プレゼント

頑張らない筋トレ「体芯力Ⓡ体操」で多くの人の健康を支えたい!

ニッポンを元気に!情熱人列伝

一般社団法人日本体芯力協会 代表理事 鈴木 亮司さん

アスリートから高齢者まで、幅広い世代の人が実践できる「体芯力体操」を考案した鈴木亮司さん。「頑張らなくても健康になれる」と話題を集める体芯力体操の秘密と普及に努める情熱の源泉について伺いました。

陸上競技や格闘技、トレーナーの経験から筋力を鍛える方法を考案

[すずき・りょうじ]——千葉県館山市生まれ。トレーナーの専門学校・東京健康科学専門学校を卒業後、トレーナー活動と並行して総合格闘技やK-1などで活躍。選手引退後の2010年からトレーナー活動に専念し、格闘家時代のケガや不調の経験から「体芯力」を考案。2023年、一般社団法人日本体芯力協会を設立。以後、全国の認定指導者とともに「体芯力」の普及に努めている。

今月の情熱人は〝頑張らない筋力トレーニング〟のフレーズで話題を集める「たいしんりょく」の考案者であり、日本体芯力協会の代表理事を務める鈴木亮司さん。鈴木さんは、「脳・神経・感覚・構造を再びつなぐことで、人の本来の運動能力を再構築する統合的な身体メソッド」を体芯力と命名し、パーソナルトレーナーとしてオリンピック出場選手から90代の高齢者まで、延べ4万人に指導を行ってきました。現在は、体芯力をより多くの人に実践してもらうための普及活動に注力しています。

千葉県たてやま市で生まれ育った鈴木さんは、漫画やテレビゲームが好きな子どもだったといいます。現在、トレーナー界で名を馳せるようになったきっかけはなんだったのでしょうか。

「子どもの頃は、『聖闘士せいんとせい』や『ほくけん』といった漫画が好きでした。絵を描くのも好きだったので、当時は漫画家を目指していたんです。でも、中学3年の時に同年代の漫画好きの人たちが描いた漫画を目にして『レベルが違う……』と敗北感を覚えました。その瞬間、気持ちが折れて漫画家の夢を諦めました」

鈴木さんの夢が途切れた1992年は、サッカーのJリーグが開幕した年。翌年には打撃系格闘技のK-1グランプリが設立され、アメリカを拠点とする世界最大の総合格闘技の団体「UFC(Ultimate Fighting Cha-mpionship/アルティメット・ファイティング・チャンピオンシップ)」も発足しています。

「テレビで格闘技の試合を見ながら、『自分も強くなりたい』と、格闘家に憧れるようになりました。親のすすめで小学4年生から野球を始め、中学では野球部に所属していましたが、とても下手へただったんです。さすがに格闘技に挑戦するのはハードルが高いと思い、体を鍛えるためにも高校では陸上部に入りました。野球の経験があるという理由だけでしたが、やり投げの選手になりました」

やり投げの選手として大成を目指した鈴木さんは、パフォーマンスを発揮するために我流でトレーニングを開始。右足と右手、左足と左手を一緒に出して歩く「同側歩き(ナンバ歩き)」や相撲すもうの基本である「すり足」などを練習メニューに取り入れたところ、記録がぐんぐん伸びていったそうです。

「高校2年の時には県大会に出場し、高校3年の時に出場した千葉県高校総体では大会新記録を出して優勝し、インターハイ(全国高等学校総合体育大会)にも出場しました。努力が記録として出るのがうれしくて、初めて運動を楽しいと思えるようになった時期でした。そして、『運動能力はトレーニングによって伸ばすことができる』ことも実感しました」

インターハイに出場し、輝かしい実績を残した鈴木さんのもとには、多くの大学から推薦入学の声がかかったといいます。

「格闘家の夢を諦めるのなら、オリンピックを目指せる強豪の陸上部がある大学に進学したいと思いました。でも、希望する大学には入学がかなわず、格闘家の道に進むことにしました。とはいうものの、まったくの無計画状態だったので、高校卒業後は両親のすすめで都内にあるトレーナーの専門学校に入学しました」

鈴木さんはトレーナーと並行して格闘家として活躍していた

専門学校に通いながら格闘技ジムに入会し、練習を始めた鈴木さん。当時の心境は、前途洋々たる未来を信じて疑わなかったといいます。

「専門学校で学んでいた体の使い方やトレーニング方法を格闘技の練習に生かせば、すぐに上達すると思っていたんです。でも、トレーニングをするほど腰椎椎間板ようついついかんばんヘルニアや頸椎けいつい椎間板ヘルニア、ひざの靭帯じんたい損傷などのケガをするようになり、いつもどこかが故障している状態でした」

当時の鈴木さんは格闘家を目指すトレーニングを重ねながら、スポーツクラブでパーソナルトレーニングやグループレッスンのトレーナーとしても働いていました。

「もどかしかったのは、専門学校で学んだ理論をもとに指導しているのに、お客様の体が思うように改善しなかったことです。自分の力量不足に情けなさを感じることもありました」

