プレゼント

最も健やかで楽しくいられる方法を知っているのは自分だけです

私の元気の秘訣

俳優 髙嶋 政宏さん

ドラマや映画、舞台にバラエティと、(はち)(めん)(ろっ)()の活躍を見せる俳優の髙嶋政宏さん。その多忙な生活を支えているのは、毎日のトレーニングと健康管理、そしてストレス発散につながる多彩な趣味です。常にエネルギッシュでお茶の間を明るくしてくれる髙嶋さんに、元気の秘訣をお聞きしました——。

コロナ禍の生活の中で試行錯誤した結果、よい習慣ができました

[たかしま・まさひろ]——1965年、東京都生まれ。1987年、映画『トットチャンネル』で俳優デビュー。同作および映画『BU・SU』での演技により、第11回日本アカデミー賞新人俳優賞、第30回ブルーリボン賞新人賞、第61回キネマ旬報新人男優賞などを受賞。以降、テレビ・映画・舞台と幅広いジャンルで活躍。近年では、バラエティ番組にも多数出演し、新しいフィールドを開拓している。

役者というのは体が資本ですから、健康管理や体力維持を怠ることはできません。でも、新型コロナウイルスの感染リスクを考えれば、あまり頻繁にジムに通うのもはばかられますよね。私も、できるだけ外出を控えるようにしていました。

ところがある日、()()上がりに鏡に映った自分の体を見て、(がく)(ぜん)としたんです。全身をうっすらと余計な脂肪が覆い、あちこちが急速にたるみはじめていたからです。「これではいけない!」と危機感を覚えました。

しかし、新型コロナウイルス感染症の猛威はまだまだ収まりそうもなく、どうすればいいのかとずっと考えつづけたところ、最近になって一つの答えに到達しました。それが、私がいま実践している朝のルーティン(習慣)です。

起床後、まずは体組成計に乗って体重や筋肉の量などを測定します。さらに、体温と血圧を測ってその日のコンディションを確認します。特に異変がなければ、コーヒーを飲みながらバナナを一本食べてエネルギーを蓄え、アミノ酸などのサプリメントをとり、筋力トレーニングを行います。足や胸、背筋、腹筋と、それぞれの部位を30分以上かけて鍛えるんです。

ちなみに、トレーニングには特別な器具などを使わないのがポイントです。そうすれば映画などの撮影が始まって、ロケ先に何週間も泊まらなければならないときでも、同じ習慣を維持することができます。

トレーニングが終わったら、オートミールに八丁みそと豆乳、卵を混ぜたものを朝食代わりにいただきます。こうして良質のたんぱく質と食物繊維をたっぷりとることで、トレーニングの効果はさらに高まります。

この習慣を続けるようになって半年以上になりますが、体調はすこぶるいいですし、何よりボディラインがぐっと引き締まっていくのを実感しています。

日常の健康管理にもかなり気を遣っていて、例えば水分補給もその一つです。55歳の私が一日に必要とする水分量は約2.5㍑とされていますが、私はこれをミネラルウォーターだけで摂取するよう心がけています。お茶やコーヒーは水分量の計算には含みません。これで、脱水状態になることがなく、血液をサラサラに保つことができます。

「自分に合った健康法を見つけてからは体調がいいんです」

私がトレーニングや健康管理に理論的な裏づけを求めるようになったのは、何事もやり方を間違えると逆効果になってしまうことを知ったからです。例えば、やみくもに筋肉量を増やそうとするばかりでは体の柔軟性が失われてしまい、かえってケガの原因になります。昔から体を鍛えるのは好きでしたが、俳優としてデビューして最初の10年、頻繁にケガに悩まされていたのは、いまになってみるとそれが原因だったのだと思います。

また、毎日必ず自分の体を鏡で見ることや、体重計に乗ることも重要です。それは自分の体の変化に敏感であることと同義で、例えば「太ったなあ」と反省する機会が多いほど、飲んだ後についラーメンを食べてしまうようなことも減るはずです。

