株式会社CHIMJUN代表 岡城 良太さん
10代で美容業界に入り異動を命じられた沖縄県で起業を決意
ヘアカラーやパーマをする際には、専用の薬剤を使用します。さまざまな薬剤が頭皮や髪に付着したままになることを「残留薬剤」といい、頭皮の炎症や乾燥などの頭皮トラブルを引き起こす要因となっています。そのほかにも、髪にツヤやコシがなくなったり、切れ毛や枝毛が増えたりすることもあるのです。
残留薬剤を取り除くことに着目したヘアケア製品の開発をしているのが、沖縄県でサロンを運営する株式会社CHIMJUN代表の岡城良太さんです。
「私が美容の世界に入りたいと思ったのは17歳の時です。たまたまチラシを見て訪れた美容室の女性美容師さんがきっかけでした。髪を切ってもらった3日後に、便せん3枚にもわたるお礼状が届いたんです。驚くと同時に、お客さんと真剣に向き合う姿勢がカッコいいと感激しました」
高校卒業後は美容師の専門学校へ行きたいと親御さんに告げたところ、「行ってもいいが、親に行かせてもらうことを忘れるな」といわれて独立心が芽生えたという岡城さん。
当時は、両親が営む飲食店の後を継ぎたくないという反発心もあったといいます。高校卒業後、生まれ育った岡山県を離れて大阪府のサロンに就職。美容師の道が開けたかと思いきや、半年後に勤務先のサロンが倒産してしまったそうです。
「給料の未払いもあったので、警備員のアルバイトをしながら岡山に帰らずに大阪で暮らしていました。美容師を目指すきっかけを作ってくれた女性美容師さんに相談すると、『東京にお店を出すことになった』といわれたんです。『それなら自分も東京に行きます』と追いかけるように上京して、彼女のお店で働かせてもらいました」
働きながら通信教育で資格を取得した岡城さん。アシスタント時代から月200万円を売り上げる活躍が評価され、21歳の若さでサロンの店長に抜擢されたのです。
「サロンでの人間関係には苦労しましたが、認めてもらうには、どのサロンよりも圧倒的に売り上げを出すしかありません。当時は毎日、寝ずに働いていたと思います。仕事はもちろん、休日には趣味のサーフィンに真剣に取り組むなど、ハードな毎日を送っていました」
体に限界が訪れた25歳の時に、岡城さんは椎間板ヘルニアを発症。美容師として現場に立つのが難しくなったことから、空いた時間を使って経営やマーケティングを学び、異業種の人脈を広げていったそうです。
そんな状況の中、岡城さんに告げられたのが突然の異動。美容サロンのオーナーとの間に溝が生まれていた岡城さんは、売上が伸び悩んでいた沖縄県にある関連会社の代表に任命されたといいます。「万年赤字の店舗を黒字にせよ」という難題を押し付けられ、後に解雇されてしまったそうです。
「当時、私は29歳。結婚していただけでなく、子どもも幼かったので途方に暮れました。でも、岡山や東京に戻ろうとは思いませんでした。地域密着のよさと難しさを気づかせてもらった沖縄に貢献したいという思いが芽生えていたので、沖縄に残って起業することにしたんです」
予約したお客さんだけでなく、スタッフも勤務時間どおりに来ないなど、沖縄県民特有の「ウチナータイム」に悩まされることもあったという岡城さん。小さな苦労はあったものの、お客様ファーストのサービスが評判を呼び、岡城さんのサロンは顧客リピート率90%以上の人気店へと成長。その根幹には、「あったらいいなではなく、お客様にとって〝なくてはならない〟サロンでありたい」という強い思いがあったといいます。
お客さんと美容師の健康を守るために薬剤ケアの大切さを提唱
お客様ファーストの姿勢を貫くうえで、岡城さんが「しなくてはいけないこと」として取り組んだのが、オリジナルの残留薬液除去剤「ケミナチュラ」の開発でした。
「ヘアカラーやパーマをかけた後の処理で髪の毛が傷まないようにする残留薬剤の除去は、お客様の髪を守るためにとても大切なことです。とはいえ、美容業界ではまだまだ浸透していないのが実情。だからこそ、残留薬剤の除去の大切さを伝える啓発活動に取り組むべきと思いました」
