復旦大学上海医学院顧問教授 森 昌夫
日本国内のみならず、世界中で社会問題になっている認知症。海外の大手製薬メーカーが次々と治療薬の開発を断念するなど、解決の糸口さえつかめていません。そんな中〝微小循環〟の研究を極めた森教授が取り組む「認知症ゼロの町プロジェクト」に注目が集まっています。
健康を回復するには〝康復医学〟が必要で微小循環の改善がなによりも大切と提唱
私が長年、教鞭を執っている中国において、康復医学(健康を回復する医学)は予防医学、治療医学と並ぶ第三の医学として存在しています。中国には日本のような個人経営のクリニックは少なく、医療機関の多くは大きな総合病院です。中国にあるほとんどの総合病院には、内科や外科と並んで「康復科」という診療科があります。
康復医学の対極といえる治療医学の代表は、西洋医学です。病気の原因を突き止めてピンポイントで治療する西洋医学は、感染症などの緊急医療に大きな効果を発揮しますが、老化に伴う体の機能低下や、痛みをはじめとする慢性的な疾患には対応しにくい面があります。
体調管理やリハビリ、処方された薬が正しく効いているかにいたるまで、「健康を取り戻したい」と願う患者さんやご家族の望みを受け入れるのが康復科です。具体的には、伝統生薬や整体、気功、鍼灸など、独自の立場から理論が確立された東洋医学を、健康回復の目的に沿って生かしています。
40年にわたり康復医学を研究してきた私が進めているのが「日本における康復医学の確立」です。中でも、焦点をあてたい病気が認知症です。
この数年、アメリカの大手製薬メーカーが立て続けに認知症治療薬の開発を断念しています。アメリカをはじめ、全世界が認知症問題の高い壁に突き当たり、解決策を見いだせないまま、時が過ぎているのです。超高齢化社会を迎える日本こそ、世界に先駆けて認知症の問題に取り組まなくてはいけません。
康復医学を実践するためになによりも欠かせないのが「微小循環」の改善です。わかりやすくいえば、毛細血管の流れをよくすることです。私たちの体に存在する血管の99%は毛細血管です。細胞が活動するために欠かせない酸素を体のすみずみに届ける毛細血管の流動性こそ、健康を回復させるために欠かせない要素なのです。
東洋医学では免疫が大切という学者や医師が多いですが、実は免疫以上に重要なことがあります。それは「瘀血」です。中国の伝統医学では、血流の滞りである瘀血の改善がすべての病気を治す基本と考えられています。認知症も同様で、血流をよくして脳内の神経細胞に酸素を届けることが欠かせないのです。
微小循環を改善させるために私が注目し、長年にわたって研究を続けているのが生薬です。中でも認知症を改善させるために最も有力と考えているのが「霊芝」です。「霊」は中国で最高を表す言葉で、霊芝は2300年前に書かれた中国最古の薬学書『神農本草経』において、瘀血を改善する上薬(最高ランクの生薬)に位置づけられています。
霊芝が微小循環の改善につながる理由として、主に以下の3つの物質を増やすことが挙げられます。
①2,3-DPG
赤血球が全身の細胞に酸素を届けるさい、酸素を切り離すために欠かせない物質。赤血球自体の能力も高める
②NO(一酸化窒素)
血管を広げて血流を改善する。高血圧の抑制や血管を柔軟にする働きもある
③GSH-Px(グルタチオンペルオキシダーゼ)
活性酸素を分解し、水に還元させる
健康を回復させる最高の生薬といえる霊芝の研究に没頭した私は群馬県の嬬恋村で栽培にもたずさわり、「HM-3000(特系霊芝)」という独自の霊芝を誕生させました。少しずつ広げていった栽培工場は現在、7000坪の広さになっています。昨年からはミャンマーでも栽培を開始し、嬬恋産と遜色のない霊芝を育てています。
栃木県市貝町を舞台に志のある人たちと「認知症をゼロにする」プロジェクトを開始
日本では古くから「黒焼き」という民間療法があります。世代によっては、子どものころにカゼを引いて、親御さんにナスの黒焼きを食べさせられた記憶をお持ちの方も多いかと思います。有効成分の質が高まったり、新しい成分が生まれたりする黒焼きは、健康に対する日本人の優れた知恵でもあります。
霊芝を黒焼きにしてみたところ、血液中の老廃物を吸着して排出する働きが得られることがわかりました。私が開発した「HM-3000(特系霊芝)」から抽出した霊芝エキスに黒焼き(霊芝炭化物)を混合させた健康食品は、慢性腎臓病など生活習慣病への効果も確かめられ、製造特許を取得しています。
私は以前、認知症の介護に疲れ果てた息子が親をあやめてしまった家庭の葬儀に参列したことがあります。縁あって葬儀に参列した私は、「こんなに悲しいことはない」と、涙が止まりませんでした。認知症は、患者さん本人はもちろん、家族の人生も壊しかねない病気なのです。
認知症の問題を国や製薬会社に任せてはいられません。私は40年にわたる研究者人生の集大成として認知症の問題に取り組んでいます。その第一歩として、栃木県市貝町を舞台に「認知症ゼロの町プロジェクト」を立ち上げました。入野正明町長や市貝町に支部がある認知症改善サポート日本協会と共同で、康復医学と微小循環をテーマにした「認知症を起こさない町作り」を始めています。
「日本から認知症をなくしたい!」という志のある人たちと、小さな町から革命を起こしたいと思っています。