腎臓の造血機能低下の原因は高血圧で腎臓の細胞が酸素不足に陥り腎臓病と貧血が増悪
慢性腎臓病が進行すると、最終的には腎不全に至ります。1330万人と推計される慢性腎臓病患者さんのうち、33万人以上が人工透析を受けています。人工透析を10年以上続けている人は約9万人、20年以上続けている人は約3万人といわれています。
末期の腎不全では、週2~3回程度の人工透析を生涯受けつづけるか、腎臓移植をしなければ、生命を維持することはできません。人工透析による治療は、患者さんご本人はもちろん、ご家族にとっても大きな負担になり、生活の質(QOL)を大きく損なわせます。
人工透析治療では、腎臓の代わりに、機器によって血液を浄化します。透析を受ける前の慢性腎臓病の患者さんは、減塩や低たんぱくといった腎臓病の食事療法に加えて、腎臓の負担を減らす生活習慣を心がけましょう。具体的には、高血糖は腎機能低下の重大原因で腎機能を守るには糖化産物AGEをためないことが大切の記事で解説した高血糖を避けることの他、高血圧や血流の悪化を防ぐことが挙げられます。
高血圧によって高い圧力がかけられた血管では、内側を覆う血管内皮細胞が傷害され、全身で動脈硬化(血管の老化)が進みます。すると、心不全や心筋梗塞などの心血管疾患や、脳梗塞や脳出血などの脳血管疾患といった重篤な病気が引き起こされるおそれが高まるのです。
血管の中でも、特に高血圧の影響を受けやすいのが毛細血管です。毛細血管の塊といえる腎臓内の糸球体も例外ではありません。
動脈硬化の進行に伴って一部の糸球体の機能が低下すると、正常な糸球体に過剰な負担がかかるようになります。過剰な負担がかかった糸球体は障害が進み、さらにろ過機能が低下するという悪循環に陥ります。この悪循環によって、慢性腎臓病が進行してしまうのです。
一方で、慢性腎臓病そのものが高血圧の引き金にもなります。そのしくみの1つとして、腎臓が持つ造血機能の働きから解説しましょう。
腎臓が担っている働きは、血液のろ過機能だけではありません。腎臓は私たちの体にとって欠かせない多くのホルモンを分泌する臓器でもあります。腎臓が分泌するホルモンの1つに、エリスロポエチンがあります。
エリスロポエチンは「造血ホルモン」とも呼ばれ、骨髄を刺激して赤血球を作り出す働きがあります。血液中に含まれる血球(血液細胞)には赤血球の他、白血球や血小板があります。血球の約95%を占める赤血球は、エリスロポエチンの働きによって作られているのです。
慢性腎臓病が進行して腎機能が低下すると、腎臓から分泌されるエリスロポエチンの量が減少します。その結果、赤血球を作り出す骨髄の造血能力も低下してしまいます。
赤血球は、数10兆個も存在するといわれる全身の細胞に酸素を送る役割を果たしています。細胞は酸素をエネルギーにして活動しているため、腎臓はもちろん、全身の細胞を正しく活動させるには、酸素の存在が欠かせません。酸素と結びつく赤血球の数が減少すると、細胞に十分な酸素が行き渡らなくなってしまうのです。
慢性腎臓病の患者さんの中に貧血に悩まされる人が多いのは、赤血球の減少によって脳の細胞が酸素不足に陥っているからと考えられます。腎機能の低下が原因で起こる貧血を腎性貧血といいます。
酸素不足に陥った体は、高い圧をかけて全身により多くの血液を送り届けようとします。高血圧の状態が続いて動脈硬化が進むと、細い血管の集まりである腎臓に負担がかかって、さらに機能が低下するといった悪循環に陥ってしまいます。
高血圧は慢性腎臓病の原因となる一方で、慢性腎臓病も高血圧の原因になります。慢性腎臓病と高血圧は密接な相関関係にあるのです。
慢性腎臓病では貧血の悪化だけでなく血圧や悪玉コレステロールを管理するのも大切
エリスロポエチンの分泌量が減少して造血能力が低下すると、赤血球の数が減少するだけでなく、赤血球の質も劣化します。正常な赤血球は「変形能」と呼ばれる能力を備えています。赤血球の変形能とは、直径約8㍈の赤血球が、直径約6㍈しかない毛細血管に入るためにみずからの形を変える能力のことです。
ところが、劣化した赤血球は柔軟性を失い、変形能が低下します。みずからの大きさよりも細い毛細血管の中に入っていけなくなるので、末端の細胞に酸素を届けられなくなります。腎臓に張り巡らされた毛細血管への酸素の供給がとだえると、腎機能の低下に拍車がかかってしまうのです。
慢性腎臓病の発症と悪化を防ぐには、クレアチニン値や尿素窒素といった腎機能を示す数値に気を配るだけでなく、血圧を日常的に確認しておくことが大切です。高血圧を指摘されたら、医師と相談して原因を探り、治療に取り組んでください。動脈硬化の指標となる中性脂肪やコレステロールの数値、肥満度などにも注意が必要です。腎機能の造血作用や赤血球の柔軟性を保持し、血流改善による好循環を維持することで、血液の浄化に努めましょう。