信州大学医学部泌尿器科学教室講師 皆川 倫範
ニューラルクロストークの視点から神経の刺激で泌尿器の機能向上を研究
「トイレに行く回数が増えた」「尿の勢いが弱くなった」「トイレに行った後に尿もれがある」「急にトイレに行きたくなる」といった尿の悩みを持つ方におすすめしたいのが「青竹踏み」です。
私が専門としているのは、臓器の神経的相互作用の研究です。専門的な言葉になりますが、「ニューラルクロストーク(Neural Cross-talk)」という研究で、日本語に訳すと「臓器間神経相互作用」といったところでしょうか。ひと言で分かりやすく表現すれば、神経と臓器がどのように関連しているかという研究です。
例えば、膀胱に刺激を与えると、直腸にも刺激が伝わってしまうことがあります。結果として、膀胱の具合が悪いと、直腸も不調になりやすいことが分かっています。ほかの泌尿器でいえば、頻尿になると便秘になり、その逆も起こりやすくなるといった具合です。
ニューラルクロストークの考え方は、頻尿の治療にも密接に関わっています。頻尿の治療法の一つに、神経を刺激して膀胱などの臓器の機能改善を図る「神経変調治療」があります。改善に至るまでのしくみは完全には分かっていませんが、神経を介することで膀胱の機能を回復に導くことは間違いないようです。
専門的な話になりますが、神経は、脳から各臓器への命令系統をつかさどる遠心性神経路と、感覚を脳に伝える求心性神経路があります。さまざまな刺激が求心性神経を伝わると、その過程で遠心性神経が影響を受け、膀胱への指令を活性化させるものと考えられます。
神経変調治療では、電気や磁気、体内で電流を交差(干渉)させる干渉低周波などを使って神経を刺激します。確実に刺激を与えられるのは電気刺激ですが、装置を体内に入れたり、電極をふくらはぎに刺したりしなければならないため、体への負担が大きい治療といえるでしょう。
私は研究を積み重ねてきた経験から、電気や磁気を使わない物理的な刺激でも神経を刺激することができると考えています。神経変調治療は「神経を刺激すること」が重要なので、刺激の種類は問わないと考えています。仮説ではありますが、鍼灸治療やお灸なども有効と考えられます。
有効性を検討できる刺激の中で私が着目したのが、足裏の刺激でした。昔から伝わっているツボ療法の考えには、ニューラルクロストークの理論と通じるものがあるのではないかと考えたのです。
土踏まずを刺激したら泌尿器の機能が向上し4週間後に排尿回数が減少して排尿量が増加
足裏に刺激を与える際、「点」の刺激は痛みを強く感じやすいため、「面」をほどよく刺激する方法が望ましいと考えました。そこで選んだのが、青竹踏みで「土踏まず」を刺激する方法です。
土踏まずは、足裏の中でもふだんは刺激を受ける頻度の少ない部位です。そのため、刺激を与えることで効果が大きく期待できると考えられました。
そこで私は、青竹踏みの効果を調べるため、老人施設に入居している65歳以上の男女計22人を対象に試験を行うことにしました。具体的には、青竹踏みをするグループと、青竹を使わずにただ足踏みをするグループに分け、1回2分間の足踏みを1日2回行いました。4週間後にはそれぞれのグループを入れ替えて、さらに4週間行いました。
4週間後と8週間後に取った二つのグループのデータを分析したところ、青竹踏みをしたグループは平均排尿回数が減少し、1回の最大排尿量が増加していたことが分かりました。
この試験では、青竹踏みによって排尿障害だけでなく、便秘や冷えも改善することが確認されています。頻尿に限らず、さまざまな健康効果が期待できる青竹踏みを、ぜひ生活の中に取り入れていただきたいと思います。