サロンのオープン当初から、残留薬剤の除去の必要性を訴えてきた岡城さん。自社で開発するまでは、ほかのメーカーの処理剤を2~3種類組み合わせて、試行錯誤を重ねながら使っていたと振り返ります。
「最初に開発を進めたのが、シャンプーやトリートメントなどのヘアケア製品です。開発の過程で、ほんとうに欲しい効果が得られないことを強く感じるようになり、処理剤自体も自分たちで作るべきだと考えるようになりました。お客様がきれいになっていただくためとはいえ、強い薬液を使うと、お客様だけでなく、私たち美容師も健康を損なってしまうおそれがあるからです。私はこれまで、薬剤が肌に合わないお客様や手荒れで悩む多くの美容師を見てきました。その場限りの美しさでなく、5年後、10年後も健康でいつづけるために、残留薬剤の除去を中心とした薬剤ケアを美容業界の新しい文化として定着させたいと思っています」
「原価を考えると思考が止まる!」。岡城式のコンセプトで新製品が誕生
岡城さんが開発した薬液除去剤のケミナチュラとプレミアムシャンプーに配合されている特筆すべき成分として「ヘマチン」があります。髪にハリ・コシ・ツヤを与えてボリュームを促す働きがあるヘマチンには抗酸化作用もあり、髪の老化を防ぐ働きがあるとされています。
「成分単体で結果が出るわけではなく、配合量や組み合わせによって優れた効果が生まれます。プレミアムシャンプーと薬液除去剤には、髪を柔らかくして成長を促進させる効果がある沖縄県産のシークヮーサー果皮油のほか、パサつきや枝毛などのトラブルを改善できるセラミドなどの成分が含まれています。ヘマチンを中心とした相乗効果で頭皮環境を整えていきますが、ヘマチンは他社製品の3倍以上配合しているので、高い効果が期待できます」
新製品を開発するにあたり、岡城さんは担当研究者に「原価は無視してください」と伝えているといいます。
「原価を考えず、最高の品質と思う製品を開発してほしいんです。原価から逆算して開発を始めると、思考がブロックされてしまいます。研究者の方たちからは『そのような言葉をかけていただいたのは初めてです』とよくいわれます(笑)」
「サロンでの美しさが自宅でも続く」を実現するために開発したのが、『CHIMJUNヘアケアシリーズ』です。サロンに来られるお客様から『きれいになれるのは今日だけね』といわれることも多いのですが、家でも美しくいたいと思われるのは当然の気持ちです。私たちの製品は、サロンでしかできないスペシャルケアと、家でできるデイリーケアの両方をかなえられるようにしています」
チムジュンには「紡ぐ」という意味があるそうですが、「ちむ」には「心」という意味もあると岡城さんは話します。
「私の造語ですが、チムジュンには『心を持って矛盾をなくす』という思いも込めています。きれいになっても健康を損ねては意味がありません。自己矛盾がない仕事をし、サービスを提供することを大切にしたいと思っています。ヘアケアをはじめとする製品を選ぶ際の基準として『自分のお子さんなど、最も愛する人に使えるかどうか』を分かりやすい基準として提案しています」
順風満帆に見える岡城さんですが、経営方針の食い違いから、店長が3人同時に退職してしまったこともあったそう。さらに数人の創業メンバーが退職したことを機に、トップダウンの体制からボトムアップへと方針転換を図ったといいます。
「スタッフに希望を聞き取った後、一人ひとりに任せる体制にしたんです。振り返ると、私が少年時代に父親に反発したのは、自分を信用してまかせてほしいという気持ちがあったからではないかなと。私が人生をかけてやりたいことは、製品やサービスを通して、お客様の美しさを紡ぐこと。この想いを生産者や開発者、スタッフで共有しながら胸を張ってお客様に届けていきたいと思います」