特に私の場合は料理も趣味の一つなので、好きなものを好きなだけ作って食べることができてしまいますから、自分の体の変化を見張っていなければならないんです。

ところで、私は、ビールから始まり、酎ハイや日本酒など、その時々に体が欲しているお酒を毎晩いただいています。これはコロナ()で飲み歩けなくなったいまも変わることはなく、映画や舞台などがあっても、ホテルの自室でひとり酒を楽しむのが毎晩の日課になっています。

体調管理の点からいえば、お酒は控えめにしたほうがいいのでしょう。でも、こればかりはリフレッシュの意味でもやめられないのが本音です。そのため、一時期、尿酸値が高くなってしまい、慌てて酒量を減らしたこともありました。

しかし、見方を変えれば、これも健康診断などでまめに自分の健康状態をチェックしていたからこそ、早めに手を打つことができたのだといえるでしょう。おかげでいまはまた、健康に気をつけながらお酒を楽しむことができています。

自分の体質に合った理想的な健康管理を行う必要があります

たまに足の一部に鋭い痛みを感じると、私はすぐに知り合いの医師に症状を伝えて相談するようにしています。「もしかして痛風でしょうか?」と。すると、「大丈夫。部位が違うのでそれは単なる()(ぼく)でしょう」といわれてホッと胸をなでおろす——その繰り返しです。

いちばんいけないのは、自分の体に()(とん)(ちゃく)になってしまうことです。多少の痛みやだるさでも目をつむって放置してしまうと、気がついたときには取り返しのつかないことになっているかもしれません。尿酸値や血圧のように数字で分かるものは、できるだけまめに計測しておくべきでしょう。

どれだけ食生活に気をつけていても、加齢とともに代謝や栄養の吸収効率はどうしても低下しますから、年齢に見合ったケアを考えなければならないわけです。

「『醉いどれ天使』のオファーをいただいたときは、あまりの感激に震えました」

先ほど、私が最近実行している健康法をご紹介しましたが、朝に筋トレを行うことが誰にとっても最適なルーティンであるとは限りません。体の作りや体質、運動経験は人それぞれ異なりますから、個々の状態に合わせたコンディショニング法を行う必要があります。問題はその、自分の体に合った方法をいかに早く見つけるかということです。

もう20年以上も前の話ですが、ロシア出身の(ゆう)()アルバチャコフというボクサーが日本にやって来たとき、印象的なことがありました。彼は減量中にバターを食べるというのです。

もし日本のボクサーたちが、胃腸が弱っている減量の最中に同じことをすれば、胃もたれを起こすなどしてコンディションをくずしてしまうのではないでしょうか。しかし、幼い頃から動物性の乳製品に慣れ親しんできた勇利選手にとっては、バターこそが少量で高エネルギーを得ることができる、理想的な減量食だったわけです。それぞれに合った調整法を見つけるとは、例えば、そういうことなのです。

また、体の柔軟性は加齢とともに失われますから、年齢に応じたトレーニング法、あるいはコンディショニング法を見つけて柔軟性を維持するのも大切なことです。長らく運動から遠ざかっている高齢者の方であれば、まずは無理のないストレッチで体をほぐしたり、ゆっくりと最初は5分でもいいので歩いたりすることから始めるべきでしょう。

私のように毎日2.5㍑の水分摂取を義務化していると、かえっておなかを下してしまう人だっているかもしれません。時間はかかるかもしれませんが、自分にとっての適量をぜひ探してみてください。ただ、こまめに、決して一気飲みしないように。水中毒になりますから!

