太田接骨院院長、柔道整復師 太田 慶造
引くコロナ禍の影響で脊柱管狭窄症の悪化ばかりでなく認知症の発症も懸念されている
高齢化に伴って、足腰に痛みやしびれを引き起こす腰部脊柱管狭窄症(以下、脊柱管狭窄症と略す)が急増しています。脊柱管狭窄症は、ひざ関節・股関節などの変形性関節症や骨粗鬆症と並んで、ロコモティブシンドローム(以下、ロコモと略す)を招く三大要因の一つです。ロコモは、骨や関節、筋肉といった運動器の障害によって要支援・要介護になるリスクの高い状態のことです。ロコモを放置していると、健康寿命を縮めてしまう危険性が高まります。
加齢など、さまざまな原因で骨や軟骨、椎間板、靱帯が変形すると、背骨の腰の部分にあたる腰椎部の脊柱管が狭くなります。すると、脊柱管の内部にある神経や血管が圧迫されて血流も悪化し、神経に浮腫(水ぶくれ)や炎症が起こって足の痛みやしびれなどが現れるようになります。こうして起こるのが脊柱管狭窄症です。
長引く新型コロナウイルス感染症の蔓延で外出の機会が少なくなり、運動不足による筋力・体力の低下はご高齢の方の間では心身ともにかなり深刻な問題に発展する危険を含んでいます。脊柱管狭窄症をはじめ、すでに腰やひざ関節の痛みや障害をお持ちの方も、筋力低下による症状の悪化がないか、また何よりも行動を起こす気力自体が損なわれていないかなど、生活の変容が気がかりになることが増えてきています。
実際に、コロナ禍で心配な病気の一つは認知症といわれています。東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター)の研究班がまとめた『認知症予防・支援マニュアル』によると、対人接触が乏しい人はアルツハイマー型認知症の発症率が高くなるという報告があります。不要不急の外出を控えた自粛生活が1年以上も続き、他者との会話が減っている現状では、認知症になりやすい状態が続いているといっても過言ではないのです。
骨に刺激を与えて骨・筋力の増強や認知機能の改善に有効と話題の[太田式骨打ち整復]
このようなときにふと思い出すのが、三百年以上前の江戸時代を生きた儒学者であり、医師でもあった貝原益軒が著した『養生訓』です。「病になってから、苦い薬や鍼灸などの治療のお世話になるよりも、平素の生活習慣を正しく送ることで人生を長く楽しむことができる。それが『養生』の意とするところである」と説いています。そして、「短命なるは生まれつきて短きにはあらず」と断言し、「寿命は百歳を以て上寿、八十歳にて中寿、六十歳で下寿、五十歳以下は夭」としています。
特に、大切な養生の道としては「久しく行き、久しく坐し、久しく臥し、久しく視る」ことは禁物であるとしています。「久しく行く」以外は、まさにコロナ禍での現在の生活変容の戒めにも通じているのではないでしょうか。
そこで、今回は[太田式骨打ち整復]をご紹介します。[太田式骨打ち整復]は、骨に刺激を与えることで骨を老化させず、筋肉や腱、関節を緩めて動きを改善し、痛みも軽減させる「骨打ち療法」をセルフ整復にアレンジしたものです。
〝骨〟というと、〝骨粗鬆症〟や〝骨密度〟〝カルシウム〟などを連想される方が多いと思いますが、骨には最近まで知られていなかった〝骨ホルモン〟のすばらしい働きが報告されています。骨の働きには「①体を支える」「②脳・内臓を保護する」「③運動の起点となる」「④血液を作る」「⑤カルシウムやナトリウムなどの電解質を貯蔵する」などがありますが、近年の研究では骨が分泌するホルモンである「オステオカルシン」が大注目されているのです。
歩行や筋力トレーニングなどの運動によって骨に力(刺激)が加わると骨を作る細胞の働きが促進され、オステオカルシンという骨ホルモンが分泌されます。オステオカルシンは全身の臓器に働きかけるメッセージ物質で、筋肉や脳、精巣などに働きかけて筋力の増強や認知機能の改善、精力アップをはじめ、抗炎症作用、免疫機能の向上にも貢献する〝若返り物質〟として働くことが知られています。
