プレゼント

〝リハビリ難民〟を救うためにロボットを活用した最新のリハビリを提供しています

ニッポンを元気に!情熱人列伝

PEAKFORMセンター長・理学療法士 中田 勇磨さん

理学療法士として15年間の臨床経験を持つ中田勇磨さん。保険診療の枠外に置かれた〝リハビリ難民〟の体調回復を支えています。理念は「からだは、変わる。」。その言葉どおり、諦めないリハビリ支援を続けています。

リハビリ難民の絶望を希望に変えつづける理学療法士として話題

[なかた・ゆうま]——岩手県盛岡市在住。理学療法士として15年間、整形外科術後リハビリ・脳卒中リハビリを中心に病院臨床に従事。2024年、保険診療の枠外に置かれたリハビリ難民の支援を目的とした自費リハビリ施設「PEAKFORM」を盛岡市内に開設。日本脳卒中学会・日本リハビリテーション医学会など多数の学会で研究を発表。歩行支援ロボット「Hypershell」を活用するリハビリのほか、若手理学療法士向け教育プログラム「TOA」を主宰。

岩手県盛岡市で自費リハビリ施設「PEAKFORMピークフォーム」を運営する理学療法士のなかゆうさんは、制度の限界によって行き場を失った〝リハビリ難民〟と呼ばれる患者さんたちの回復を支えています。中田さんは、リハビリ難民という言葉が示す実態は、日本の医療制度が抱える深刻な構造的課題の1つと話します。

「脳卒中や骨折、神経変性疾患などを発症した患者さんは、急性期病院での治療を終えると回復期リハビリテーション病棟に移り、集中的なリハビリを受けます。しかし、日本の医療保険制度では、疾患ごとにリハビリを受けられる日数に上限が設けられています。脳血管疾患では最長180日、運動器疾患では最長150日です。期限が来れば、回復の途中であっても保険診療によるリハビリは打ち切られてしまうんです」

中田さんが指摘する問題は、制度の期限に合わせて体が回復するわけではないという点です。脳卒中後の機能回復は発症直後が最も著しいものの、適切なリハビリを継続すれば、発症から数年経過後も改善が見込めることが、近年の研究で報告されるようになってきました。にもかかわらず、期限を迎えた患者さんの多くは十分な受け皿のないまま地域に戻ることを余儀なくされます。介護保険によるデイケアや訪問リハビリに移行できる場合もあるものの、特に地方においては提供できる時間や専門性には限界があり、回復を目指すうえで不十分なケースが少なくありません。このような制度のはざまに取り残された患者さんが、リハビリ難民と呼ばれる人々です。

「リハビリ難民と呼べる人数は、決して少なくありません。厚生労働省の『患者調査(2023年)』によれば、脳血管疾患で治療を受けている総患者数は184万人と推計されています。その中で、後遺症が残っている患者さんは少なくありません。加えて、パーキンソン病や脊髄せきずい損傷、ALS(きんしゅくせいそくさくこうしょう)などの神経難病患者も継続的なリハビリを必要としています。リハビリを必要とする潜在的な人口は膨大といえるでしょう」

リハビリを考えるうえでは、地域格差も深刻な問題です。自費リハビリ施設や専門的な支援機関は都市部に集中し、地方では選択肢そのものが乏しい状況が続いています。特に厳しいとされる東北地方をはじめ、多くの地方圏では、制度内のリハビリを終えた後に通える施設が近隣に存在しないという現実が、患者さんの回復の可能性を奪ってしまうことが少なくありません。そのような状況の中、中田さんのPEAKFORMはリハビリ難民の患者さんのよりどころになっているのです。

「施設のコンセプトとして『誰もがあなたらしい生活を送れるための地域の拠点に』を掲げ、理念は『からだは、変わる。』です。大々的な宣伝をしていないのに足を運んでくださる方が多いのは、皆さんがほんとうに深刻な状況で、自分で調べて行動している証しだと思います。実際に、足を引きずってお見えになるお客様は多いんです。地域で悶々と悩んでいる方々のお役に立てればと、対話を重視したマンツーマンのリハビリを提供しています」

リハビリの様子。マンツーマンで個別化した施術を行っている

中田さんが理学療法士としての第一歩を踏み出したのは、今から17年前のことです。病院の現場では整形外科の手術後リハビリや脳卒中のリハビリを中心に、脊髄損傷、パーキンソン病、ALS、人工関節置換術後、心不全、COPDシーオーピーディー慢性閉塞性肺疾患まんせいへいそくせいはいしっかん)など多岐にわたる疾患の患者さんと向き合ってきました。岩手県理学療法学術大会や日本脳卒中学会、日本リハビリテーション医学会などの学会で研究発表を重ねるなど、臨床と研究の世界を走り続けてきた理学療法士といえるでしょう。そんな中田さんは、理学療法士としての経験を重ねるほどに、ある矛盾が胸の中に積み上がったといいます。