舞台の仕事というのは、役者の替えが簡単に利くものではありません。けいこを重ねて作品を仕上げていく過程で、仮に私が転んで足を骨折したとしても、急に穴をあけることなどできませんから、折れた足で舞台に立つしかないんです。だからこそ、日頃から心身の自己管理には、細心の注意を払う必要があります。

また、私には、食べ歩きやロックミュージックなど、いくつかの趣味がありますが、それらは皆、日々の大切なストレス発散になっています。リフレッシュのためのこうした趣味は、今後もまだまだ増えていくでしょう。

祖父の形見である薩摩琵琶を弾くのがいまから楽しみです

「楽しく生きていける趣味を大切にしながら、できるだけ笑って毎日を過ごしたいですね」

最近、挑戦しようと思っているのは(さつ)()()()の演奏です。これはもともと祖父の趣味だったので、貴重な薩摩琵琶がわが家にいまでも保管されているんです。せっかくだから、いつか弾けるようになりたいと思っているんですよ。

ちなみにこの薩摩琵琶、いまはただ部屋の片隅に飾ってあるだけなのですが、さも私に弾いてほしそうに、勝手に音が鳴ることがあるんです。

そのことに最初に気づいたのは、NHKのスタジオでした。祖父の形見の薩摩琵琶を持ってきてほしいといわれてスタジオに持ち込んだところ、放送中、誰も触っていないのに琵琶から〝ピーン〟と音が鳴ったんです。スタジオ中が騒然としましたね。

また、私が出先から自宅の妻へ電話をしているときに、電話口から〝ピーン〟という音色が聞こえてきたこともありました。「いま勝手に鳴ったんだけど、どういうこと!?」と彼女も大慌てでした。

なにやらオカルトめいた、気味の悪い話だと思われるかもしれませんが、私としては別に嫌な感じはしていません。おそらく薩摩琵琶自身が、早く弾いてくれとせがんでいるのだと思いますし、私もその日が来るのを楽しみにしているんです。

まとまった時間が取れるようになったら薩摩琵琶を弾く修業をきちんと一からやって、いつか、存分に祖父の形見の琵琶を弾いてやりたいと思っています。

私もはや55歳になりましたが、そうした健康管理の(たま)(もの)か、いまも好きな仕事をたくさんこなすことができています。

『醉いどれ天使』は私にとって不思議なご縁を感じる作品なんです

『醉いどれ天使』
原作:黒澤 明、植草圭之助
脚本:蓬莱竜太 演出:三池崇史
出演:桐谷健太、高橋克典、佐々木 希、
田畑智子、篠田麻里子、髙嶋政宏 他

近々、『()いどれ(てん)使()』という舞台に出演する予定です。タイトルでお気づきの方も多いかと思いますが、これはもともと、監督が(くろ)(さわ)(あきら)さん、主演は()(ふね)(とし)(ろう)さんと()(むら)(たかし)さんで制作された、同名の映画がベースになっています。

黒澤さんと三船さんはどちらも私が最も崇拝している人たちであり、その名作映画『醉いどれ天使』についても、ビデオが()り切れるくらい何度も繰り返し見ていたんです。ですから、このオファーをいただいた瞬間、あまりの感激に思わず体が震えました。

実は、NHKのBSで今春放映された『(ゆう)さんの(にょう)(ぼう)』という、(いし)(はら)(ゆう)()(ろう)さんの夫人・まき子さんの話をもとにしたドラマで、私は三船敏郎さんの役を演じさせていただいたばかりだったんです。私にとってはなんだか不思議なご縁が重なった作品であり、これから始まるけいこに向けて、あらためて気持ちが引き締まる思いでいます。

日々、年齢を重ねていく中では、体の衰えを感じたり、病気がちになったり、気分がめいることも多いでしょう。私もそうですが、一定の年齢を超えた人間は、体の機能を維持していくことが難しくなります。

だからこそ、体調の変化に目を配り、楽しく生きていける趣味を大切にしながら、できるだけ笑って毎日を過ごしたいものです。そして、自分が最も健やかで楽しくいられる方法を知っているのは自分だけなのだということを自覚するべきでしょう。

願わくば、自分の心身に合った健康法やリフレッシュ法を探すプロセスもまた、楽しんでいただきたいですね。