高血糖によって生じる終末糖化産物AGEが血管の老化を速めて腎臓のろ過機能も低下
腎機能の低下を防ぐために大切なのは、血糖値、血圧、コレステロールの管理です。血管や血液の状態を良好にしておくことで、腎臓への負担を減らすことができます。具体的には、高血糖、高血圧、高LDLコレステロール血症を防ぎ、動脈硬化(血管の老化)を予防する生活習慣を身につけることが大切です。
高血糖は、慢性腎臓病を引き起こす主要な原因の一つです。高血糖が続いて〝砂糖漬け〟の状態になった血管は、内側の細胞(血管内皮細胞)が傷んでいきます。毛細血管で構成されている腎臓の糸球体も高血糖によって劣化し、本来の役割である血液のろ過機能に支障が現れるようになるのです。
高血糖に伴って腎機能が低下した状態を糖尿病腎症といいます。糖尿病腎症は現在、新たな人工透析導入の第1位の原因となる疾患です。
糖尿病腎症の発症には、高血糖によって生じるAGE(終末糖化産物)と呼ばれる物質が深く関わっています。AGEとは、糖とたんぱく質が結合してできる悪玉物質です。血液中の過剰な糖はたんぱく質と結びついて変質を繰り返し、最終的に強い毒性を持つAGEとなるのです。
AGEが血管に蓄積すると、血管は弾力性を失い、動脈硬化が進みます。細い血管ほどAGEの影響を受けやすいため、毛細血管の塊である腎臓の糸球体は、AGEの悪影響を受けやすい器官といえます。
糸球体には、尿をこすフィルターの役割を果たす基底膜という組織があります。基底膜がAGEの毒性によって厚く硬くなると、糸球体が劣化するため、血液のろ過機能が一段と低下してしまうのです。
炭水化物の多い偏った食事や、菓子や清涼飲料水の過剰摂取は、高血糖の原因になります。大食いや早食いも血糖値を急激に上昇させてしまいます。食事はしっかり噛みながら、ゆっくりとることが大切です。
高血糖の他に慢性腎臓病を進行させる要因として、腸内環境の悪化が挙げられます。人間の腸内には数百兆個もの細菌がすみついているといわれています。腸内細菌は善玉菌、悪玉菌、そして両者の強いほうに味方をする日和見菌の3種類に分けることができ、腸内では常に主導権争いをしています。
善玉菌が優勢であれば、腸内環境は良好に保たれます。しかし、偏った食生活や便秘などが原因で悪玉菌が優勢になると、体に悪影響を及ぼす物質が作られます。問題なのは、悪玉菌によって作り出される有害物質が、腎臓にも悪影響を及ぼすことです。有害物質の一つに、インドキシル硫酸があります。
腸内環境の悪化も腎機能低下の原因で食物繊維と発酵食品の摂取が改善に役立つ
食べ物に含まれるたんぱく質は、腸管内で分解されてアミノ酸になります。腸内環境が悪化して優勢になった悪玉菌が、必須アミノ酸(体内で合成できないアミノ酸)の一つであるトリプトファンを分解すると、インドールという有害物質が作られます。腸で吸収されたインドールは、血液によって肝臓に届けられ、インドキシル硫酸に変化して腎臓にたどりつきます。
健康な腎臓であれば、インドキシル硫酸を問題なく排泄することができます。ところが、腎機能が低下すると、排泄できなかったインドキシル硫酸は腎臓に蓄積していきます。その結果、蓄積したインドキシル硫酸が活性酸素(酸化作用の強い物質)や炎症物質を作り出して腎臓を傷つけ、腎機能をさらに低下させてしまうのです。
腸内環境と腎機能の密接な関係は、医学的に「腸腎連関」といいます。高血糖を防ぐだけでなく、腸内環境を良好に保つことが、腎機能を守ることにつながるのです。
腸腎連関の考え方から生まれた治療薬が球形吸着炭です。球形吸着炭の原料の炭は腸内の有害物質を吸着し、便といっしょに排泄する働きがあります。球形吸着炭は、慢性腎臓病がある程度進行した患者さんにしか処方されません。球形吸着炭が処方されない病期の患者さんは、食生活で腸内環境を整えることが大切です。
腸内環境を改善するためにとりたいのが食物繊維です。食物繊維を多く含む食べ物として、野菜や果物、海藻類が挙げられますが、どの食品もカリウムを多く含んでいます。腎機能が低下している場合、カリウムを十分に排泄できなくなり、血液中のカリウム濃度が異常に高くなって心停止を起こすことがあります。
カリウムの含有量が多い野菜は、ゆでてから食べることが重要です。ゆでることにより、野菜に含まれるカリウムがゆで汁に溶け出します。ゆで汁は飲んだり調理に使用したりせずに必ず捨ててください。
カリウムの含有量が少ないマイタケなどのキノコ類は、意識してとるようにしましょう。海藻類では、モズクやトコロテン、寒天が、カリウムの含有量が少ない食品です。
さらに、善玉菌のエサになる発酵食品をとることで、腸内環境を良好な状態に導くことができます。カリウムの含有量に注意しながら、制限されている範囲内で納豆やみそを食事に取り入れるとよいでしょう。