長崎呼吸器リハビリクリニック理事長 力富 直人
呼吸の乱れが原因で食事をとらなくなると栄養障害や体力低下で息切れが増す悪循環
かつて肺気腫や慢性気管支炎と呼ばれていたCOPD(慢性閉塞性肺疾患)は、長期間にわたるタバコなどの有害物質の刺激によって肺の機能が低下し、空気を吐いたり、吸ったりできにくくなる病気です。COPDになると酸素不足で息切れが生じやすくなり、呼吸をするだけでもたくさんのエネルギーを消費してしまいます。
COPD患者さんは、健康な人よりも多くのエネルギーが必要です。ところが、息苦しさなどから食欲が低下し、栄養不足に陥る人が少なくありません。
慢性的な呼吸の乱れは、食事量の減少や胃腸の働きの低下、運動不足を招いて栄養障害や筋肉の萎縮を引き起こします。そのため、COPD患者さんには痩せ型の人が多く見られます。
COPDが悪化すると、呼吸や生活動作にますますエネルギーが必要になります。すると、息切れがひどくなって食事がいっそうとりにくくなる悪循環に陥ってしまいます。その結果、痩せが進行してQOL(生活の質)が低下するだけでなく、命に関わることもあるのです。
海外での調査によると、痩せ型のCOPD患者さんはそうでない人に比べ、3年後の生存率が30%以上低下すると報告されています。命を守るためにも、毎日の食事で十分なエネルギーと栄養素をとることが不可欠なのです。
一方、COPD患者さんの中には体重が増加し、肥満傾向になる人も見られます。内臓脂肪が蓄積すると、横隔膜の動きが低下します。すると、呼吸がうまくいかなくなって酸素が不足したり、二酸化炭素がたまりやすくなったりするため、息苦しさを感じてしまうのです。
さらに、肥満は高血圧、糖尿病、心筋梗塞などの慢性疾患を引き起こす原因となります。肥満型のCOPD患者さんは医師や管理栄養士と相談し、1日に必要なエネルギー量を把握して適切な食事制限と運動に取り組みましょう。
COPD患者さんは痩せ型・肥満型のどちらのタイプでも、適切な体重に戻して維持することが大切です。適切な食事と運動を組み合わせることで、息切れが軽減して活動範囲が広がり、QOLも改善されます。毎日の食事の内容を整え、体重を測る習慣をつけましょう。
エネルギー量確保には油や調味料の有効活用が大切でミネラル豊富なゴマ類もおすすめ
COPD患者さんの1日に必要とする安静時エネルギー消費量は、健康な人の約1.2~1.4倍と考えられています。食欲がないからといって食事を抜いたり、簡単に済ませてしまったりすると、必要なエネルギー量や栄養素が不足してしまいます。1日3食のうち、1回の食事で多くの量を食べられない場合は、食事の回数を増やしたり、間食をとったりして必要なエネルギー量を確保しましょう。規則正しい食事のほか、十分な睡眠や運動といった生活のリズムを整えることも重要です。
COPDに負けない体を維持するためには、十分なエネルギーや筋肉を作る良質なたんぱく質をはじめ、ビタミン、ミネラルなどの栄養素をとる必要があります。糖質(炭水化物)中心の食事は栄養のバランスが偏るほか、二酸化炭素が多く発生して血液中に蓄積する可能性があります。また、炭酸飲料やサツマイモなどの胃にガスがたまりやすい飲食物は、おなかが膨れて食欲が低下したり、横隔膜の動きを妨げて呼吸をしにくくしたりするので控えましょう。
効率よくエネルギーをとるには調理方法の工夫も大切です。油はエネルギー量が高いため、積極的に活用しましょう。ゆでたり蒸したりするだけでなく、毎日の献立にいため物や揚げ物を取り入れてください。例えば、煮物を作る際はあらかじめ材料を油でいためてから煮るのがおすすめです。ひと手間かけるだけで油を自然に取り入れることができ、さらにコクやうまみも引き出されます。
油を使わない献立のときにはマヨネーズやドレッシングといったエネルギー量の高い調味料を使いましょう。ご飯をチャーハンやピラフにしたり、トーストにはジャムやバターを塗ったりすることで、エネルギー量を簡単に増やすことができます。
特に、ゴマやゴマ油は使いやすい調味料です。食材にゴマなどの種実類を加えると、エネルギー量を増やせるだけでなく、カルシウム、マグネシウム、リンといったミネラルもとることができます。ミネラルは呼吸筋の収縮のほか、骨や歯の形成に関わっており、骨粗鬆症の合併が多いCOPD患者さんにとって欠かせない栄養素です。
息切れがひどくなると食事や運動がおっくうになりますが、体を動かすのに必要なエネルギー量や運動量が不足すると、手足の筋肉が弱ってさらに動かなくなり、結果としていっそう息切れや疲労感がひどくなってしまいます。無理のない範囲で体を動かして体力をつけ、食事をしっかりとることで、悪循環を断ち切りましょう。