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透析患者は食物繊維不足や水分除去に伴う便秘が深刻で腸穿孔を誘発し腎不全も進行

糖尿病・腎臓内科

原三信病院腎臓内科部長 満生 浩司

カリウムの制限や透析の除水で便秘が進行し末期では腸穿孔の危険大

[みついき・こうじ]——1990年、九州大学医学部卒業、同大学第2内科入局。1998年、松山赤十字病院腎センター副部長、2008年、福岡赤十字病院腎臓内科副部長、2016年、同病院腎臓内科部長を経て、2021年より現職。日本内科学会認定内科医・総合内科専門医、日本腎臓学会専門医・指導医・評議員、日本透析医学会専門医・指導医・評議員・理事、日本移植学会移植認定医。

近年、慢性(まんせい腎臓じんぞう)(びょう)(CKD)や透析(とうせき)に関連する学会では、便秘に関するテーマが取り上げられることが多くなりました。〝便秘〟というと、一般的には疾患というよりも健康状態を示すバロメーターととらえられていると思います。しかし、人工透析を受けている患者さんにとって、便秘は生命にも関わる重要なテーマなのです。

便秘についてお話しする前に、まずは人工透析について簡単に解説しましょう。人工透析は、本来なら腎臓が担う血液の浄化を人工的に代行する治療法です。人工透析には、血液透析と腹膜透析の二つの方法があります。

血液透析は血液ポンプによって血液を体外に出し、ダイアライザーという人工腎臓(人工膜)を通して浄化する治療法です。原則的に利き手ではないほうの腕に、血液の出入り口であるブラッドアクセス(シャントなど)を造設する手術を行う必要があります。

日本では、ほとんどの透析患者さんが血液透析を選択しており、治療できる医療機関が多くあります。さらに、血液透析は一般的に腹膜透析よりも尿毒素や余分な水分の除去能力が高いといわれています。

次に、腹膜透析について解説しましょう。腹膜はおなかの中にある内臓の表面を覆っている薄い膜のことで、腹膜透析とは腹膜を介して透析を行う治療法です。腹膜の中に透析液を入れておくと、体内の尿毒素や余分な水分が透析液に吸い込まれていきます。定期的に透析液を取り除いて新しい透析液を入れる作業を繰り返すことで、血液が浄化されます。

血液透析と腹膜透析には表のようにそれぞれ違いがありますが、腹膜透析患者さんはより便秘になりにくいことが明らかになっています。海外の論文では、便秘の合併率は血液透析患者さんが約60%なのに対し、腹膜透析患者さんは約30%と報告されています。

慢性腎臓病の患者さんは便秘になりやすく、末期腎不全にまで進行して透析を受けている患者さんは便秘の症状も進行していると考えられます。便秘の原因はさまざまで、原疾患の糖尿病で神経障害を合併すると腸の働きが悪くなりますし、体に蓄積された尿毒素が腸内の善玉菌と悪玉菌のバランスをくずして便秘をもたらすこともあります。さらに、便秘の大きな原因として、カリウムの制限が挙げられます。

慢性腎臓病を発症するとカリウムをろ過して体外に排泄(はいせつ)する機能が衰えるため、摂取制限が必要になります。カリウムは、野菜やイモ類など、食物繊維を含むものに多く含まれています。カリウム制限は食物繊維制限と同義であり、食物繊維不足が便秘の原因となってしまうのです。

一方、血液透析自体も便秘の原因になります。血液透析を1回受けた際の除水量は、体重の3~5%以内が理想的とされています。例えば、体重が60㌔であれば、理想的な除水量は1.8~3.0㌔です。ただし、血液透析を受けると短時間で多量に除水されるため、全身が非常に乾燥した状態となります。腸も例外ではなく、便の水分量や腸管の血流量が減少してしまいます。虚血状態になった腸の動きは鈍くなり、便秘が誘発されることになるのです。

また、血液透析中は基本的に自由に動くことができないため、患者さんは治療中の排便を極度に嫌います。慢性便秘症の患者さんの場合は下剤を毎日服用することが推奨されていますが、透析患者さんの場合は透析を受けた後や透析治療を行わない日だけに下剤を服用する方が珍しくありません。不規則に下剤を服用することで、かえって便秘を引き起こしてしまっているのです。

透析患者さんにとって排便管理は、血清リンの数値や貧血の管理などと同様に全身状態に影響を及ぼす可能性があります。透析患者さんの中にはご高齢の方も多く、透析中だけではなくふだんからあまり動かずに生活する方も少なくありません。例えば、便秘が末期の状態で長時間姿勢を変えないでいると、硬くなった宿便(腸内に長期間たまっている大便)が腸の一点に圧力をかけつづけることになります。最悪の場合、腸に穴があく(ちょう)穿孔(せんこう)を引き起こしてしまうおそれがあるのです。

また、腸内に宿便がたまった状態では、ドライウェイト(体内の水分量が適正な状態の体重)の設定・管理が困難になります。宿便が多い場合の体重の差は透析時の水分除去量などにも影響し、過除水のために血圧が急低下して嘔吐(おうと)や意識障害などのショック症状を引き起こし、場合によっては生命に危険が及ぶことさえあるのです。ドライウェイトの調整不足から便秘が起こっている可能性がある場合は、医師や看護師とともに見直すことも大切です。

私たち医療関係者はもちろん、患者さん自身も日頃から便秘には注意を払うようにしましょう。食事療法ではカリウムの制限の範囲内で食物繊維を意識的にとるように心がけてください。

下剤を有効活用することも大切です。飲み方が分からないという人は、自分の感覚を信じるようにしてください。下痢(げり)ぎみになれば飲みすぎですし、便が残っている感覚があれば頻度や量が足りません。頻度や回数ではなく、飲むタイミングが不規則にならないように服用して自分がスッキリと出しきった感覚を維持できるようにしましょう。

また、適度な運動もおすすめです。最初からハードなものに取り組む必要はありません。最初は簡単な散歩から始めてみてはいかがでしょうか。

最近では、便秘がある人は便秘がない人に比べて腎不全の進行が早いと報告されるようになりました。便秘を全身管理の一つとしてとらえることは、透析患者さんの生活の質を高めることにつながります。「たかが便秘」と侮らずに、正しく管理していきましょう。