格闘家としての夢を追いながら、トレーナーとしての活動を続けていた鈴木さんは、20歳の時に眼窩底がんかてい骨折を患い、手術を受けました。力むと眼圧が上昇して視覚機能に悪影響を及ぼすおそれがあることから、半年間、筋トレなどの運動を禁止されたそうです。この時期が、体芯力が生まれる大きなきっかけになったと振り返ります。

「半年も運動をしなかったら、筋力が落ちてしまいます。そこで、負荷を軽いものに替え、力まずに行う筋トレをするようにしました」

いわゆる〝頑張らない筋トレ〟を半年間続けて格闘技の練習を再開した鈴木さんは、体が動きやすくなっていることを体感。その瞬間、大きな気づきを得たそうです。

「それ以来、体の動きのメカニズムや東洋医学などを学んで試行錯誤を繰り返しました。関節や血管への負担が少なく、かつ体の動きをよくするトレーニング方法を自分で試しながら模索する日々が続きました。その過程で、『背骨を前後・左右・ひねるの3つの動作で動かすと体の調子が整えられる』ことが分かってきたんです」

さらに鈴木さんにとって大きな出合いとなったのが古武道です。古武道には、体の調子がよくなる動きが組み込まれていると話します。

「古武道を習った先生から、『古武道の動きのかなめは大腰筋』と教わりました。古武道の理論に感銘を受けた僕は、それまで行っていた〝頑張らないトレーニング〟に古武道の動きを取り入れることにしました。こうして生まれたのが体芯力です」

体芯力は、鈴木さんが考案した造語です。〝体芯〟とは、胴体のインナーマッスルの大もとといえる大腰筋を指しています。大腰筋は人間の上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉で、足と腰の動きに大きく関わっています。

「私自身、体芯力体操によって体をらくに動かせるようになりましたし、スポーツジムで指導しているお客様からもうれしい声が寄せられました」

体芯力の理論を駆使した鈴木さんの指導は好評を博し、スポーツジムでの予約枠は常に満員になったそうです。また、1997年に格闘家としてデビューして以来、全日本コンバットレスリングオープン大会3位、レスリング国体東京予選3位など着実に戦歴を積み上げ、憧れていたK-1 WORLD MAX日本武道館大会への参戦も果たしています。

格闘家やトレーナーとして華やかな活躍を続ける一方で、鈴木さんはある悩みを抱えていたといいます。

鈴木さんは、頑張らない筋トレ「体芯力」の普及を目指している

「スポーツジムで指導していた生徒さんのうち、3分の1は65歳以上の方でした。多くの方が体芯力で腰痛やひざ痛を改善していましたし、私自身も毎日、調子よく過ごしていたので、体芯力は年齢や体力を問わないトレーニングであると確信していました。その一方で、体芯力には科学的な根拠がありませんでした。裏付けのないトレーニングを生徒さんたちに指導していてよいものかと悩むようになりました」

そんなある日、体育学の権威である東京大学のばやしかんどう名誉教授の記事を読んだ鈴木さんは、目の前がパッと開けたような気持ちになりました。

「小林先生は、トレーニングで大腰筋を鍛えると足腰が強くなることを科学的に証明していたんです。この事実を知ってから、体芯力のトレーニングに自信を持つことができました。実は、『体芯力』という名称は、小林先生が〝体の芯から力を出す〟とおっしゃっていた言葉がもとになっています。私が考える体芯力とは、体の表面の筋肉の力を抜き、背骨を意識して前後・左右・ひねるの3つの動作で行うトレーニング法です。一般的なトレーニングは、筋肉や関節に負荷がかかるため、成長期のお子さんや高齢者の方には不向きといえます。でも、足腰の弱っている方や体力が落ちている方が健康を取り戻し、さらに鍛えるためにはトレーニングが必要なんです。体芯力を使って体をゆっくりと動かせば、大腰筋に刺激を与えて鍛えることができます。筋トレにありがちなふんばりは不要で、息切れもありません。体への負担が少ないので、高齢の方でも、リハビリができる状態であれば実践できる運動なんです」

「体芯力」の普及のために一般社団法人を設立し多くの認定指導者を育成

鈴木さんによると、「体芯力は、多方面での健康効果が期待できる運動」とのこと。腰痛やひざ痛、肩こりといった慢性的な痛みはもちろん、脳の若返りにも役立つそうです。

体芯力の普及を目指す鈴木さんは、2023年に一般社団法人日本体芯力協会を設立。現在はトレーナーとしての活動と並行して後進の育成にも力を入れています。

「体芯力は老若男女問わず、誰にでもできる運動です。私の指導を受けた受講者の中には、認定指導者として活動をしている人もいます。1人でも多くの方に体芯力の魅力を知っていただき、実践することでどんどん元気になってほしいです。体芯力を通じて健康になり、未来に希望を持ってもらうこと。これが私に与えられた使命だと思っています」