めまいや耳鳴りは原因を特定するのが困難だが、ツボ刺激で症状の改善が見込める
目がかすんで目の前が暗くなることを「眩」、外界がグルグル回ったり、揺れ動いて見えるものを「暈」といい、この2つはしばしば同時に起こるため、めまいを「眩暈」と表記します。また、めまいには耳鳴りが併発することも珍しくありません。
めまいや耳鳴りの原因は、動脈硬化(血管の老化)や騒音、老化現象、自律神経の乱れ、首や肩の凝り、更年期障害、ストレスなど、多岐にわたります。めまいや耳鳴りの原因を特定するのは難しいものの、耳の不快症状を改善する方法の1つにツボ刺激があります。
ツボ刺激の代表格といえる鍼灸は、中国の伝統医学である中医学の影響を受けて日本独自に発展した、漢方医学の治療法の1つとして普及してきました。漢方医学には、漢方薬だけではなく、鍼灸やあん摩、養生(生活指導)などがあり、それらを組み合わせて最も有効と考えられる治療法を提供します。
漢方医学は、まず「証」を立てるところから始まります。「証」を立てるとは、患者さん1人ひとりの体質と病気の症状に対する反応や経過、病気の起こり方の見定めのことで、診断の基本になります。「証」には陰陽・虚実・寒熱・表裏・気血水などがあり、これらをものさしとして組み合わせ、体の状態と症状を総合的に捉えます。近年、西洋医学でも理想とされているテーラーメイド医療を、漢方医学では数100年以上も前から実践してきたのです。
漢方医学で最も重視する「証」は「気血水」です。「気血水」は、体を構成する重要な要素で、互いに影響を及ぼし合っており、どれか2つのバランスが乱れると「未病(病気に向かいつつある状態)」、3つすべてのバランスが乱れると「病気」と捉えられます。
「気=自律神経機能」「血=血液循環・内分泌(ホルモン分泌)機能」「水=免疫機能」といい換えると分かりやすいかもしれません。「気血水」は、外部環境が変わっても体内環境を一定に保ち、生命を維持するしくみである「ホメオスタシス(生体恒常性)」を支える三大要素なのです。
「気血水」が流れる経路のことを「経絡」といいます。経絡は体の左右半分に12本ずつあり、全身をくまなく覆い、互いに関連し合いながら全身の内臓を調節しています。そのため、肝経、心経、脾経、肺経、腎経などと内臓の名称がついています。経絡を鉄道の線路にたとえると、ツボ(経穴)は、経絡という線路上にある駅ということができるでしょう。
経絡の流れが滞ったり内臓に異常があったりすると、その不調はツボに反映され、硬くなったり腫れたりして、圧痛(体を指先などで圧迫したときに生じる痛み)が強くなります。このようなツボを刺激することで「気血水」の流れを改善し、内臓の働きを整えることができます。主なツボの刺激方法には、鍼・お灸・手技(あん摩、指圧)の3つがあります。
約365個あるといわれるツボの中でも、重要とされるものがいくつかあります。それらは神経や血管の近くに位置することが多く、「温痛覚」や「触圧覚」といわれる鍼灸や指圧による刺激が感覚神経に直接働きかけて筋肉の凝りをほぐしたり、血流を改善したりする効果が期待できます。また、刺激は脊髄を経由して大脳にも伝わります。大脳は刺激を受けた特定の部位の不具合を調節する指令を出し、体の不調を改善するのです。
最近では、鍼灸や指圧による刺激は、脳の前頭葉の血流を増加させることが分かってきました。前頭葉は思考や創造性を担う脳全体の司令塔と考えられ、生きていくための意欲や、情動に基づく記憶、実行機能などをつかさどっています。
めまい・耳鳴りの原因の1つは脳の血流不全で頭と首の境目にあるツボ刺激がおすすめ
目・耳・鼻などの不調は、内・外頸動脈と椎骨動脈といった脳に血液を送る太い血管の異常が原因であることが少なくありません。めまいや耳鳴りも例外ではなく、脳や内耳の血流不全が原因の1つと考えられています。特に、加齢による筋力の低下や長時間のデスクワークなどでネコ背の姿勢になると、正面を向こうと頭を上げるため、首や肩の筋肉が凝って脳や内耳への血流が物理的に妨げられる可能性があります。
めまいや耳鳴りなど、耳の不快症状を改善する特効ツボとして、私がおすすめしているのが後頭部と首の境目にある「風池」です(首・肩の特効ツボの図を参照)。「風池」は、昔から自律神経の安定やめまい・耳鳴りに有効とされてきました。
「風池」の辺りの筋肉が硬くなったり縮まったりすると、奥を通る椎骨動脈に負担がかかる可能性があるため、これらの特効ツボの刺激が後頭部付近の筋肉を緩めるために効果的です。両手を後頭部に当てて、親指の腹で気持ちいいと感じられるくらいの強さで指圧してください。ただし、指圧しすぎると、もみ返しなどの反応が出る場合がありますので、注意が必要です。
また、耳鳴りの治療には「翳風」という耳たぶの下のくぼみにあるツボが使われます。少し響くぐらいの強さで刺激してください。