さらに、オステオカルシンは膵臓にも働きかけ、インスリンの分泌を促したり感受性を高めたりして全身の糖・エネルギー代謝(食事で摂取したエネルギー〈糖質〉を各臓器が消費して活動し、余分なエネルギーは飢えに備えて蓄えて必要なときに利用するサイクル)をコントロールしています。一方、インスリンは骨芽細胞(新しい骨を作る働きを持つ細胞)のインスリン受容体を介して破骨細胞(骨を壊す働きを持つ細胞)の骨吸収を活発にして骨代謝(古い骨を壊して新しい骨を作るサイクル)を活性化し、さらなるオステオカルシンの分泌を促すという好循環を生み出すことが分かっています。
オステオカルシンは骨を新しく作る骨芽細胞の分泌物で、その一部は骨から血管を通じて全身に届けられます。運動や栄養の不足が骨粗鬆症を誘発することはよく知られていますが、長引くコロナ禍で外出の機会が減って運動量が低下すると、オステオカルシンの分泌量も減少して全身の老化が進んでしまうおそれがあるのです。
幸いにも、オステオカルシンは骨をたたく刺激によっても分泌されます。骨を打つ(たたく)療法は、東洋医学では『千金法』という医学書にある「叩歯」がよく知られています。歯をカチカチと軽く打ち合わせることを朝晩に36回ずつ行うことで、歯やあごを強くして脳の血液循環や胃腸の消化機能を促進するとされています。
そのほかにも「肩たたき」や「踵たたき」などは現在もよく行われていますが、強すぎる刺激は禁物です。適度な打法であれば、筋肉をたたいても骨を刺激することができます。
叩打の方法には数種類の技法がありますが、目的の骨の「浅・深」「長・短」などに応じた適度な「ひびき」を与えることが最も大切な技法となります。[太田式骨打ち整復]では、「叩」のようにコツコツとたたくのではなく、目的の骨にしっかりと「ひびき」を与える「快打」という打ち方をおすすめしています。
次に「高齢者に多い骨折部位」と「成人の造血部位」を比較してみましょう。両者には共通の部位が非常に多いことが分かります。骨折では「大腿骨近位部骨折(足のつけ根の骨折)」「脊椎圧迫骨折(背骨の骨折)」「上腕骨近位部骨折(腕のつけ根の骨折)」「橈骨遠位端骨折(手首の骨折)」が高齢者の四大骨折といわれています。
一方、成人の造血部位は「頭蓋骨」「下顎骨」「脊椎」「胸椎」「肋骨」「鎖骨」「肩甲骨」「骨盤」「上腕骨・大腿骨の骨端」などの海綿質に造血機能が残りますが、加齢とともに機能が低下して骨粗鬆症の影響を受けやすい部位でもあり、骨への刺激の少なさが脊柱管狭窄症や腰痛の隠れた一因となっている可能性も否定できません。特に、脊椎の造血髄は60歳頃から急激に減少し、70歳以降はその面積が半分以下になるといわれています。
しかし、骨も筋肉同様に年齢に関係なく強化することができる潜在力を秘めています。たとえ百歳で骨折しても、骨は骨として完全に再生することができるのです。ご高齢の方の場合は若い人のような回復スピードは望めませんが、骨折部やその周辺に刺激を加えることで骨癒合と新しい骨の再生を促進させる治療法も古くからよく行われています。つまり、脊椎においても適度な刺激を与えつづけることで造血細胞の働きを保ち、骨粗鬆症や脊柱管狭窄症の予防・改善が可能なのです。
今回は、脊柱管狭窄症や腰痛などに効果的な、腰周辺の[太田式骨打ち整復]をご紹介します。「骨密度」「筋力」「筋量」には、いずれか一つが増加するとほかも増加する「正の相関関係」が存在するといわれています。また、骨の「強度」は骨の「量」と「質」が決め手になります。骨は動かさなかったり重力や負荷がかからなくなったりすると、体が「強い骨は必要ない」と判断してしまってもろくなってしまいます。骨細胞に十分な刺激がかけられていないという方は、ぜひ[太田式骨打ち整復]を試してみてください。