「脳卒中のリハビリは、年単位で継続すればまだまだ回復が見込める場合は少なくありません。でも、病院では、発症から6ヵ月を過ぎれば退院しなければならないんです。『まだよくなる』と思っていた患者さんが、そのまま退院させられてしまう状況を何度も何度も見てきました」

退院後の受け皿がなければ、患者さんの回復の歩みはそこで止まってしまいます。体や生活の回復は、制度上の期限では区切れません。「病院勤務時代の15年間を振り返っても、満足にやりきったと思えた患者さんは少ない」と静かに語る中田さんにとって、リハビリ難民を生みつづける現実こそが、制度の外へ踏み出す決断を促したといえるでしょう。

「日本の医療・介護・福祉制度は、世界に誇れるすばらしい制度だと思います。だからこそ、そのはざまが深いんです。はざまにいるリハビリ難民と呼ばれてしまっている方々に、根拠を持ったサービスを届けられる場を、自分で作りたいと思いました」

PEAKFORMでは、科学的根拠に基づく三つのアプローチがあります。①痛み・緊張・可動域を整え、学習の土台を作るコンディショニング、②AI(人工知能)、ロボットテクノロジーを駆使したリハビリで回復を支援、③セルフトレ指導と定期再評価で、成果の維持・向上まで行う継続支援です。その中でも、特徴的なのは歩行支援ロボット「Hypershellハイパーシェル」を導入している点です。

「体幹と下肢の動きをアシストするこの装置を使うと、本来の身体機能を最大限に引き出すことができます。5分間しか歩けなかったお客様が装着後に10分間も歩けたケースも経験しています。そのほかには、脳卒中後遺症をお持ちのお客様が走る感覚を取り戻したり、パーキンソン病のすくみ足や小刻み歩行が改善してジョギングができるまで回復したりするお客様がいます」

中田さんがリハビリに導入しているHypershell。施術時間を最大化して効果を高めると話題

中田さんが強調するのは、歩行という動作の複雑さです。歩くことは、単純に筋力や柔軟性だけで成り立っているわけではありません。脳・神経・筋肉が高度に連携して初めて成立する、せいな運動です。従来のリハビリは筋力や可動域の改善を中心に組み立てられてきましたが、それだけでは十分ではないことが近年の研究で明らかになってきています。「回復のためにほんとうに重要なのは、脳と神経のプログラムを書き換える学習である」と中田さんはいいます。

「完全にロボットが動かすのではなく、自分で動こうとする力を引き出しながら必要なサポートを行うことが大切です。脳と神経が変化し適応する神経性を最大限促すうえで、通常なら3回しかできない動作が、ロボットによって5回できるようになる。この反復の積み重ねが、脳と神経の再編成を生み出します」

従来の医療ロボットの多くは、病院の中でしか使えないものでした。しかし実際の生活には、家の段差、坂道、荷物を持ちながら歩く場面など、多様な環境が存在します。病院内の平坦な廊下で歩ける練習をしても、自宅の玄関の段差でつまずいてしまう。そのギャップを埋めるものこそが、生活空間で使えるロボットです。中田さんがHypershellに大きな可能性を感じているのは、まさにその点においてです。

リハビリで大切なのは回復の可能性に気づく内観の変化なんです

講演会の様子。科学的根拠のあるリハビリの啓発に励んでいる

「私がリハビリで最もこだわるのは、機器や数値よりも、お客様の内観を変えることです。内観とは、お客様自身が自らの体をどう認識しているか、主観と客観のずれをていねいに照らし合わせながら、まだ気づいていない感覚へと近づいていく作業のことです。手が動かないという現象が起こった時、お客様自身は思うように動かないという言葉で思考が止まっていることが多くあります。どのように動かないのか、動かそうとした時になにを感じているのかを自分自身の心の内に問いつづけることで、『回復の可能性に気づく』瞬間が訪れるんです」

診断名や制度の区切りではなく、その人が今どんな生活を送っているのかを起点に体・動作・活動を丁寧に再評価している中田さん。初回のカウンセリングに特に力を注ぐという中田さんの信念は、15年の臨床経験が支えています。

「カウンセリングの際に患者さんから『そんなこと、聞かれたことがなかった』といわれる瞬間が、ほんとうにうれしいですね。変化の可能性を自分で気づいた瞬間、混乱して泣いてしまうお客様もいらっしゃいます。それは、うれしさや感動もあると思いますが、漠然とした不安の支配から少しだけ解放され、失われていた自己効力感を取り戻せた瞬間が大きいのではないでしょうか」

リハビリ難民を救うために、中田さん自身も学びを止めません。AIやロボティクスが医療に浸透していく時代において、テクノロジーを専門分野で発揮できる専門性を重視しているとのこと。この専門性こそが、これからのリハビリテーションの世界に求められると確信している中田さんの今後に期待です。

中田勇磨さんが運営されているPEAKFORMの連絡先は、
〒020-0851 岩手県盛岡市向中野8-85-1 102号  ☎050-8889-2243です。