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COPDなどの呼吸器疾患は慢性腎臓病と密接に関係し合併すると死亡率が上昇

糖尿病・腎臓内科

山形大学大学院医学系研究科公衆衛生学・衛生学講座助教 鈴木 奈都子

腎臓と肺は密接な関係があり、一方が機能不全に陥るともう一方が代償する

[すずき・なつこ]——2010年、山形大学医学部卒業。医学博士。山形市立病院済生館、山形大学医学部附属病院(内科学第一)勤務を経て、2021年より現職。日本腎臓学会指導医・専門医。日本透析医学会、日本リウマチ学会、日本痛風・尿酸学会、日本公衆衛生学会などに所属。

腎臓(じんぞう)と肺は、体内の横隔膜(おうかくまく)で区切られた上下別々に位置し、共通点が乏しい印象があります。ところが、腎臓と肺は互いに協力し、重要な働きを担っていることが分かってきたのです。実際に、腎臓と肺のどちらか一方の臓器が機能不全に陥った場合、もう一方の臓器が機能を代償しようとすることが古くから知られていました。

腎臓専門医として私が患者さんと接する中でも、COPD(シーオーピーディー)慢性閉塞性肺疾患(まんせいへいそくせいはいしっかん))を合併している患者さんが一定数いることは事実でした。そこで、私は慢性腎臓病とCOPDの合併について研究を行うことにしたのです。

COPDはかつて「肺気腫(はいきしゅ)」や「慢性気管支炎」と呼ばれていましたが、現在は「COPD」と総称されるようになりました。タバコの煙などの有害物質を長期間にわたって吸入することで生じる肺の炎症性疾患で、喫煙習慣のある中高年に発症する生活習慣病といえます。

COPDが慢性腎臓病の悪化要因であることは、すでにいくつかの研究で明らかになっています。私は、COPDや慢性腎臓病の治療を受けておらず、体調が悪くないと考えている人を対象にしても肺疾患と慢性腎臓病の関係があるかどうかを調べることにしました。

私たちの研究グループは、山形県高畠町(たかはたまち)で健康診断に参加した40歳以上の1233人を対象として、10年にわたって調査をしました。慢性腎臓病の指標としては、クレアチニンの数値から算出されるeGFR(cr)だけではなく、シスタチンCの数値から算出されるeGFR(cys)を参考としました。

クレアチニンとシスタチンCは、どちらも体の中で生まれる老廃物です。本来は腎臓で排出されるべき毒素であるため、腎臓の機能が低下しているかどうかを示す指標になります。一般的によく使用されるのがクレアチニンで、筋肉の細胞から生まれる老廃物です。

一方のシスタチンCは、全身の細胞で生じる老廃物です。腎機能低下の初期段階で数値に変化が現れ、クレアチニンよりも鋭敏にごく初期の慢性腎臓病を見つけ出すことが可能です。ただ、慢性腎臓病がある程度進行するとシスタチンCの数値は頭打ちになってしまいます。また、薬や併発している病気によっても数値が左右されてしまうことがあります。そのため、進行した慢性腎臓病を対象とした場合は、クレアチニン値が使用されることが多いのです。

クレアチニン値の大きな弱点として、筋肉量に影響を受けてしまう点があります。筋肉の老廃物であるクレアチニンは、筋肉の量が少なければ数値が小さくなりがちです。高齢者やCOPD患者さんの中には筋肉量が減少している方が少なくないため、クレアチニン値は問題ないものの、実際には腎機能が低下している〝隠れ腎臓病〟の患者さんが一定数いると考えられます。そこで、クレアチニンとシスタチンCの二つの指標を併用することで、隠れ腎臓病の患者さんも見逃さないですむのではないかと考えました。

一方、COPDの指標については、診断には一度病院で精密な検査を受ける必要があるため、健康診断の前に対象者に検査をお願いするのは現実的ではありませんでした。そのため、私たちは呼吸機能の基準として「気流制限(息の吐きづらさ)」の程度を測定し、数値の低い状態をCOPDの指標としました。

腎機能と呼吸機能が同時に低下すると問題のない群に比べて死亡率が約3倍上昇

対象者を10年にわたって調査したところ、eGFR(cr)とeGFR(cys)の数値が悪い人はそれぞれ9.6%、17.2%でした。一方、気流制限で問題のある人は11.1%でした。

気流制限の有無によるeGFRを調べたところ、eGFR(cr)では影響がなかったものの、eGFR(cys)では気流制限のある人は数値が悪い傾向にあることが判明しました。これは、慢性腎臓病のごく初期の段階では、COPDなどの呼吸疾患が合併すると数値に悪影響が出る可能性があることを示しています。

さらに、慢性腎臓病と気流制限の重症度の関連について調べました。気流制限が重症になると、eGFR(cr)とeGFR(cys)ともに数値が悪化することが分かりました。

eGFR(cys)と気流制限の数値を分析し、死亡率にどれほど影響を及ぼすかについても調査しました。eGFR(cys)と気流制限の数値がどちらも異常がないグループを基準とした場合、eGFR(cys)にのみ異常のあるグループは1.45倍、気流制限にのみ異常のあるグループは1.29倍、eGFR(cys)と気流制限の両方に異常のあるグループでは、なんと2.94倍も死亡率が高いことが明らかになったのです。

まだ慢性腎臓病やCOPDと診断されていない人が対象の調査だったにもかかわらず、腎機能の数値や気流制限の状態によって死亡率が約三倍も変化するという点は、専門医である私もとても驚く結果でした。慢性腎臓病やCOPDと診断された患者さんは、もう一方の疾患が発症していないかどうかを確認することを強くおすすめします。

なぜCOPDと慢性腎臓病が合併しやすいのかについてはまだ研究が進んでいない部分が多いものの、「炎症」が深く関わっていると推測されています。近年の研究で、COPDが肺だけではなく、全身で炎症を引き起こす全身疾患であるといわれるようになりました。COPDによって腎臓の毛細血管で炎症が起こり、腎機能が低下するのではないかと考えられているのです。腎機能を維持するためには、COPDの予防も不可欠といえるでしょう。

最後に、COPDの最大の原因とされている喫煙は、慢性腎臓病の原因としても知られています。両疾患の発症・進行を防ぐためにも、まずは禁煙に取り組むことから始めましょう。