柑橘類大国・愛媛県が誇る〝温州ミカン〟の果皮で花粉症が軽減!
産業廃棄物の果皮でアレルギー症状が改善
「愛媛といえば、ミカン」と全国的に知られるほど、愛媛県では多くの柑橘類が生産されています。温州ミカンをはじめ、伊予柑、ポンカン、甘平など、柑橘類の種類は40種類以上に及びます。柑橘類全体で見ると、愛媛県は40年間にわたって生産量日本一を誇る柑橘類大国なのです。
愛媛県では、年間4万㌧の柑橘類が搾汁され、果皮や砂じょう(ツブツブの果肉)などの搾りかすが2万㌧も作り出されています。ミカンの果皮などの搾りかすの一部は、乾燥後に家畜飼料や肥料として再利用されています。しかし、柑橘類の搾りかすの大部分は産業廃棄物として処分されていたのです。
柑橘類に含まれる有効成分は、果肉よりも果皮に多く含まれていることが知られています。私は柑橘類の搾りかすを有効活用できないかと考え、温州ミカンをはじめとする柑橘類の有効成分に関する研究を始めました。
私たちの研究グループは、スギ花粉症のモデルマウスに対して、温州ミカンの果皮とアレルギー症状の抑制が期待できるヨーグルトの効果に関する実験を行いました。その結果、温州ミカンの果皮とヨーグルトを同時に投与したところ、くしゃみの回数が顕著に抑制されることが明らかになったのです。
花粉症や食物アレルギーといったアレルギー症状を引き起こす免疫細胞の1つにマスト細胞(肥満細胞)があります。マスト細胞が活性化すると、ヒスタミンなどの炎症物質を含んだ細胞内の顆粒(分泌物質を含んでいるカプセルのような小体)が細胞外に放出されます。この細胞内の顆粒が細胞外に放出されることを脱顆粒反応と呼び、アレルギー症状を引き起こす原因として知られています。
温州ミカンの果皮に含まれるノビレチン(フラボノイドの一種)には、脱顆粒反応を抑制する効果があることが確認されています。また、ヨーグルトにはβ‐ラクトグロブリン(乳清たんぱく質)や乳酸菌が含まれていて、血中のIgE(免疫グロブリンの一種)濃度を抑える効果が期待できるのです。
スギ花粉症モデルマウスを用いた実験に続き、26人の花粉症患者を対象に、150㍉㍑の温州ミカン果皮配合ヨーグルトを2週間毎日摂取してもらい、目の症状に対する効果を検討しました。その結果、アレルゲン(抗体と特異的に反応する抗原)で起こる結膜炎や腫れなどの、花粉症の症状に改善が認められたのです。
現在、温州ミカン果皮配合ヨーグルトは製品化され、愛媛県内はもとより首都圏などでも販売されています。
年間6000㌧も廃棄されていたハマチの内臓に免疫を促進する働きがあると判明
ハマチの心臓は加熱すると抗体産生が増加
愛媛県の沿岸部は瀬戸内海と宇和海に面し、特に宇和海沿岸においてはリアス式海岸を利用したハマチの養殖が盛んに行われています。その一方で、愛媛県の加工場からは年間6000㌧ものハマチの内臓が廃棄されています。私は、ハマチの内臓に付加価値を見いだして有効活用できないかと考え、ハマチの内臓の機能性に関する研究を始めました。
細胞培養液にハマチの心臓抽出物を加えて培養した後、病原体を処理したり毒素を中和したりする抗体の産生量を測定しました。その結果、ハマチの心臓抽出物を加えていない対照区と比較した結果、ハマチの心臓抽出物を加えた試験区のほうが抗体の産生量が多いことが判明。さらに、ハマチの心臓抽出物を加熱処理して比較すると、非加熱の場合よりも抗体の産生量が顕著に増えていることが確認できたのです。
また、ハマチの心臓加熱抽出物を20日間連続でマウスに経口投与した結果、血液中のIgAとIgMといった抗体の濃度が有意に上昇することが確認されました。ハマチの心臓抽出物をとることでIgAやIgMといった抗体の産生が上昇し、免疫力が活性化することがわかったのです。
その後、ハマチの心臓加熱抽出物の商品化に成功。愛媛県宇和島市の産直市場では、から揚げやマリネに加工され、販売されています。
産業廃棄物の有効活用による付加価値の創造は、地域産業の活性化のために重要な課題といえます。今後も地域の特産品の機能性に関する研究を続けることが、産業振興の一助になればと願っています。