行うために扉に開ける穴「枢(とぼそ)」の意味。このツボは、上顎骨(上あごの骨)と下顎骨(下あごの骨)の連結点の下方にあり、下顎骨を動かすポイントであることから「下関」と名づけられた
● 効能
【合谷】歯痛、腰痛、肩こり、高血圧、眼精疲労、花粉症、下痢、便秘など
【下関】歯痛、頭痛、顎関節症、顔面のむくみ、耳鳴りなど