腎機能が低下すると全身に影響が及び高血圧・貧血・骨粗鬆症などの危険も高まる
私は2016年4月に香川大学に赴任し、循環器・腎臓・脳卒中内科学教室を主宰してきました。2017年4月からは、香川大学医学部附属病院の循環器内科・腎臓内科・抗加齢血管内科間の連携をさらに強化し、心臓・腎臓・脳の専門医が一丸となり、地域医療の最後の砦として、患者さんの力になれるように取り組んでいます。
医療の高度化に伴い、医師は診療科目の専門性を高めていくことが一般的です。しかし、実際の臨床現場では、1つの専門分野からの視点のみでは対応が十分でないこともあります。
例えば、慢性腎臓病(CDK)の患者さんを診察するとき、腎臓の働きを評価するのみではなく、足の動脈に狭窄や閉塞はないか、心臓の血管が狭くなっていないかなど、体全体を診て総合的な治療を心がける必要があります。逆に、心不全の患者さんでは腎機能が低下することが知られています。また、心房細動という不整脈の患者さんでは脳卒中が高い頻度で生じるため、血液を固まりにくくする薬の投与を考慮する必要があります。さらに、高血圧の患者さんでは、心臓、腎臓、脳にかかわる血管の動脈硬化(血管の老化)が進展しやすいため、これらの器官が特に障害を受けやすくなっています。このように心臓、腎臓、脳は互いに連関していることがわかります。
腎臓は、人体を幅広くコントロールする〝司令塔〟の役割を果たしています。腎臓は血液をろ過し、尿によって老廃物を排泄するのが基本的な役割です。赤血球を作ったり、血圧を調整したり、塩分などのミネラルやホルモンのバランス調整にもかかわっています。そのため、腎臓の機能が低下するとさまざまな症状が生じます。水分が多いとむくみ、造血に不具合が生じると貧血、血圧を調整できないと高血圧、骨を丈夫にするためのホルモンが不足すると骨粗鬆症の危険性も高まります。
これらのさまざまな役割を果たす腎臓の機能が低下する慢性腎臓病の患者さんでは、心臓病、脳卒中、そして、下肢動脈の狭窄・閉塞の合併率が高まります。司令塔である腎臓の機能障害が少なからず影響していると考えられますが、因果関係やしくみは明らかでありません。しかし、いずれにしても心臓・腎臓・脳の間で何らかの悪循環に陥っていると考えられます。
慢性腎臓病の患者は腎臓のみに着目せず心臓・脳血管・下肢病変の受診も大切
慢性腎臓病の患者さんは大きなリスクを2つ抱えています。1つは、末期腎臓病への進行により、人工透析や腎移植などの腎代替療法が必要になることです。もう1つは、心血管疾患の発症により、健康寿命が短くなったり、死亡率が上昇したりすることです。実際、慢性腎臓病の患者さんは末期腎不全へ進行するよりも心血管疾患で亡くなるリスクのほうが高いことが知られています。
慢性腎臓病は早期の段階から食事療法や薬物療法を行えば、進行を遅らせることが期待できます。心臓病や脳卒中といった命にかかわる合併症を防ぐためにも、慢性腎臓病の早期発見と早期治療に努めましょう。
香川県では、慢性腎臓病対策協議会を2014年に発足させました。県内の特定健診と同時に腎機能の指標である血清クレアチニン値の測定を行い、健診で腎臓病の疑いがあるかどうかがわかるシステムを立ち上げ、早期発見・治療につなげています。慢性腎臓病と診断された人は、腎臓だけを気にするのではなく、腎臓に関連する心臓や脳も診察してもらうことが望ましいでしょう。